溺愛三公爵と氷の騎士 異世界で目覚めたらマッパでした

あこや(亜胡夜カイ)

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8.-16

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 レオン様はよくも悪くも有言実行のひとだった。

 アルフのところへ行って帰った日の夜、お留守番をしてくれたユリアスへは「明日報告する」と使いを出したきり、食事もそこそこに私を寝所に引っ張り込んで(下世話な表現だけれど誇張ではない)、夜明けまで私を貪った。

 いいかげん、「お仕置き」には抗議しようと思っていたのだけれど、その日は違った。激しいのだけれど、ひたすらひたすら私に甘い言葉を囁き、全身を愛撫して、私をぐずぐずに蕩かせて抱き続けたのだ。羞恥プレイでも緊縛プレイでもなく(そう。傷つけるほどではないとはいえ、レオン様の趣味は多岐にわたりお仕置きの際には縛られることもあったのだ)、胸が苦しくなるほど甘やかに、優しく、激しく。

 そして明け方。気絶というより疲労で眠りに落ちる寸前のこと。

 「俺が君を独占できるのももうすぐ終わりだ」

 レオン様は確かにそう言って、体力だけではなく、疲労困憊のあまり思考力まで失っていた私がその意味を訊ねる前に、その日最後の欲を私の中で解放したのだった。



******
 


 それから数日が瞬く間に過ぎて、明日にはシグルド様が帰還する、という頃。

 城内はもちろん、アルバの街にもそれは知れ渡っていて、歓迎の準備やなんやかや、賑やかなざわめきがエヴァンジェリスタ城の奥深く、最上階にいる私にまで伝わってくるようだ。

 私は早めの夕食とお風呂をひとりで済ませて、居間の窓辺でぼんやりと外を眺めていた。

 侍女さん達を遠ざけて、広い居間にひとりきり。レオン様はお昼に一度戻ってきて、昼食を一緒に頂いたのだけれど、またすぐ行ってしまった。「リリー隊長は無事に回復したらしい」「今日は忙しくて戻れない。執務室の奥で寝ることになりそうだ」そう言って私を抱きしめてから。

 ──アルフが無事だった。回復した。
 私はお昼から何度もそのことを反芻しては、そのたびに安堵のため息を吐いていた。

 投薬のあと、丸一日たってから「危篤状態は脱した」という知らせは受けたものの、その後の情報が全くなかったので、実はとても心配だったのだ。あまりに酷い状態だったから、命はとりとめても長患いになるのではないか、とか、何かの後遺症が残るのではないか、とか。レオン様によれば、もちろん体力は落ちているが、床上げをして兄のもとへ行ったらしいと。

 無事に回復、と聞いて涙ぐんでしまった。
 レオン様はそんな私を見てももう意地悪を言うこともなく、間に合ってよかったな、と言って私をだきしめて、頭を撫でてくれたのだ。

 本当によかった。
 
 回復したアルフは、いつ城に戻るのだろうか。戻るかな?戻ってくれるよね?今度はちゃんと顔を見に行こう。その時は、彼が贈ってくれた葡萄の首飾りと指輪をしたら喜んでくれるかな?

 ……でもあれを身に着けるとオルギールが。
 ここまで考えて、私はふるふると身震いした。思い出すだけでも冗談ではなく悪寒がする。

 買ってもらったばかりの首飾りをしていたら、なにかのスイッチが入ったらしいオルギールに物凄く恥ずかしくてイヤらしいことをされたのだった(もっと言うと、うなじは結構痛かった)。

 あれ、とても綺麗なのに。気に入ったのに。そもそもオルギールが戻ってこないと、どこにあるかもわからないし。侍女さんに聞いてもきっと知らないよね。というより、「レオン様以外のどちらの殿方の贈り物ですか!?」と息巻いてしまって、所在を聞くのはやぶへびのような気がする。

 お土産を、公爵様方に渡したいし。
 私は葡萄の首飾りも指輪も有効活用したいし。
 イヤらしいお仕置きは困るし。

 「──リヴェア様」

 一体どうしたらいいのか。
 
 まず、彼の機嫌のいいときを見計らわなくてはならない。
 無表情の「氷の騎士」だけれど、温度の変化というか、わずかな目つき、唇の動き、声色で私にはわかる。機嫌の悪いときほどはわかりやすくないけれど、きっと機会はある。
 その時を捉えて、「ウルブスフェルで私が持っていたお土産はどこにあるの?」と自然に聞けばいい。

 「リヴェア様」

 自然、というのが一番難しい。「さらっと」言えるだろうか。
 そもそも、どういう状況が一番機嫌が良くなるだろうか?まずはそこから……

 「リア。ただいま帰りました」
 「え?」

 すぐ後ろでやわらかく呼ばれて。それも、「リア」と、二人のひとにしか呼ばれない名で呼ばれて、驚いて振り返ってみれば。

 「オルギール……」
 「リア、私の姫君。戻りました」

 輝く銀色の髪。最高級の紫水晶(アメジスト)のような瞳。記憶通り、というより、記憶以上に冴えわたる美貌。

 その彼が、氷どころか、氷山すら溶かすような甘い笑みを浮かべて、私を見下ろしている。

 「オルギール」
 「何を考えておられたのですか?リア」

 いつ帰ってくる、という前情報が全く無いままにいきなり眼前に現れたオルギール。
 まだ、脳内の情報処理が追い付かない。いつまでもぽかんとして彼の名を呟くばかりだ。

 オルギールはくすりと笑って距離を詰めると、私を抱きしめた。
 髪に、何度も唇が押し当てられる。懐かしささえ感じる、二人きりの時にはいつの間にか当たり前になっていたオルギールの仕草。

 「呼びかけても返事も頂けなくて。……寂しかったですよ、リア。何を考えておられたのです?」
 「オルギール……」

 甘い言葉、甘い声に陶然としたまま「葡萄の首飾りはどこ」とうっかり答えそうになるのを堪えて、抱き締めるオルギールに擦り寄る。

 「オルギールのこと考えていたの」

 ある意味、間違ってはいない。嘘は吐いていないはずだ。
 オルギールは、ふふ、と声を立てずに笑った。

 「上手に逃げましたね。まあ、いいでしょう」

 ちょっと怖いことを言いつつ、彼は私を軽々と縦抱っこにして移動すると、ソファに腰を下ろして私を膝に乗せた。これまた、お馴染みの体勢である。

 レオン様とオルギール。二人の「お膝乗せ」は私の中で定番となっていて、ここは人前でもないし、自分から下りようなどとは全く思わない。

 膝の上で抱き込まれ彼の胸に顔を寄せれば、わずか半月ていどの別離に過ぎないのに、ようやく会えたこと、会いに来てくれたことが嬉しくて、彼のことが慕わしくて、胸もからだも熱くなる。

 ようは再会に感激するあまり、気の利いた事もろくに言えず、頭に血が上ったまま黙っていたのだけれど、オルギールはオルギールで言葉は不要と判断したらしい。
 
 おとなしく彼に抱かれて擦り寄る私の、額に、頬に、瞼に、耳に、唇に、うなじに……と、首から上のすべてにくちづけを落とし、舌を這わせながら、リア、私の姫君、とだけ、ひたすらにうわごとのように呟き続けた。 

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