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73話 転移魔法

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「よし! ご先祖様の遺産を調べに、さっそく本邸に確認しに行くか!」
 自分の太ももをパンッ… とたたくと、グランデはサッ… と腰をあげた。

「え? 今からですか?! 田舎の本邸に?!」
 手記を上着の内ポケットに入れ、アスカルもあわてて腰をあげる。

「お前の言う通り、“思い立ったら吉日” さ!」
 執務机の引き出しを開け、グランデはごそごそと奥の方から何かを出した。

「あ―――っ?! それっ?!」

「これを使えば、すぐに行けるからな」
 グランデの手には、黒騎士団の騎士団長にだけ使用が許可されている、緊急時用の転移魔法専用の魔道具(国宝級)があった。

「で… でも、向こうの位置を正確に記憶させるのを忘れていたから… それは使えないとグランデ様が…」

 驚くアスカルの腰を強引に引きよせ、グランデは唇をチュク… チュク…ッ チュチュ…  と熱烈ねつれつに奪った後、何かを誤魔化すようにニカッ… と笑う。

「嘘だ」

「は?」

「あの時はお前を本邸へ返したくなかったから、嘘をついた、すまん!!」
 アスカルの肩をグランデは、ぽんっ… とたたいた。

「ええええええ~~~?!」
<もしかして… グランデ様は目的のためなら手段を選ばない人なの?! うううう~ん…? さすがだと、尊敬するべきか? 狡猾こうかつだと怖がるべきか? うう~ん…?>

 幸せの中にいるアスカルはすっかり忘れているが、そもそも転移魔法を本邸から王都へ戻るのに使った時も、グランデはしたたかにアスカルをだまして連れ出している。

 誠実で清く正しいだけの人物だったなら、前騎士団長も王太子アニマシオンも、グランデを黒騎士団の騎士団長に選びはしなかっただろう。 

 貴族の中では身分が高いエキボカル公爵が、騎士団長に選ばれなかったのも、魔力の強さ(グランデの方が強い)だけでなく… 
 魔獣との戦いに必要な、グランデの不屈の精神を育てた、多難な人生経験も考慮こうりょされた。


「初めて田舎のレガロ伯爵家の本邸にオレが行った時は、転移魔法に必要な正確な位置がわからず… オレは馬で何日もかけて旅をすることになった」

「ああ、なるほど! 便利な魔法でも、先にそのような手間があるのですね?」

「うん… だが一度本邸に行き、現地から騎士団本部へもどった時に、出発点が魔道具に記録されたため、転移魔法で往復できるようになったというわけだ」
 
 逆に言えば、一度現地に行き、魔道具に正確な位置を記録させなければ、転移魔法が使えないのだ。


「でも、グランデ様… 緊急時用のものなのに、こんなふうに私的な用事で、乱用しても良いのですか?」
 王太子殿下あたりに怒られないかと心配になり、アスカルはたずねてみると…

「魔王討伐とうばつに使えそうな、魔道武器を調べに行くのだから、少しも私用ではないだろう? んん?」

「ああ!」

「さぁ、外に出ようアスカル、さすがに執務室では転移魔法は使えないからな」

「この間戻って来た時に、荷物と一緒に僕たちが立っていた場所ですね?」

「そうだ!」





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