溺愛三公爵と氷の騎士 異世界で目覚めたらマッパでした

あこや(亜胡夜カイ)

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8.-12

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 控室は訓練中に私が一息入れるためのもので、小部屋とはいえ、元の世界の感覚ではそれなりの広さがある。小卓、椅子が二脚。 部屋の隅には仮眠をとるための長椅子もある。ちょっとした書き物をするための引き出し付きの文机、いわゆるライティングビューローもある。最上階の居間の縮小版と考えればいい。

 入室後、二人に椅子を勧めて、私は部屋の隅っこの長椅子でいい、と言ったのだけれど、当然それは無視された。 つまり、俺様・レオン様は私が自分の考えを述べている傍からさっさと椅子の一つに自分が座り、その膝の上に私を乗せたのだ。長椅子を移動させてそれぞれが座れるようにしましょうかと言っても俺の膝の上がイヤなのかと言われる始末。

 もちろんイヤではない。昼間からべたべたするのはどうかと思ったのと、私自身がレオン様のお膝の上に乗るのは当然と考えてる、なんてユリアスに思われるのはナンだなあ、と感じたので、一連のご提案をしただけだ。
 結局はさほどの抵抗もなく応じた私を、レオン様は満足そうに眺め、頬にくちづけたり髪を撫でたりしている。
 ……正直、ここまで人前でいちゃつくのは本当は異議があるのだけれど。

 そっとユリアスの様子を窺うと、当然ながら不快と不機嫌、ダブルで最高潮だった。先ほどよりもさらに不愉快そうだ。このひとがこういう顔になればなるほど「元上官」に似てくるからあまり好きではないが、昼間から目の前でこんなことをされて笑って流せるひとのほうが少ないだろう。

 ごめんなさい、ユリアス。

 と、口の動きだけで言って目配せをしてみたら、敏いユリアスは気づいてくれたらしい。
 一気に不機嫌面は溶解して、しかたなさそうに軽く首を竦めてみせた。

 「なんだ、ユリアス。目で会話してるのか?」

 完全にバカップルの一員と化していたレオン様だけれど、相変わらず鋭い。
 眼前のユリアスの表情の変化をすかさず見咎めたようだ。

 「ずいぶんと親しくなったものだ」
 「近々、俺の妻にもなるのだからな」
 「……ちょっと、お待ちを」

 聞いていられず、私は止めに入った。

 私がお菓子のお酒でいい気分になっていた時の応酬。それが再燃しては困る。あれには参った。とろとろしていたからいいようなものの、かなり険悪だったと思う。あんな二人は見たくはない。三公爵の結束こそがグラディウスの強さ。だからこそ、さらなる結束のために「妻」を共有する場合もありうるのだろうと、自分なりに一妻多夫の理屈をつけたのに、私を挟むたびに角突き合わせているのは問題だ。

 「お止め下さい、レオン様、ユリアス」

 かなり真剣に言ったのが伝わったのだろうか。互いに仇敵みたいに睨み合っていたけれど、とりあえず攻撃的に絡み合う視線を解いてはくれたようだ。 

 よし。このタイミングを逃してはならない。

 「お二人ともお忙しいのでしょう?お話があって来て下さったのでしょう?早く聞かせて下さい」

 それは本音だ。
 モテモテヒロインみたいに「お願い、喧嘩をやめてっ(はあと)」というのは私の趣味ではない。
 早くとにかく話を聞きたい。

 「……すまなかった。君の言う通りだな、リーヴァ」

 程なくして、レオン様は矛を収め、瞼へのくちづけと共に言ってくれた。
 思考の切り替えが早くて、きちんと詫びてくれるレオン様はやっぱり素敵だ。
 一方のユリアスも、むっとした表情こそそのままだったけれど、悪かったな、と一応言ってくれた。

 「で、話ってなんですか?」

 一足先に知らせに来てくれたのはユリアスだ。
 私は、あえてユリアスに目を向けて尋ねた。
 レオン様もいるから一応丁寧語で話してみる。

 「わざわざ出向いて下さったのですから、急ぎなのでしょう?」
 「確かに時間がない。忙しいのはいつものことだが、早くしなくては」

 ユリアスはひとつ頷いて、理知的な、お仕事モードの瞳を私に向けた。

 「今、俺たちが──と、レオン様にも顎をしゃくって指し示しながら──忙殺されているのはひとつめが外交的な戦後処理、ふたつめが論功行賞。ふたつめについては殆どの兵士の分は直属の上官、指揮官に任せるのだが」
 
 なるほど。それで。

 「主だった兵、特に功績が目立った者については俺たちのところまで報告が上がる。で、俺たちが判断する。場合によっては本人の意向を聞いてやったりもする」

 本人が望みもしないことを押し付けて「評価してやった」と勝手に俺たちが自己満足しては意味ないからな、とユリアスは続けた。
 
 なるほど、道理。こういうグラディウス家のシビアさ、というか、柔軟な思考は本当に素晴らしい。

 「で、君の率いた別動隊の隊長。アルフ・ド・リリー」
 「アルフが?」

 うんうん、とひたすら頷いて聞いていた私は、反射的に問い返した。
 
 ……まあ、ここで名前が挙がるのは道理ではあるけれど。彼は色々な意味でお手柄だったし、引き立ててくれるよう、私からもシグルド様に言った覚えがある。

 「そのアルフが、何か?」
 「……危ないらしい」

 それまで黙って私の髪を撫でていたレオン様が感情の無い声で言った。
 あまりに思ってもみなかった言葉で、一瞬意味を測りかねてしまう。

 私はレオン様を見上げた。レオン様は正面を向いたままだ。私が話すとき私を見てくれないなんて、滅多にないことだ。

 「危ないって?アルフの何が?」
 「危篤、と報告を受けた。さっき」

 え……?

 視界も思考も停止した。
 危篤?死にかけている?アルフが?

 「なんで……」
 「傷が悪化したらしい」

 私のもらした一言を受けて、またユリアスが続きを再開した。
 レオン様は黙ったままだ。

 「相当な深手だったのだろう。帰還まではもたせていたようだが、最近、急激に悪化させたらしい。感染症だろうな。彼は城内に部屋を持っている。そこに居ればここまでひどくならなかったのだろうが、どうしてか城下へ紛れ込んだようで、今日まで居所もわからなくて」
 「そんな、こと……」
 
 呆然としたまま、勝手に私の唇は言葉を紡いだ。

 「論功行賞のことがあるから行方を捜索していたんだ。……彼の処遇は実はけっこうな焦点のひとつになっている」

 ユリアスの説明は殆ど感情的な言葉もなく、明快極まる。
 耳を疑う話も、どこかしら冷静に続きを聞こうとする私の本能の部分に、するすると淀みなく入ってくる。
 
 「俺の胸に納めておこうと思っていたが。……彼はあんたに惚れているだろう?真剣に」
 「……」
 「手柄を立てたなら評価すべきだ。そこは俺たちの意見は一致しているが、ここで問題だ。真剣にあんたに惚れている男、それもけしからん評判がある男を今後どうすべきかと」
 「俺は階級を上げ、アルバから遠ざけるべきと言ったのだ」

 それまで黙っていたレオン様が口を開いた。
 そして、ゆっくりと首を回らし、ようやく私に焦点を当てる。

 「俺は、行軍中に俺の恋人を口説く男を君の傍に置いておくほどお人よしではないからな」
 「俺の意見はまた別だった」

 ユリアスは言った。

 「宴の時の彼の様子。今回の手柄からすれば。……彼は姫の傍に置いてこそ力を発揮する。グラディウスのためになると」
 「で、とりあえず内々に呼び寄せ、彼の希望を聞きつつあらためて人物評価をしようと思った」
 「そうしたら、いない。退出届は出ていたが、行き先は彼の実家になっていた。登城を命じようと実家に連絡をとっても不在。その程度の奴なら放っておけ、とレオンは言ったし、それも道理だったのだが」
 「勝手に戻るまで捜索は打ち切ろうかと思っていたころ。まあ、今朝だが……下町から報告が上がった。どうみてもひとかどの剣士と思われる美貌の男がずっと滞留しているが、危篤状態らしいと」

 息継ぎごとにかわるがわる説明をすると、一区切りついたらしく二人は期せずして同時にちいさく息を吐いた。
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