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世話焼き侍従と訳あり王子 第四章

3-3 自我の目覚め

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 ベイカーが打った「手」とやらは、その夜に電話をかけてきたナサニエルから知らされた。

『愛しの子猫ちゃん、調子はどう? サー・ブランシェールに会ったんだって?』

 エリオットが、儀式用の衣装を手掛けるデザインと縫製工房のオーナー、ブランシェールと会ってから、まだ半日と経っていない。相変わらず耳が早い友人だ。

「気分なら最悪。デザイン画を見せられたけど、あれを着るくらいならおれは修道院に入る」
『君がミサで賛美歌を歌ったら、迎えが来たと勘違いした人の列で渋滞が起きるだろうね、エンジェル』

 そんな状況になったら、おれが先に召されるわ。

 数々のコレクションで高い評価を受ける優秀なデザイナーなんだよ、と言うナサニエルの話を聞きながら、エリオットはスマートフォンを肩ではさみ、ローテーブルに放置したままのマグと新聞を押しやる。空いた隙間にラザニアのアルミ皿を置いた。それから足元に丸まるブランケットをよけて、肘掛け椅子に座る。

 バッシュが通ってこなくなった数日で、フラットはすっかり自堕落を取り戻していた。作り置きされた食事は二日でなくなり、冷蔵庫は水と栄養ゼリーだけ。フリーザーには冷凍食品が幅を利かせている。

「優秀なわりに、古臭いデザインだったけど」
『伝統ある王室の儀式だから、ある程度制限があるんじゃない? 前例を踏襲したとか』
「たしかに。前にヘクター卿が着たのに似てた気がする」

 時代への適応と、保守的な立ち位置を同時に要求される王子として育ったエリオットは、自分用に差し出されるものは普段着にも盛装にも異を唱えたことがなかった。周りが選んだものなら、その場ごとに細かく決められたマナーに反することも、人から眉をひそめられるような取り合わせになる間違いもないからだ。しかしだれの目にも触れないフラットでジャージやスウェットの快適さを知ってしまったいまでは、堅苦しいスーツなどが「着たくない服」に分類されている。これが自我と言うものだろうか。

 二十三歳にして、ずいぶん遅い目覚めだな。

『サーと一緒に、猫っ毛のお針子が来なかった?』
「あぁ、来た。危うくメジャーで縛り上げられるところだった」
『彼女、いいモデルを前にすると興奮するんだ。メルが来たなら大丈夫。きっといまごろ、きみに似合うものを作るために、サーのお尻を叩いてデザインからやり直させてるよ』

 その力関係おかしいだろ。
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