上 下
121 / 220
第6章 魔力クリスタルの深淵

cys:121 立ち上るオーラと花の鐔

しおりを挟む
「ノーティス、いくら敵だからって……アナタ達は、何であんな殺し方が出来るの?」

 アネーシャからの問いかけに、思わず言葉を詰まらすノーティス。
 咄嗟に答える事が出来ない。

「そ、それは……」
「アナタとあの斧使いはまだいいわ。けど、戦士の誇りを踏みにじるようなあの攻撃は何?」
「くっ……」

 言葉に詰まったままのノーティスに、アネーシャは更に続ける。

「ユグドラシルの力は、本来あんな事の為に使う物じゃないの」
「それは……それは、キミ達が攻めてくるからだろう!」
「でも、私達は必要以上に殺したりはしないわ」

 その言葉が真実である事は、ノーティスに痛い程伝わってきた。
 現に、アネーシャは皆を守る為に一騎打ちを申し込んできたし、メティアには手を出すなと全軍に号令をかけたからだ。

「……でも、俺達には俺達の戦い方が……あるんだ!」

 苦しく声を絞り出したノーティスに、アネーシャはスッと瞳の色を落ち着かせた。
 まるで諦めたように。

「そうね……アナタ達にこんな事求めたってムダよね」
「どういう事だ……」
「アナタ達になんて出来るハズないもの。私達の全てを踏みにじり……偽りの光に照らされてるアナタ達になんて!」

 アネーシャのその言葉を聞いた瞬間、ノーティスハッ! と、して目を見開いた。
 ノーティスの脳裏に、あの日の事が蘇ったのだ。

『守る? 守るだと?貴様は……貴様達はこの俺達からどれだけのモノを奪ったと思っている!!』
『やはり、偽りの光と歴史に塗れた国の者には、何も見えていないようだな』

───シド!

「アネーシャ、キミは一体……」

 ノーティスがそう漏らした時、アネーシャはノーティスに片手で剣先をビュッ! と、振り向けた。
 その問いに答える事を拒絶するように。

「もういいわ……一瞬でも期待した私がバカだった。私達が今まで受けてきた屈辱と悲しみは、この剣で晴らす!」

 アネーシャがそう告げ向けてきた剣のつばは、花びらのような形に装飾されている。
 ノーティスはそれに気付き、アネーシャの剣のつばをジッと見つめた。

───あの花はどこかで……

 ノーティスがそう思った瞬間、アネーシャは剣を横に振りかぶりノーティスに飛びかってきた。
 その凄まじい速度に、ノーティスは何とか反応しながら剣を構えて防ぐ。

 ガキインッ!!

「くっ……! なんて重い剣だ」
「いくわよ!」

 そこから、アネーシャの凄まじい猛攻がノーティスを襲っていく。
 ノーティスはそれを必死で受けるが、アネーシャの猛攻は止まらない。

 ガキインッ!! ガキインッ!! ガキインッ!!

「ノーティス!」

 それを見てメティアが叫ぶ中、ノーティスは感じていた。

───ぐっ……なんて重さだ。一撃一撃が必殺剣のように響いてくる。それに……

 ガキインッ!!

 ノーティスはアネーシャの猛攻を何とか弾き、ザザァァァッ! と、後に足を滑らせ間合を取り、苦しい顔をしながらアネーシャを見つめる。

「ハァッ……ハァッ……」

 息を切らすノーティスをアネーシャは見下みくだす事無く、むしろ軽く敬意を込めた眼差しで見つめた。

「さすがね。でも、よかった」
「よかった? それはどういう事だ」
「だって、もし今のでアナタがやられてしまう位なら、私は、より自分を許せなかったから……!」
「なんだと……アネーシャ、キミは何者なんだ?!」

 けれどアネーシャはノーティスのそれには答えず、再びキッと睨んだ。
 その美しい瞳に怒りを宿して。

「……だから、私の全力を持ってアナタを葬るわ!」

 アネーシャはそう言い放つと、ノーティスを見据えたまま右手を天にサッと掲げた。
 自らの力を最大限に引き出す為に。

「精霊といにしえからの神々よ! 私と共にその力を示せ!!」

 その詠唱を行った瞬間、アネーシャの体から高貴な銀色のオーラが立ち昇り、さらに体の周りには、古代文字で書かれた呪符の様な物が浮かび上がっていく。
 それと同時に、蒼く染まる右の瞳と真紅に染まる左の瞳。

 そして、両方の瞳が完全に染まった時、アネーシャの体から凄まじいエネルギーがブワァッ!! と、溢れ出した。
 そのエネルギーは、強い衝撃波になり周りに広がる。

「くっ……! なんて凄まじいエネルギーなんだ。これはまるで嵐……!」

 思わず片手で顔の下半分を覆ったノーティスは、目を細め顔をしかめた。
 そんなノーティスを、アネーシャは凛とした瞳で見据える。

「ノーティス、これが私の本気の姿よ」

 そう言い放ったアネーシャの姿は、ただ強いだけでなく、気高い意志と美しさをノーティスに感じさせた。
 ただ同時に、何故か微かに入り混じる儚さも。

「アネーシャ……綺麗だ」

 その姿に深くにも数旬見とれてしまったノーティスに、アネーシャは余裕の笑みを浮かべた。

「フッ♪ ノーティス。もしかしてアナタ、私を口説こうとしてるの」
「違う。本当にそう思っただけさ」
「そう……光栄だわ。だったらアナタも本気の力をみせて。私はそのアナタに、必ず打ち勝ってみせるわ!」

 アネーシャのその言葉に、ノーティスは驚いて目を大きく見開いた。

「キミは、敢えて俺を全力の姿にさせるというのか……!」
「当たり前でしょ。お互いに全力じゃないとフェアじゃないわ。それに……」

 アネーシャは凛とした瞳で見つめる。

「さっき言ったでしょ。全力のアナタを倒さなきゃ意味が無いの」

 その言葉と思いを受けたノーティスは、アネーシャに敬意の眼差しで答える。

───アネーシャ。キミのしている事は、シドが教えてくれた戦士の誇りそのものだ。だから俺は……

「分かったよアネーシャ……ハァァァァッ! 究極まで高まれ! 俺のクリスタルよ!!」

 ノーティスは魂を震わせクリスタルを再び覚醒させた。
 白輝を超えた、ゴールド・クリスタルに!

 すると、今度はその輝きにアネーシャが片手で顔の下半分を覆い顔をしかめた。

「くっ……凄いわね。これがあのゴールド・クリスタル。アナタの本当の力……!」

 そう零したアネーシャに、黄金の煌めきを纏ったノーティスは剣を構え、澄んだ瞳で見据える。
 アネーシャの事をただの敵ではなく、トゥーラ・レヴォルト軍の誇り高き勇者として。

「アネーシャ、キミから立ち昇る力と戦士の誇り。その全てを受けて俺はキミを討つ!」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

僕はボーナス加護で伸し上がりました

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:4,197pt お気に入り:231

転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきます

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:10,539pt お気に入り:7,599

私のバラ色ではない人生

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:105,267pt お気に入り:5,337

オレはスキル【殺虫スプレー】で虫系モンスターを相手に無双する

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:3,274pt お気に入り:636

さっさと離婚に応じてください

恋愛 / 完結 24h.ポイント:78,291pt お気に入り:1,003

異世界転移!?~俺だけかと思ったら廃村寸前の俺の田舎の村ごとだったやつ

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:18,381pt お気に入り:2,356

【完結】旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

恋愛 / 完結 24h.ポイント:64,744pt お気に入り:8,195

自称病弱?な妹に婚約者を奪われました。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,079pt お気に入り:8

処理中です...