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世話焼き侍従と訳あり王子 第四章

3-2 侍従の都合

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 エリオットは、姿勢よくハンドルを握るベイカーの後姿をながめる。自分たちの都合に振り回される彼らのことが、気の毒になって来た。

「呼び寄せておいてなんだけどさ、ベイカーは急にこっちへ来て大丈夫だったのか?」

 サイラスは、離宮を任せていると言っていた。ベイカーはもう引退していてもおかしくない年齢だが、表向きそこで静養している第二王子の世話係として、アリバイ作りのために異動させられたのではないのか。

 だったら、いきなり「王宮にいるから来い」って、なにさま? いや、王子さまなんだけど。

「ベイカーって、いまどういう立ち位置なの?」
「離宮の管理が主な業務となっておりますが、わたくしは現在も、『殿下』の筆頭侍従の任を解かれてはおりません」
「あ、そうなんだ」

 王族の身の回りの世話をする侍従は、業務が多岐にわたり拘束時間も長いため、数人のチーム制をとっている。そのリーダーが筆頭侍従と呼ばれ、担当するチームに責任を持つ仕組みだ。ちなみに、よく勘違いされるのだが、侍従長は彼らを束ねる事務官なので、王のそばに侍っているわけではない。

 どう言うわけか、サイラスと「仲がいい」ようだが。

「当時お仕えしておりましたほかの二名も、現在は離宮におります」
「本当に?」
「はい。国王陛下かサイラスさまの班へと言うお話もございましたが、殿下がおいでになるところへ、侍従がお供しないなどあり得ぬことです。全員が離宮への異動を願い出て、陛下がお許しくださいました。実際にお側にお仕えできぬ身で侍従を名乗るなど、お恥ずかしい限りではございますが」

 知らなかった。エリオットのチームは、とっくに解散しているものとばかり思っていた。扱いづらい子どもで、そんな忠心を示されるような主人ではなかったはずなのに。

「……近いうちに時間作って。顔出しに行く」
「お気遣いありがとうございます。ご立派になられたお姿を拝見できれば、彼らもさぞ喜ぶでしょう」

 しかしそうなると、「エリオット王子」について離宮へ移ったベイカーが、ひとりで王宮にいるのはまずくないか。

「王子をほっぽり出して来たって思われてるんじゃないの?」
「ご心配には及びません。問題にならぬよう、手は打ってございます」

 力強くベイカーが請け負ったところで、ポロはフラットの前に到着した。歩道に沿って二ブロック先まで路上駐車の車が連なっていて、いかにコンパクトカーでも突っ込む隙間はなさそうだ。 渋滞を引き起こしては後続車にひんしゅくを買うので、エリオットはさっさとドアを開け車を降りる。

「ここでいいよ。ありがとう」
「はい。またご連絡を差し上げます」
「うん」

 エントランスで振り返ると、それを見届けたように後続へハザードを焚き、ベイカーが車を発進させた。
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