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第102話 推理の裏付けをせよ

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 とは言ってみたものの。

「あくまで俺の推理に過ぎない」

「いつものことだな」

 イングリドがすぐに納得する。
 俺というキャラクターを実によく理解してくれているようでありがたい。

 見ろ。
 フリッカなど露骨に呆れているではないか。
 ギスカは無関心だな。彼女は人間のあれこれに、そこまで興味を抱かない。観客気分なのだ。

「つまり、その怨霊をおびき出すか探し出して叩きのめせばいいんだな? だが、その前に、そいつが本当に俺がぶん殴れる存在かどうかを確かめる、と」

「戦闘が絡むと君の頭の回転は実に早くなるなジェダ」

「当たり前だ。戦えるかどうかが掛かってるんだぞ。俺にとっちゃ死活問題だ。この世界なんてな、戦いがなければ退屈で堪らん世界なんだ。ああ、全く、魔王を倒した英雄様とやらは余計なことをしてくれたぜ。まだ魔王がいれば、世の中は争いに満ちていて戦う機会も山程あっただろうに……」

 本音がだだ漏れである。
 自ら争いの種を作ろうとしないだけ、彼はまだ善良な方だ。

「思うのだが。オーギュストといい、ネレウスといい、ジェダといい……。魔族というのはどういうタイプの者たちなのかがよく分かってきたな。オーギュストが特別なのだと思っていたが」

「俺をこいつと一緒にするな!」

「俺もジェダとは全然違うと思うが……!」

「似とるわ」

「あっはっは、同類だねえ」

 失敬な。

「ま、あたいらはそんな道化師が気に入ってるからついてきてるわけだけどね。なんだかんだで、あんたとイングリドが絡んだ話はめちゃめちゃにややこしい事になるからね。それでも結局はそれなりの形に収まるし。今回も付き合うよ」

 代表してギスカが言ったが、仲間たちはみんな、概ね同意らしい。
 付き合いがとてもいい。
 ありがたい話だ。

「それで……何をするんや? 裏付けをするって言っても、子どもらがわーって町中に散ってるんやろ? 本人に聞くんか? 現地に行くんか?」

「ジョノーキン村は徒歩で二日かかるから現実的ではないな」

 イングリドの言葉にうなずく。
 俺と彼女でまったり歩いたものな。

 荷馬車でも一日以上はかかる。
 子どもたちが潜伏している間にも、俺の推理通りに怨霊が事件の裏側にいるならば、また犠牲者が出るかも知れない。

 今回は、番頭を刺したのがハンスだとして、傷が浅かったということは彼の意識が抵抗しているのだろう。
 だが、いつそれが怨霊に負けてしまうとも限らない。

「なので、二手に分かれる。俺はアキンドー商会で聞き込みをする。というか、ジョノーキン村の再建はアキンドー商会が出資している。下調べが行われているだろうから、村に残っていた資料も商会にあるだろう」

「俺とフリッカでガキどもを探せばいいな? おいフリッカ」

「はいはい。うちが妖精を呼ばないかんな。んで、オーギュスト。どうやって決着つけるつもりや?」

「ああ、念の為に子どもたちをアキンドー商会の前まで連れてきてくれ。俺たちが影で怨霊を退治するのは簡単かもしれないが、それじゃあ子どもたちに掛けられた疑いは晴れないだろう? それに、せっかくなら派手にやりたい」

「道化師の悪い癖が出たねえ……」

 ギスカが笑った。
 こうして、二手に分かれる。

 最初にジェダが捕まえた子どもは、宿の俺たちの部屋にかくまっている。
 彼が飽きて外に飛び出さないうちに、色々決着をつけたいところだ。

 アキンドー商会は、いつものように営業していた。

「おや、ラッキークラウンの方々。どうしたんですかまた。何か進捗がありましたか」

「ああ。そちらに保管してあるであろう、ジョノーキン村の資料を見たい。俺の推理の裏付けをしたくてね。これができれば、解決まではもうすぐだ」

「ええっ!? もう解決!? 早い!!」

 文字通り、飛び上がって驚くアキンドー商会の商人。
 俺たちはすぐに奥へ案内された。

 商会の仕事を次々に解決し、しかも王女イングリッドが参加している冒険者パーティだ。
 この特別扱いに文句を言う者はいない。

 信頼や実績、コネクションは積み重ねておくものである。

 商会の奥まった場所で、ジョノーキン村に関する資料はまとめられていた。
 ガットルテ城で仕事をしていた時に見知った顔がいる。
 城の文官だ。

「おや、オーギュスト殿! あっ、姫様まで!? どうされたのですかな?」

「ジョノーキン村の資料を調べにね。そうか、村の再開発はガットルテ王国の事業だから、君がここにいるのだな」

「ええ、そうです。村の資料はこのようにまとめてありますよ。本来は外に出してはいけないものですが……」

 文官がイングリドを見て、頷いた。

「なるほど、対策もバッチリということですな。王女殿下が見たいと仰られるなら、これを断ることはできません。どうぞ」

 紙束にまとめられた資料を受け取り、イングリドがきょとんとした。

「……私が読むのか?」

「立場上、俺は外国から来た人間だからね。だが、イングリドなら問題はない。国王陛下にも、事後で報告すればいいだろうし」

「そういうことか。調査に不向きな私はこのために。なるほどねえ……」

 ふっと鼻息をついてから、イングリドが紙束を読み始めた。
 俺と文官に聞こえる程度の大きさの音読である。

「地下に神殿の跡あり。破壊された像あり。魔力痕を検知したが、ごく僅かなり……」

 俺とイングリドが、マンティコアと戦った村の地下。
 あれはもっと深くまで続いていたのだ。
 そしてそこに、神殿があった。

 まつろわぬ民が、自らを怨霊と化し、代々恨み、憎しみを伝えていくための施設だったのだろう。
 シンボルとなるらしき彫像があったそうだ。
 そしてそれは破壊されていた。

 マンティコアによって、彫像を用いた儀式が完遂されたということか?
 いや、今正に執り行われているところに俺たちが乱入し、儀式の完成を不完全にした。

 俺が、今回の子どもたちの凶行について、怨霊による仕業である論を唱えると、文官は深く頷いた。

「それなら納得できます。マンティコアに協力していた村人ですが、彼は自爆する前に倒されたでしょう。その後、魔法が使えなくなったそうなんですよ。つまり、彼らの魔力は彼らの神……言うなれば怨霊が蓄えてきたものを分け与えられていたのでしょう。ですが、それができなくなった。今はその村人は牢におりますが、何の力も無くなっています。これはつまり……」

「怨霊自体が、力を維持できなくなってきている可能性があるな」

 焦りからの犯行。
 どうやらこの線で確定らしいな。
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