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75話 王太子アニマシオン2 グランデside

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 転移魔法の出発点となる、騎士団本部の中庭に来るまでに、王太子アニマシオンはグランデから抜け目なく、アスカルと結婚した経緯けいいを聞きだした。

 好奇心がようやく満足すると、王太子はグランデに会いに来た、本来の目的を語った。


「つまり治療師アユダルの下に、殿下が選んだオメガたちを見習い待遇たいぐうでつけて、実力を詳細に確認したいのですね?」

「ああ、私の依頼を引き受けたオメガたちは、名家の血筋ではあるが本流ではないから… その辺りの評価が少し曖昧あいまいなんだ」
 難しい顔をして、王太子アニマシオンは自分の顎をなでた。
 
「つまりアユダルのように両親ではなく… 祖父母のあたりが名家出身者で、治療師の血と能力は受け継いでいるが、正式に治癒魔法を学んだことがない…? だから先にそれぞれが持つ魔法の技術力を測りたいと…?」 

「そうだ! 治癒魔法の名家と呼ばれる家のオメガたちには、すべて断られたが… アユダルの実家のように、貴族の中でも借金や貧困で、毎日の生活にも困るような者たちだけが、私の依頼に応じたのだ」
 スウーッ… と王太子の顔に、冷笑が浮かぶ。


「まぁ予想通りですね! オレたちが魔王討伐とうばつに失敗すれば、王国が滅亡するというのに、愚かにも裕福な貴族たちは、ここまで来ても品格とプライドを守ろうとしているのだから… これほど、バカバカしい話はないな!」

 王太子の話を一緒に聞くうちに… 甘えた貴族のオメガたちとは違い、正確に状況を読み取り、表情が険しくなってしまったアスカルを、グランデは微笑みながら見下ろした。 
<オレは本当に最良の妻を得たな…!> 


「私もそう言ってオメガたちを説得したが… 魔王を討伐した後の心配ばかりしているのだ… まったく、気が早すぎるだろう?!」

「それだけ、オレたちを信頼しているから、心配していないと、言われるのなら悪い気はしないが… バカ公爵(エキボカル公爵)が大型の魔獣を殺せば“英雄” “勇者” とたたえられるのに… オレが同じことをすると、なぜか“血に飢えた野蛮人” とさげすまれるからな…」

 ハッ… と息をのみ、アスカルは怒りで目をり上げ、悔しさでギリギリと歯ぎしりをすると、グランデの太い腕にギュッとしがみつき…
 僕はグランデ様を心から信頼していますよ! …と言葉ではなく態度で伝えて来た。


 レガロ伯爵夫妻のそんな仲睦なかむつまじい姿を見て、王太子の顔から冷笑が消え、穏やかな笑みが浮かんだ。

「そう、ねるなグランデ!! 無事に魔獣討伐が終ったら、私がお前を“英雄の中の英雄” “勇者の中の勇者” と褒め称えてやるから!!」

「今さら、そんな恥ずかしいの、オレには必要ありません!」
 悪魔のように凶悪な顔で、グランデは嘲笑を浮かべた。

「何を言っている、グランデ! 私は美しい奥方のために言っているのだ」

「ううっ?!」
 グランデがアスカルを見ると、淡い藤色の瞳をキラキラさせて…
 そんなグランデ様が見てみたいなぁ~! と可愛く訴えかけて来た。


「野蛮な野獣騎士よりも、英雄や勇者のほうが、奥方だって絶対に喜ぶだろう?」

「・・・・・・」
 アスカルは王太子の言葉に反応し、コクッ… コクッ… と嬉しそうにうなずいた。



 グランデは何とも言えない、微妙な気持ちになる。







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