溺愛三公爵と氷の騎士 異世界で目覚めたらマッパでした

あこや(亜胡夜カイ)

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8.-11

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 ──絶え間なく襲う激痛。
 いつまでも治りが悪いな、と思っていた程度の傷に、よもやここまで苦しめられるとは。

 城内に居ればよかった。
 そうしたら、仲間の誰かの目に留まり、今回の出兵において功労者の一人である自分は、速やかに軍医預り、高度な治療を受けることが出来ただろう。少なくとも、売薬を飲んで終わり、ではない。

 けれど、城には居たくなかったから。
 行軍中、軍医が、帰還したら安静にしてしっかりと治療を受け直せ、と言ったにもかかわらず、俺は逃げるように城を飛び出し、多めの前金を握らせて安宿に転がり込んだのだった。
 城に居れば、嫌でも噂が耳に入る。耳の塞ぎようがない。
 
 ──トゥーラ姫へのエヴァンジェリスタ公の執着、溺愛。仲睦まじさ。
 オーディアル公も二度目の戦に圧勝し、まもなく凱旋するだろう。
 帰還したらトゥーラ姫を巡って公爵様方が火花を散らすだろうと。──
 
 「……くっそ、畜生……」

 何に罵っているのか。傷をつけた相手か、傷を甘く見た自分か、それとも。
 
 どれほど希(こいねが)っても叶わない、自分の立ち位置か。

 脂汗が流れる。もう、何日もろくに食べていない。からだが食べ物を受け付けない。
 排泄と寝台の往復がやっと。それすら、できなくなるかもしれない。
 それほどの高熱と激痛。もう何日そうしているのか、昼夜の区別もわからない。というより、どうでもよくなってきた。

 「……リア」

 意識が霞みかけると、何より大切なその名を呼ぶ。腕飾りの黒曜石を熱で乾ききった唇に含む。
 そうすると、一瞬、痛みが消えたような気になる。本当に、一瞬だけだが。
 それに、名を呼ぶことで、「生」にしがみつくことができるようだ。
 
 俺は、まだ大丈夫。
 まだ、死ねない。死ぬ気はない。
 リアの傍に。もっと、傍に……



 ******



 ユリアスの突然のお胸責めには激しく抗議したにもかかわらず、ユリアスはちょっぴり謝っただけで結局は「この歳で嗜好は変えられん!」と逆に開き直り、呆れてものが言えず、……というへんてこな午後を過ごした日からさらに二日ほどたった頃。

 私はいつものように、午後の鍛錬に黙々と励み、日も傾いてきたのでそろそろ戻ろうとしていたら、

 「姫」

 と、呼び止められ、振り向くと。

 「……ユリアス」

 衛兵を連れた、平服のユリアスが佇んでいた。

 先日のあれこれを思い出して、少々鼻にしわを寄せてしまった私は悪くないはずだ。

 「三日ぶり?……ですことね」
 
 一応、月並みにご挨拶をした。
 
 「このようなところへ、どうなさったの、ユリアス?」
 「用がなくては来てはならんのか」
 
 ぶすったれた表情で、ユリアスは言った。
 珍しいことなのだろうか。従う衛兵が数名目を丸くしている。

 「別に、そういうわけではないけれど。ユリアス、お忙しいし」
 「まあな。ただ、今日はあんたに知らせておいたほうがいいことがあって」
 「何?」

 それこそ、珍しいこともあるものだ。
 私のほうこそ少し目を瞠ったけれど、すぐに、

 「場所、改めましょうか」

 と申し出てみると、そのほうがいいと言ったので私たちは少し歩いて、訓練場の近く、私が控室として使っている小部屋へ向かった。

 ──と、そこへ、

 「リーヴァ、ユリアス」

 背後からも声がかかった。少しだけ掠れた、色っぽいテノール。 
 私をリーヴァ、と呼ぶのはレオン様だけ。思わず、顔がほころんでしまう。

 「レオン様」

 私は満面の笑みで振り返ると、駆けよってくっつきたいのを我慢して騎士の礼をとった。  
 (男装しているから貴婦人の礼はどうにもおかしな図だと思うのだ)

 「なんだってそんな堅苦しい」

 日中、たくさんのお供を連れているときに鉢合わせることは滅多にないからこそ、きちんとご挨拶をしたのだけれど、レオン様は意に介さない様子だった。

 大股に私に近寄り、抱き寄せて頬にくちづけを落とす。

 ちょっと、いやかなり恥ずかしいのだが、今更もじもじするのもカマトトぶっているようで気が引けるから、「平然と人前で寵愛を受ける鉄面皮」の仮面を被ってスルーした。

 この間、ユリアスは仏頂面で突っ立っている。

 あらごめんなさい、と私は小声で声をかけ、レオン様はもっとあからさまに、お前、気を利かせて立去ってもいいものを、と言い、ユリアスの眉間の皺を増やした。

 「それで?……お二人とも偶然ではないのでしょう?」

 レオン様に腰を抱かれたまま二人の顔を見上げつつ尋ねると、それぞれに視線を交錯させ、かつ目を逸らし、奇妙なことこの上ない。

 「……たぶん、用件は同じだ」

 不機嫌オーラ全開のユリアス様は言った。

 「お前、抜け駆けする気だったのか」

 レオン様も尖った声を出す。

 「俺は超多忙、シグルドは不在。……先日のことといい、油断も隙も無いな」
 「抜け駆けなどではない」

 ユリアスのきつい緑瞳が鋭く光り、久々に「感じの悪い美青年」の顔になっている。

 「いちいち事を荒立てるな、レオン。……とりあえず早く知らせた方がいいだろう」

 ──何やら、穏やかならぬ様子だ。
 どのみち、立ち話で済ませることではないのだろう。

 私は、腰に回されたレオン様の手をちょっと撫でて、三人で一緒に部屋へ入るように促した。
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