ゴボウでモンスターを倒したら、トップ配信者になりました。

あけちともあき

文字の大きさ
上 下
19 / 517
それなり私の飛翔編

第19話 企業案件会食伝説

しおりを挟む
 卯月さんとLUINEアドレスを交換した。
 おお……。
 どんどんトモダチが増えていく……!

 感動しちゃうなあ。

 だけど、それはAフォンの中だけでのこと。
 学校で開くわけにはいかない。

 寝たふりをしながら、ニヤニヤしつつ一日を過ごした。
 そして放課後……。

「外にイケメンがいる!」「誰だろう?」「誰か待ってるのかな!」「誰かの彼氏?」

 ……兄です。
 やっべえ。
 なんで目立つのあの人。

「V-MAX2000じゃん!」「かっけー……」「あの顔にして金もあるのかよ。世の中不公平だぜ……」

 ……兄です。
 あの男……!
 妹が陰キャとして息を潜めて生活しているというのに……!

 私はこっそりと学校の裏口から出て、兄にDMを送った。

『目立つな。裏で待つ』

『なぜだ』

『目立ちたくないの! わかって! わかれ!』

 考え込むアイコンが送られてきた。
 くっそー!
 ナチュラルボーンで人の中心に立つべく生まれてきた男めえ……!!
 
 青いスポーツカーが走ってきた。
 兄の車だ。
 ちなみに兄はこの間合宿で免許を取った。スポーツカーにでかでかと若葉マークが貼られている。

「乗れ。行くぞ」

「お、おう」

 キョロキョロして、ひと目が無いことを確認して、私は助手席に乗り込んだ。
 兄からサングラスを借りて、変装をする。

「無駄だぞ」

「気持ちだけでも目立たない自分でいたい……!」

 兄の車は、それはもう目立つ!
 免許を取得した後、テンションが上ってカッとなって購入したらしい高級スポーツカーなのだ。
 自然と注目を集めてしまうことになる。

 到着したのは、明らかにお高そうなホテル!
 そして案内される、最上階のレストラン!

「あわわわわ」

「別にお前が望めばいつでも連れてきてやるのに、ずっと断り続けていたからこういう時に慣れていなくて困るんだろうが」

「ううう、うっさい。落ち着かないし、絶対高級な物の味とか分からないし……」

 高級レストランの個室では、スーツ姿のおじさんが二人待っていた。
 兄と私を見て、二人とも立ち上がって頭を下げる。
 こちらも会釈だ。

「そちらがきら星はづきさん……! 新進気鋭の冒険配信者と聞いています。まさか、本当に学生さんだったとは……。あ、わたくし、モスキラーの案件担当でございます」

「きら星はづきのマネージャーをしております」

 兄が名刺交換している。
 いつの間にそんなことに……?
 そう言えば今気付いたけど、兄はどういう伝手で企業案件を持ってきて、それでここまで話を纏めたんだ……!?

 緊張と混乱で、頭の中がぐるぐるだ。
 兄とモスキラーの人たちが商談するのを、水をごくごく飲みながら聞くばかり。

 何を話しているのか、全く頭に入ってこない!

「先日の殺虫剤を使った配信で、やはり当社が声を掛けたのは間違っていなかったと確信を!」

「アンドロコックローチを気後れ無く粉砕するあの姿!」

 あ、頭に入ってきた!!
 覚えがありすぎる!

 ってことは、モスキラーって……。
 記憶を探ってみる。
 モスキラーの社名がついた製品はうちにもあった。

 ゴキジェノサイX。
 強力殺虫剤だ。

 モスジュデッカ。
 超低温スプレーで不快害虫を凍殺するアイデア商品。

 他、数々の虫を殺すことに特化した商品を生み出すメーカーだ。

「弊社の製品を持ち込んでいただき、実際に使用してもらえると」

「商品名をこう、読み上げていただき」

「ふむ、ふむ」

 商談が進んでいく!
 でもこれ、いけるな。
 私、やれるぞ。

「が、がんばります」

 私がどうにか言葉を絞り出したら、モスキラーのおじさんたちの目がキラキラ輝いた。

「ほ……本当にはづきっちの声だ……!」

 あっ、おじさんの片割れ、私のリスナーだ……!!

「な、な、なんかすみません、陰キャで……」

「いえいえ! イメージ通りで! 本当にありがとうございます! いつも仕事を頑張る元気をいただいています!」

 私とおじさんで、ペコペコ頭を下げあった。
 そんな事をしていたらお料理が運ばれてきて……。

「中華だ……!!」

「お前、まだ気付いてなかったのか。コース料理なんか食っても緊張で味わからなくなるだろ。馴染んだところでの商談にしてもらったんだ」

 兄……!
 気遣いができる人め!!

 なんでこれだけデキる男が、トップ冒険配信者を引退して私にAフォンをくれたのか。
 さっぱり分からない。
 だけどお陰で、私はこうして着実に陰キャ脱出の道を歩いて行けている……ような気がする。

 なんか、陰キャ系配信者としてキャラが出来上がってしまっている気もするけど。

「いやあ、美味いですなあ」

 モスキラーのおじさんたちは、すっかりビールで気分が良くなってしまっている。
 兄は紹興酒とか白酒とかいうのをぐいぐい飲んでいて、全く表情が変わっていない。

 酒が強いんじゃない。顔に出ないんだ。
 ……この人、車で来たよね?
 多分、運転代行に任せて、今日はうちに来て泊まってくつもりだ。

 兄、もしかしてこの状況を楽しんでる?
 表情が余り変わらない人だけど、付き合いが長い私には、彼が本当に楽しそうなのが分かる。

 なんで楽しいんだ?

「じゃあ、こちらで受注したダンジョンがありますので、次回はそちらで……」

「はい。配信は明後日行います」

 話はトントン拍子で進んでいく。 
 明後日かあ……。
 私がやる準備は、事前告知くらいかなあ。

 私は私なりに、やれることをやろう!
 初めての企業案件、頑張るぞ!
しおりを挟む
感想 189

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

処理中です...