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第5章 ホラムでの決戦
cys:90 レイの涙と震える占い師
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───えっ?
レイは、一瞬目を疑った。
自分の視界がおかしくなったのかと。
目の前で下卑た笑みを浮かべたアッシュ達が、一瞬にして膝からドシャ! と崩れ落ちたからだ。
そして、同時に背中に伝わってきた圧倒的オーラ。
振り返るまでもなく、レイにはそれが誰だか分かった。
───ノーティス……
「レイ」
そう声をかけてきたノーティスに、レイは振り返らなかった。
悔しくて涙を零す顔を、大好きなノーティスには見られたくなかったから。
───自分から行ったくせに、なんで私泣いてんのよ……
矛盾した気持ちに苛まれるレイ。
今のレイは、心も涙でグシャグシャだ。
ノーティスは、そんな涙に震えるレイの背中を見つめたまま、静かに告げる。
「間に合ってよかった」
「よくない……よくないわ!」
レイはノーティスに顔向け出来なかった。
さっきノーティスの気持ちを分からず責めてしまったし、ノーティスに最も見られたくない姿を見られたから。
けれどノーティスは、そんなレイの肩に背中から片手をそっと乗せて微笑んだ。
「レイ……」
「……なによ」
「キミはより美しくなった。出会った時よりもずっと」
「……」
「俺と一緒にいてくれて、ありがとう」
「ノーティス、私……ごめんなさい」
「いいんだ。早めに確証が持てなかった俺のせいだ。レイは何も悪くない」
ノーティスの優しい言葉を受けて、レイは背中をヒクヒク震わせて涙を零す。
むしろ罵倒された方が楽だ。
自分が悪いのに優しくされると、より罪の重さを感じてしまうから。
けれどそんな中、ジークがズカズカ近寄ってきてレイの背中に大声をぶつける。
「レイ! このバカヤロウ! こっち向きやがれ!」
レイは振り向かないが、むしろノーティスがジークの言葉に振り向いてしまった。
「おぃ、ジーク。何言ってるんだ?! レイは今……」
「いいんだよノーティス。レイはな、あのインチキ占い師みてぇなヤツの話を、真に受けてるだけなんだからよ」
「イ、インチキ占い師?」
ノーティスが驚いてキョトンとした顔をすると、ジークはしたり顔で腕を組んだ。
「そーよ、レイはプライドが高くて気もつえーのに、ああいうのにはコロッといっちまうんだよ」
「そ、そーなのか?」
「おうよ。いや……でも、もしかしたら俺の事好きなのかもな」
「どういう事だ? ジーク」
ちょっと目を丸くしたノーティスに、ジークは得意げに告げていく。
「まあ、女ってのはよ、好きな男に顔見られんのが恥ずかしいもんだろ」
「そうなのか? 恥ずかしいって、裸を見られる訳でもないのにか? 顔はみんないつも出してるだろ。よく分からないな……」
おいおい、そーゆーもんじゃねぇだろと思うジークに、ノーティスは真顔で言ってくる。
「いや、もしそうなら、自分の職場に好きな人がいたら仮面を着けなきゃいけないじゃないか」
「……ノーティス、お前さん本気で言ってるのか?」
「あぁ。今の話を論理的に考えればそうなるだろ。何か変か?」
大真面目な顔をしてそう答えたノーティスに向かい、ジークは呆れた顔をして片手を額に当てて顔を上げた。
「ノーティス、お前さんの頭の回転の速さと洞察力、なんで女心には全く無効化されるんだ? なんか、呪いでもかけられてるんじゃねぇのかい」
「ジーク……ルミみたいな事言わないでくれ」
その瞬間、ジークの脳裏にルミの顔が思い浮かんだ。
ノーティスを大好きなのに、全く気付いてもらえず口を尖らす姿が容易に想像つくから。
「かっ、そりゃあの嬢ちゃんも大変だな」
ジークは呆れた顔でニヤッと笑うと、レイの事に話を戻す。
「てな訳でノーティス、レイは俺の事好きなんだよ。だから顔を見られたくねーんだ」
「そ、そんなもんなのか」
ノーティスが戸惑った顔を浮かべる中、ジークはニヤニヤたままレイの顔を覗き込もうとする。
「ん? そうだろレイ。恥ずかしくて、俺の顔見れねぇんだ……」
そこまで言った時、パンッ! と、いう乾いた音と共にジークの頬は張り倒された。
レイの強烈なビンタによって。
「バッッッッカじゃないのっ! 濃い顔近づけないでよ。美しくないわね!」
「いーーーって! なにすんだよレイ!」
赤く腫れた頬を片手で押さえてるジークを、レイはキッと見つめる。
「当たり前でしょジーク。アナタが勘違いしてるからよ」
「あん? 勘違いだぁ?」
顔をしかめたジークに、レイは勝ち誇ったようなフフンとして態度で綺麗な髪を片手で靡かせた。
「あのねジーク、私がいつ、アナタの事を好きだなんて言った?」
「い、いや、そりゃあよ、理由はねぇけど何つーか……」
「はっ? 何の理由も無しにそう思ってるって、ありえないんだけど」
2人の間に挟まれしろもとどろのノーティスは、レイとジークの事を交互にキョロキョロ見つめている。
そんなノーティスを挟み、さらにヒートアップしていくジークとレイ。
「ありえないってなんだよ! あるだろ、そういう雰囲気みてぇなもんが」
「ないから! 勝手に決めないで。第一ね、私があると言えばあるし、無いと言えばないの」
「ったく、相変わらず姫じゃなくて女王……いや、悪役令嬢って奴だな」
「なによそれ。可愛くなくて悪かったわね!」
「いや、別に可愛くねぇなんて言ってねぇだろ」
「一緒よ! フンっ!」
レイはそう言ってジークにプイっと横顔を向けると、サロメの事を冷酷な瞳でギロッと見下ろした。
「アンタのせいよ。このインチキ占い師!」
「くっ……なによ、アンタなんて……」
サロメがそこまで震えた声で言うと、レイはハイヒールでカンッ! と、サロメの顔スレスレの所を踏みつけた。
それにビクッとするサロメ。
「ヒッ!」
そんな怯えるサロメの瞳を、レイはジッと見つめた。
もう許さないと、その瞳が告げている。
サロメはその瞳の存在感に、ブルブルと震えだした。
「な、なに、なんなの……」
「散々好き勝手言ってくれたけど、私の気持ちは私が決めるの。アンタなんかに決めさせないわ!」
レイはそう言い放つと、美しく微笑みクリスタルをパープルブルーに輝かせていく。
「私の美しさを汚そうとした罰として、アナタに悪夢を見せてあげる♪ 喰らいなさい……」
そして両手を天に掲げ、レイの十八番の必殺技、エファルディス・コーディネーションのポーズを取た。
「ヒィッ!」
サロメは、心からの恐怖に悲鳴を上げた。
心を読む装置を使っていなくても、レイが何を思っているかはハッキリ伝わってきたからだ。
『死よりも苦しい悪夢を味わいなさい』
けれど、サロメはギリギリでそこから救われた。
レイが直前でを放つのを止めたからだ。
───えっ……なぜ?
サロメが涙目でレイを見上げる中、レイはノーティスの方を真剣な表情で見つめている。
「ノーティス、これは……」
「あぁ、さすがレイだ。気づいたか」
そう答えたノーティスは、さっきまでのおどけた顔ではなく、敵を迎え撃つ勇者の顔になっていた。
レイは、一瞬目を疑った。
自分の視界がおかしくなったのかと。
目の前で下卑た笑みを浮かべたアッシュ達が、一瞬にして膝からドシャ! と崩れ落ちたからだ。
そして、同時に背中に伝わってきた圧倒的オーラ。
振り返るまでもなく、レイにはそれが誰だか分かった。
───ノーティス……
「レイ」
そう声をかけてきたノーティスに、レイは振り返らなかった。
悔しくて涙を零す顔を、大好きなノーティスには見られたくなかったから。
───自分から行ったくせに、なんで私泣いてんのよ……
矛盾した気持ちに苛まれるレイ。
今のレイは、心も涙でグシャグシャだ。
ノーティスは、そんな涙に震えるレイの背中を見つめたまま、静かに告げる。
「間に合ってよかった」
「よくない……よくないわ!」
レイはノーティスに顔向け出来なかった。
さっきノーティスの気持ちを分からず責めてしまったし、ノーティスに最も見られたくない姿を見られたから。
けれどノーティスは、そんなレイの肩に背中から片手をそっと乗せて微笑んだ。
「レイ……」
「……なによ」
「キミはより美しくなった。出会った時よりもずっと」
「……」
「俺と一緒にいてくれて、ありがとう」
「ノーティス、私……ごめんなさい」
「いいんだ。早めに確証が持てなかった俺のせいだ。レイは何も悪くない」
ノーティスの優しい言葉を受けて、レイは背中をヒクヒク震わせて涙を零す。
むしろ罵倒された方が楽だ。
自分が悪いのに優しくされると、より罪の重さを感じてしまうから。
けれどそんな中、ジークがズカズカ近寄ってきてレイの背中に大声をぶつける。
「レイ! このバカヤロウ! こっち向きやがれ!」
レイは振り向かないが、むしろノーティスがジークの言葉に振り向いてしまった。
「おぃ、ジーク。何言ってるんだ?! レイは今……」
「いいんだよノーティス。レイはな、あのインチキ占い師みてぇなヤツの話を、真に受けてるだけなんだからよ」
「イ、インチキ占い師?」
ノーティスが驚いてキョトンとした顔をすると、ジークはしたり顔で腕を組んだ。
「そーよ、レイはプライドが高くて気もつえーのに、ああいうのにはコロッといっちまうんだよ」
「そ、そーなのか?」
「おうよ。いや……でも、もしかしたら俺の事好きなのかもな」
「どういう事だ? ジーク」
ちょっと目を丸くしたノーティスに、ジークは得意げに告げていく。
「まあ、女ってのはよ、好きな男に顔見られんのが恥ずかしいもんだろ」
「そうなのか? 恥ずかしいって、裸を見られる訳でもないのにか? 顔はみんないつも出してるだろ。よく分からないな……」
おいおい、そーゆーもんじゃねぇだろと思うジークに、ノーティスは真顔で言ってくる。
「いや、もしそうなら、自分の職場に好きな人がいたら仮面を着けなきゃいけないじゃないか」
「……ノーティス、お前さん本気で言ってるのか?」
「あぁ。今の話を論理的に考えればそうなるだろ。何か変か?」
大真面目な顔をしてそう答えたノーティスに向かい、ジークは呆れた顔をして片手を額に当てて顔を上げた。
「ノーティス、お前さんの頭の回転の速さと洞察力、なんで女心には全く無効化されるんだ? なんか、呪いでもかけられてるんじゃねぇのかい」
「ジーク……ルミみたいな事言わないでくれ」
その瞬間、ジークの脳裏にルミの顔が思い浮かんだ。
ノーティスを大好きなのに、全く気付いてもらえず口を尖らす姿が容易に想像つくから。
「かっ、そりゃあの嬢ちゃんも大変だな」
ジークは呆れた顔でニヤッと笑うと、レイの事に話を戻す。
「てな訳でノーティス、レイは俺の事好きなんだよ。だから顔を見られたくねーんだ」
「そ、そんなもんなのか」
ノーティスが戸惑った顔を浮かべる中、ジークはニヤニヤたままレイの顔を覗き込もうとする。
「ん? そうだろレイ。恥ずかしくて、俺の顔見れねぇんだ……」
そこまで言った時、パンッ! と、いう乾いた音と共にジークの頬は張り倒された。
レイの強烈なビンタによって。
「バッッッッカじゃないのっ! 濃い顔近づけないでよ。美しくないわね!」
「いーーーって! なにすんだよレイ!」
赤く腫れた頬を片手で押さえてるジークを、レイはキッと見つめる。
「当たり前でしょジーク。アナタが勘違いしてるからよ」
「あん? 勘違いだぁ?」
顔をしかめたジークに、レイは勝ち誇ったようなフフンとして態度で綺麗な髪を片手で靡かせた。
「あのねジーク、私がいつ、アナタの事を好きだなんて言った?」
「い、いや、そりゃあよ、理由はねぇけど何つーか……」
「はっ? 何の理由も無しにそう思ってるって、ありえないんだけど」
2人の間に挟まれしろもとどろのノーティスは、レイとジークの事を交互にキョロキョロ見つめている。
そんなノーティスを挟み、さらにヒートアップしていくジークとレイ。
「ありえないってなんだよ! あるだろ、そういう雰囲気みてぇなもんが」
「ないから! 勝手に決めないで。第一ね、私があると言えばあるし、無いと言えばないの」
「ったく、相変わらず姫じゃなくて女王……いや、悪役令嬢って奴だな」
「なによそれ。可愛くなくて悪かったわね!」
「いや、別に可愛くねぇなんて言ってねぇだろ」
「一緒よ! フンっ!」
レイはそう言ってジークにプイっと横顔を向けると、サロメの事を冷酷な瞳でギロッと見下ろした。
「アンタのせいよ。このインチキ占い師!」
「くっ……なによ、アンタなんて……」
サロメがそこまで震えた声で言うと、レイはハイヒールでカンッ! と、サロメの顔スレスレの所を踏みつけた。
それにビクッとするサロメ。
「ヒッ!」
そんな怯えるサロメの瞳を、レイはジッと見つめた。
もう許さないと、その瞳が告げている。
サロメはその瞳の存在感に、ブルブルと震えだした。
「な、なに、なんなの……」
「散々好き勝手言ってくれたけど、私の気持ちは私が決めるの。アンタなんかに決めさせないわ!」
レイはそう言い放つと、美しく微笑みクリスタルをパープルブルーに輝かせていく。
「私の美しさを汚そうとした罰として、アナタに悪夢を見せてあげる♪ 喰らいなさい……」
そして両手を天に掲げ、レイの十八番の必殺技、エファルディス・コーディネーションのポーズを取た。
「ヒィッ!」
サロメは、心からの恐怖に悲鳴を上げた。
心を読む装置を使っていなくても、レイが何を思っているかはハッキリ伝わってきたからだ。
『死よりも苦しい悪夢を味わいなさい』
けれど、サロメはギリギリでそこから救われた。
レイが直前でを放つのを止めたからだ。
───えっ……なぜ?
サロメが涙目でレイを見上げる中、レイはノーティスの方を真剣な表情で見つめている。
「ノーティス、これは……」
「あぁ、さすがレイだ。気づいたか」
そう答えたノーティスは、さっきまでのおどけた顔ではなく、敵を迎え撃つ勇者の顔になっていた。
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