上 下
18 / 517
冴えない私の助走編

第18話 三人目も挨拶に来た伝説

しおりを挟む
「うーん……!!」

 起床して、ベッドに寝転んだまま自分のチャンネルの登録者数を見た私。
 これ、何かの間違いでは……?

 86.456人。
 私のチャンネルの登録者数だ。

「昨夜から一万人くらい増えてない……?」

 ただでさえ、おかしな速度で登録者数が増えているのだ。
 それが、昨日水無月さんとコラボして、デビューイベント参加! となったらさらに増えた。
 なんだこれは……?

 というか、どうして私がなうファンタジーの新人デビューイベントのゲストに呼ばれるの……?
 そもそも私も今月デビューしたばかりなんだけど……?

「うぬぬぬ、ぐぬぬぬぬ」

 唸っていたら、LUINEから反応があった。
 カンナちゃんだ。

『ということで、ミナから話があったと思うけどよろしくお願いします! 今度打ち合わせがあるので、予定も送るね。あと、正式な依頼という形で会社からメールが行くから……』

「あひーっ」

 朝から圧倒的な情報量に、私はベッドの上でぶっ倒れた。

「起きなさーい。学校行く時間が近いわよー」

 母が起こしに来て、のたうち回る私を見て、「あら起きてるじゃない。早く顔を洗って髪をなんとかして、朝ごはんもちゃんと食べること」とだけ言って去っていった。
 私がゴボウ使いの配信者やってると知っても、全然態度が変わらない人だなあ……。

 公式のAフォンがあるので、死ぬことはないと分かってるからだろうな。
 これが非公式Aフォンだったら認めてもらえなかったと思う。

 母の愛に感謝しつつ、私はダラダラと着替えて洗面所へ。
 顔を洗ったり、飛び跳ねてる髪と格闘したり。
 シャワーを浴びる時間は無い!

 垂れ流されているテレビを見ながら、朝ごはんを食べた。
 そこで、ツブヤキッターのDMで兄から連絡がある。

『決まったぞ、企業案件。放課後に迎えに行く』

「今日の放課後、お兄ちゃんが私を連れてくって」

「あらそうなの? 夕飯には戻ってこれそう? それとも一緒なのかしら」

「どうかなあ……」

 DMに返事をする。

「夕飯には帰れますか……と」

『先方の支払いで会食がある』

「夕飯いらないみたい」

 なんだか大きな話になってきたなあ、と私は他人事のように考えた。

 学校でも、私の話題が盛り上がっている。

「あのダンジョン、うちの近くなんだ。毎晩ヤバい感じのうめき声とか叫び声が聞こえてきてたんだけど……。ここ最近、ウグワーッて言うモンスターとか怨霊の悲鳴が聞こえててさ。すごく静かになった……」

「ヤバいじゃん! はづきっち見た?」

「見れなかった……! っていうか、元の姿どんなのなんだろうね! 絶対はずきっち可愛いって!」

 うわーっ。
 お前ら陽キャの後ろで、文庫本を読むフリをして耳をそばだてているのがきら星はづきですよーっ!!
 だが、そんな事を口に出せる訳がない。

 身バレは社会的な死!!
 私は秘して語らぬのだ……!

 ふふふ、すぐ近くに、登録者80.000人超えの女がいるとは夢にも思うまい……。
 内心でグフグフと笑う私なのだった。

 もちろん、自分からは何も言わないので、今日も友達ができるわけではない……。

 ……と思っていたら、扉が開いた。
 視線が集まる。
 そこに立っていたのは、ポニーテールの快活そうな上級生だ。

「えーと、ええと……いた!」

 彼女は私の辺りを見て、パッと表情を輝かせた。
 おや?
 陽キャたちの先輩かな……?

「あれって、あの先輩じゃない?」

「ほんとだ。先輩って、受験勉強しながら冒険も配信やってるんでしょ?」

「誰も配信見たこと無いって噂だけど……」

 ざわざわしている。
 おかしいな。
 先輩とやらいう彼女、陽キャたちの直接の先輩ではないらしい。

 彼女はずかずかと教室に入ってくる。
 うわーっ!
 自信に溢れた仕草! 動作! 表情!

 陰キャの私は近くにいるだけで、太陽に近づいたイカロスの翼的に溶けて流れ落ちていく……!!

「あなたでしょ!」

「!?」

 よりによって先輩とやらは、私の机にやって来た!
 溶けて不定形生物になってたのが一瞬で我に返った私だぞ。
 なんだ!?
 なんなんだ!?

 学校に知り合いなんかいないぞ!!

「ちょっと来てもらっていい?」

「あ、う、お」

「決まり!」

「あひーっ」

 私は腕を掴まれ、連れてこられてしまう。
 なんだなんだ!
 ま、まさか上級生の呼び出しとは……。

 私が生意気だから締めるつもりなのか!?
 ばかな。
 入学以来、息を殺して静かに生きてきたのに!

 やって来たのは、封鎖された屋上前の扉だった。

 そこで振り返った先輩。
 私のつま先を見たと思ったら、すね、太もも、腰にお腹に胸に、そして顔を見て。
 彼女がにんまり笑った。

「あなたがきら星はづきちゃんね」

 いきなりとんでもないことを言ったのだ!

「あひっ、な、な、ちがっ、わた、そん、破滅……!!」

 私はゆっくりと後方に向かって倒れていった。
 社会的な死……!!

「おわーっ! ちょっと待って! 早まらないで! 身バレじゃないから!!」

 先輩は私をがっしりと抱きかかえた。
 パワフル!

「……はづきちゃん、かなり着痩せするタイプだね……?」

「うっ、ダイエットします。というか、身バレじゃないならどうして……?」

 私の疑問に、先輩はウインクして答えた。

「バーチャライズ」

 彼女が呟くと、その姿が変わる。
 それは……。
 昨日、ツブヤキッターで見たものだった。

 カンナちゃん、水無月さんの隣りにいた、三人目のなうファンタジーの新人。

 卯月桜。

 活動的にデザインされた淡桃地に濃いピンクの桜柄の着物を纏い、腰に刀を差したポニーテールの女の子だ。
 髪の色は、ピンクと赤のメッシュ。

「今度コラボするってことで、挨拶に来ようって思ってたんだよね! カンちゃんもミナぽんも、二人ともはづきちゃんの話をするから、羨ましくって!」

 なに……!?
 なんだと……!?

 すぐ間近に、なうファンタジーの配信者がいたんだ……!?

「よろしく、はづきちゃん! 卯月桜です!」

 黄色のカンナちゃん、青の水無月さん、赤の先輩……もとい、卯月さん……。
 こ、これは……!!

「信号機……!?」

 どうでもいい事に気づく私なのだった。
しおりを挟む
感想 189

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

おじさんが異世界転移してしまった。

月見ひろっさん
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか? モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

俺が異世界帰りだと会社の後輩にバレた後の話

猫野 ジム
ファンタジー
会社員(25歳・男)は異世界帰り。現代に帰って来ても魔法が使えるままだった。 バレないようにこっそり使っていたけど、後輩の女性社員にバレてしまった。なぜなら彼女も異世界から帰って来ていて、魔法が使われたことを察知できるから。 『異世界帰り』という共通点があることが分かった二人は後輩からの誘いで仕事終わりに食事をすることに。職場以外で会うのは初めてだった。果たしてどうなるのか? ※ダンジョンやバトルは無く、現代ラブコメに少しだけファンタジー要素が入った作品です ※カクヨム・小説家になろうでも公開しています

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

処理中です...