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第101話 妄念こそ敵

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 子どもたちは一斉に逃げ出したようだが、彼らに行く先などない。
 それに、計画立てて逃げたわけではないだろう。

 間違いなく、きっかけがあり、理由がある。
 そして衝動的な行動の後は、人というものは決まった行動を取るものである。

 俺はアキンドー商会近辺を見回ることにした。
 俺の動きについてこれるのはジェダしかいないので、彼とともにだ。

「だいたい、お前の言わんとしている事は分かる。人間は動物とはちょいと違うところがあってな。逃げ出しても、気になってどこからかその様子を見たりするもんだ」

 ジェダがくんくんと鼻を動かしている。
 においで子どもを嗅ぎ当てるつもりか。

「戦う気がないやつと、そうじゃないやつ、あるいはおかしくなっちまったやつは、みんなにおいが違う。気配や、表情で察するのもいるな。俺はにおいで分かる。ほれ、いたぞ」

 ジェダは、一見すると何もないような物陰を指差した。
 なるほど。
 そこには桶や、材木の残りなどが適当に積まれている。

 大人が隠れられるほどのスペースはなさそうだが、子どもであれば……。
 じっと見ていると、見知った顔がちょっとだけ出てきて、俺と目が合った。

「きゃっ」と声がして、子ども立ち上がり、逃げていく。

「よし、追うぞ」

「任せておけ!」

 ジェダが駆け出した。
 俺よりも一回り大きな体格なのに、その動きは驚くほど軽やかだ。
 音もなく疾走し、木材を軽々と飛び越え、一瞬で子どもに追いついた。

 ひょいっと子どもの首根っこを捕まえてぶら下げる。

「う、うわーっ! ごめんなさーい!!」

「オーギュスト! ちびを捕まえたぞ。全く、歯ごたえがねえなあ」

「そりゃあ、子どもだからね。さあて君。ごめんなさいと言うことは、君も今回起こった状況が、とんでもないことになっている、そして悪いことだと認識しているわけだね」

「オーギュストさん! は、はい! あの、その、僕は止めようと思ったんですけど、ハンスがおかしくなっちゃって」

 ハンス、というのは、ジョノーキン村の子どもたちのリーダー格だった少年だ。

「なるほど。詳しく教えてもらえるかな? ちなみに俺は、君たちの味方だ」

「うさんくせえ」

 ジェダが笑った。
 だが、子どもは真剣な顔で俺を見つめる。

「ほんとう……?」

「本当だとも。君たちをあの村から救い出した以上、その後の面倒もみるつもりだよ。正確には、君たちをジョノーキン村の呪縛から救い出しきれていないがね」

 彼らの奥深くに残る、まつろわぬ民の教え。
 それを甘く見ていたわけではない。

 だが、端から疑念を持って接していれば、相手が子どもであるからこそ、その気持は伝わってしまうだろう。
 俺は、子どもたちを信頼して接した。

 どうやらそれは間違っていなかったようだ。

 ジェダとともに、子どもを連れて物陰に移動した。

「ハンスがおかしくなったとは、どういうことだね? 彼はどちらかというと、ガキ大将的なキャラクターだったと思っていたが」

「うん。大人たちはさ、村にいた頃、変なことを教えてきてたんだ。今思うと、ガットルテの国の人たちは敵だって言ってたと思う。でさ、ハンスが一番、そんなのバカらしいって言ってたんだ。なのに……いきなり、あいつは大人たちみたいなことを言い出した」

「それはつまり……ガットルテ王国への復讐をせねばならない、とか?」

 その子は目を見開いて俺を見た。
 どうして分かったのか、という顔だ。

「恐らく、あのマンティコアが行おうとしていた儀式は半分まで完了していたのだろう。君たちの誰かが、そのための生贄のようなものになっていたんだ。つまり……死した村人たちの妄念を、永遠のものとして受け継いでいく儀式だ」

 毒霧の中で、抵抗もせずに村人は死んでいた。
 そしてエルダーマンティコアは、子どもたちを捕らえ、生贄にして儀式を行おうとしていたのだ。

 ただ、ここに恐らく俺の誤解があった。
 生贄とは、子どもたちの生命を使うものではなかったのではないか。

 彼らそのものに、村人たちの妄念を下ろす儀式。
 それこそが目的だったのではないだろうか。

 そして恐らく、ハンスに対してそれが成功している。
 あるいは、子どもたちのうちの何人かに儀式は効果を表している。

 ただ、番頭を刺した時の傷は浅かった。
 ここから考えるに……。
 子どもたちの自己意識は完全に残っており、妄念と戦っている可能性がある、と考えられる。

 ここまで話すと、子どもは「はーっ」とため息をついて、目を丸くした。

「オーギュストさん、頭いいんだなあ……。俺、全然そんなこと思いつかなかったよ……。でも確かに、みんな村にいた時よりおとなしかったもんな。なんか、頭の中でそいつらと戦ってたのかな……!」

「ありうるね」

「ふん」

 ジェダが鼻を鳴らした。

「妄念とやらが宿っている? それが本当だとしても、相手はただのガキだろう。怖くも何とも無い。はあ……。今回も血湧き肉躍る戦いとは無縁そうだぜ……」

「そうとも限らない」

「なんだと?」

 俺は、ジョノーキン村での戦いを思い起こしている。
 エルダーマンティコアは、そして腐敗神の司祭は、どうして村人たちと接触できたのか?

「君。ジョノーキン村は、腐敗神を信仰していたのかい?」

「違うよ? あんな気持の悪い神様、信じるもんか」

 腐敗神が聞いたら、大いに嘆きそうな言葉だ。

「うちはね、ご先祖様が神様になるんだってさ。だから、昔死んだご先祖をみんな崇めてたよ」

 先祖が神となったもの。
 それは本当に神だろうか?

 それこそが、まつろわぬ民が恨みを持ち続ける原動力となった、あるいは魔王教団のような者たちを焚き付けてきた、一連の事件の元凶なのではないだろうか。

「実体が無い物。それをどうにかしてなにかに宿らせれば……存分に君が戦える相手になるだろうな」

「ほう! 俺なりに話をまとめると、つまり、敵の親玉は怨霊ってわけだな! こりゃあいい!」

 ジェダがやる気になった。
 俺もやる気になる。

 どうやら、叩くべき相手は明確になったようだ。
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