溺愛三公爵と氷の騎士 異世界で目覚めたらマッパでした

あこや(亜胡夜カイ)

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8.-17

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 「氷の」という二つ名とは相反する、熱の籠った瞳、声、柔らかな唇。ざらりとした熱い舌の感触。
 
 明るい室内でこんなことをされて恥ずかしいのに、それをはるかに上回る快感と歓喜に眩暈がする。
 オルギール、と繰り返し呼ぶたびに、リア、と呼び返してくれる。

 幸せ。安心する。うっとりする。

 恍惚として目を閉じかけたとき、

 「あ!!」

 大きな声が出てしまった。
 服の上から胸の先を口に含まれ、強めに吸いあげられたのだ。

 アルバの「花月」の宵の口。寒くはないし、誰に会う予定もなく、浴室を使ったらあとは寝るだけだから、実は胸当てをしていない。あっさりとしたデザインの柔らかな絹の室内着は、私が頼んで作ってもらったいわばシャツワンピースドレス。胸当てもなく、裏地のない一重仕立ての着衣は軽くてとても着心地がいいのだけれど、こういうときは心許ない。

 つまり、濡れた咥内の温度も吸い上げられるその力も、ほぼそのまま体感してしまうから。

 「オルギール、ちょっと、それは」

 私は慌てて身じろぎをしてオルギールを押し返そうとした。
 既に彼とはアレコレしている、というかかなり一方的にされているけれど、私の居間で、こんな時間から、というのは極めて問題だと思うのだ。

 「オルギール、ちょっとお話を」
 「……胸当てをしていらっしゃらない」

 オルギールは私の抵抗を完璧に無視して、両胸をかわるがわる口に含み、舌で舐め上げ、軽く歯をたてながら言った。
 強めの刺激が加えられるたびに、からだが跳ね、腰を揺らしてしまう。
 あれを聞こう、これも聞こう、と思っていたのに、会うなりこんなこと、と思うのに、からだは喜んで彼の愛撫を受け容れている。話などどうでもいいではないか、と本能が囁く。

 「こんなに無防備な姿で。胸の形がすぐにわかってしまう」
 「や、待って」

 長い美しい指が、器用に片手でふつふつと前開きの釦を外してゆく。
 だめだ。お胸がぽろんと出たら私は終わりだ。なし崩しだ。

 「だめ!オルギール、待って!!」

 あと一つ、釦をはずしたらお胸が晒される寸前、私は理性を総動員してなんとかオルギールの不埒な指を振り払った。

 「オルギール、まず、私は、お話を聞きたいの」

 肩で息をしながら私は言った。

 行為を中断されたオルギールは心なしか不服そうだ。無表情に見えるけれど四六時中一緒にいた時間はそれなりだからわかる。

 「お話などいつでもできましょう」

 オルギールは言った。

 「相変わらず私の姫君は。……感じやすいからだをしておられるのに理屈が多いお方」
 「ヤらしいこと言わないで!理屈じゃないの、お話なの!」

 私はぴしりと言った。……まあ、膝の上から、ではあるけれど。
 どうせ下ろしてはくれないから無駄なあがきはしない。膝に乗ったまま、オルギールの目を覗いて相対する。

 「オルギールのことをたくさん知りたいの。色々なことを耳にしたから」
 「色々なこと?」

 とりあえずは落ち着いてくれたらしく、オルギールは私の髪を撫でた。
 唾液で濡れたシャツドレスが胸を擦って気持ちが悪い上、ぎりぎりまで釦を外された胸元が気になるけれど、考えないことにする。

 「何から知りたいですか?」
 「医者だ、って何度も聞いていたけれど」

 ただの医者じゃない。このえっち医者!と心中のみで毒づいて、私は続けた。

 「薬も作るひとだったのね。ギルドの顧問、だとか」
 「そうですよ」
 「抗菌薬も開発、商品化したって」
 「学問も研究も開発も、武芸もですが。……努力は裏切りませんからね。物心ついた頃から突き詰めることが好きだったのです」

 これだけすごいひとが突き詰めるための努力をすると、こうなるのか。「万能のひと」に。
 
 「凄いのね、オルギール」
 
 素直に感嘆の声を上げて彼を見上げると、ありがとうございます、と返してくれたオルギールは不意に表情を消した。

 純粋に、凄いと思ったのだけれど……?

 「あの男、命拾いしたようで」
 「あの男って?……あ、」

 アルフのことだ。
 アルバを行ったり来たり、と聞いていたけれど、本当にオルギールは何でも知っているようだ。

 「そう、あなたの抗菌薬のおかげで」
 「どうせアルバへ戻った後の不養生で拗らせたのでしょうが」

 オルギールは私の髪を撫でながら言った。
 
 「レオン様が手を差し伸べられたとか。後悔なさらなければいいのですが」
 「あなたがいないから認可にも時間がかかるって、お兄様らしい方が言っていらしたわよ」
 「私がいたら認可したかどうか」
 「オルギール!」

 先ほどからずっと、オルギールはそれはそれは優しく頭を、髪を撫でてくれていて、極上のエステティシャンのように気持ちがいいのだけれど、言うこととやっていることとのギャップがひどい。

 「あなたのおかげで命がひとつ助かったの。それに、リリー商会のこと、彼自身の実力。グラディウスが恩を売っても悪いことではないでしょう?」
 「あってもなくても、という気はしますがね」

 オルギールは容赦なく断言した。
 
 まったくもう。

 オルギールはアルフのこととなると物凄く辛口になる。立場から何から、彼とオルギールとでは比べるべくもないのに、なぜ彼に対してだけこんな態度なのか理解できない。
 わからない。アルフが私に告ってるから?でも、私は想いを返していないし。

 ……ま、理解しなくていいか。いわゆる「いけ好かない」というやつなんだろう。

 嘆息しつつ、他にも聞きたいことがあったので私は思考を切り替えることにした。

 「次はどんなご質問ですか?姫君」

 オルギールは私の髪にまた唇を押しあてた。

 「そうそう、次はね」

 私は膝の上で少し座る位置を変えた。
 実は何か硬いものがあたるような感触が気になって仕方がなかったのだ。

 「こんなにも長く、引継ぎとか根回しって、何をしていたの?」
 「寂しかったですか?リア」
 「寂しかった」

 私はこっくりと頷いた。
 
 一人には慣れていた。でも、ずっと一緒にいて宝物みたいに大切にされることを知ってからは、一人は寂しい。考え事をするにはいい時間だったけれど、もう長すぎた。

 「私も寂しかったですよ、リア」

 ちゅ、とオルギールは押しあてた唇を動かして、わざと音をたてた。

 甘い。……でも確かウルブスフェルを発つ前はこれがスタンダードだった、と思い出す。
 リア、と言いながらまた手が妖しく蠢くのを全身の力で拒否って(またなし崩しでは話が進まない)、

 「何を引き継いで何を根回ししていたのか教えて」

 ときっぱりと言ってみた。
 
 オルギールは、まったくあなたって方は、と頭上で呟きつつ、諦めたようにまた頭なでなでを再開した。

 「引継ぎはさっき話したギルドの顧問の件です。研究施設の運営とか、後進の指導とか。他にも武芸に関わることもいくつか団体の長や顧問をやっておりましたから」
 「それを辞めてしまったの?」
 「主要なものだけに絞って、あとは信頼のできる人物に任せました。これからさらに忙しくなりますので」
 「何に忙しくなるの?私の傍にいられなくなるの?」
 
 思わず、甘えたことを言ってしまった。

 私は自己中だ。どの団体もギルドも、オルギールほどのひとがいなくなればそれなりに大変なのだろうに、その心配をするよりも自分の心配をしてしまう。

 「違いますよ。……あなたの‘もっと’傍にいるために、生き方を変えてみようと言いましたね」

 私の発言はオルギールのお気に召したらしい。
 それはそれは優しいテノールを響かせて、彼は言った。

 「そのためには手に入れるべきものがあって。その根回しと準備です」
 「何を手に入れるの?」
 「身分を」

 間髪を入れず、オルギールは言った。
 少し、声音が違う。静かな決意を秘めた声。決然とした声。

 そういえば。
 レオン様が言っていらした。……何度も適当な爵位を与えようとしても「今は」いらないと言われたと。
 でも、私の傍にって、どういう意味だろう。
 もう私はオルギールなしの生活など考えられない。今、私を抱くのはレオン様だけだけれど、いずれあとの二人にも身を任せることになるらしい。三公爵の妻、として。その覚悟はしたけれど、オルギールはどうなる?どうする?辞書的な意味で「傍にいる」だけ?それとも、レオン様が立ち会うときだけ「お情け」のように私を?

 それはイヤだ。
 ……私はオルギールに縋りついた。

 「どんな身分?中途半端に爵位があったってどうするって言うの?あなたは公爵ではない!」

 シグルド様もユリアス様も素敵な方。好ましいし、たぶん好きだ。いずれ、からだを重ねることもきっと納得できる。
 でもオルギールとだって、私は。
 多情と言われようが淫乱と言われようが構わない。

 「……リヴェア様」

 気持ちが昂って涙目になってしまった私をオルギールは目ざとく見つけて、涙が溢れる前に唇でそれを吸ってくれた。

 「リヴェア様。私が公爵であったら、と言って下さるのですか?」
 「そう」
 「夫であったら、と言うこと?」
 「そう」

 オルギールが好き。大好き。
 目元にくちづけを繰り返すオルギールに、私はそう言おうと口を開いたのだけれど。

 半開きの唇にオルギールの綺麗な指がやんわりと乗せられて。

 「------愛しています、リヴェア様」

 私が想いを告げる前に、オルギールはこの上なく甘く囁いた。
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