コストカットだ!と追放された王宮道化師は、無数のスキルで冒険者として成り上がる。

あけちともあき

文字の大きさ
95 / 107

第95話 温泉郷、防衛同盟

しおりを挟む
 温泉に戻ると、すっかり酒と料理でリラックスした仲間たちがいた。
 ディゴは潰れており、その横でイングリドとジェダが陽気に笑いながら、ジョッキいっぱいの酒を乾杯しては飲み干している。
 フリッカは二人よりも酒に弱いため、ノンアルコールの飲み物とちょっぴりのお酒を、交互にやっていた。

「やあ諸君、お楽しみかな。新しい仕事を持ってきたぞ」

 俺がにこやかに告げるので、イングリドがうんうんと当たり前のような顔で頷いた。

「君の姿が見えないから、また悪巧みしていると思った。今度の悪巧みはなんだ?」

「人聞きが悪いが、俺のことをよく理解してくれているのだと解釈しよう」

「オーギュスト! そいつは酒が美味くなる話か? 不味くなるんだったら願い下げだ!」

「うちはどうでもええで。ずっとこう、安らかな気分やからなあ。イングリドの乳を見るまでは安らかやったわ。世の中はあれや。不公平や」

 フリッカが一番出来上がっているな。
 ギスカはドワーフたちを監視してもらっているが、彼女がここにいたら、率先して飲み始めていたことだろう。
 仕事の話をする場合ではなくなるところだった。

「そうだな。ジェダからすると、中庸の話ではないかな? 特に胸が躍る戦いがあるわけでもない。しかし、平和的な話というわけでもない」

「ほう……。ま、俺としちゃ、お前についていったらネレウスともやりあえたし、ワイバーンとも殴り合えた。まあまあ感謝してるからな。気乗りがしない仕事だろうが、ちょっとはやってやってもいいぜ」

「ご理解いただけて幸いだよ! では話をしよう。ああ、俺にも酒を。何、リザードマンの酒は果実酒なのかい? なんと、意外にもフルーティだな……。ああ、失敬。話というのは、この温泉観光地を守るために、俺たちが手を尽くそうという、そういうことだ」

「ああ、うん。この温泉は素晴らしいな。守らなくてはならない」

 イングリドが重々しく頷く。

「イングリドな。あの後、酒を飲んでは温泉入って、そしてまた出てきて酒飲んでるんや。めっちゃ温泉にはまってるで」

「この規模の湯船はガットルテには存在しないからね。彼女はもともときれい好きだし、気持ちはよく分かる」

 俺は酒をぐっと呷る。
 甘みは、思ったほど強くない。
 香りが凄いな。これは天然のものだろうか。

 シャイクが美味そうに酒を飲んでいる。
 まずは香りを楽しんでいるな。
 リザードマンは、嗅覚が発達しているのだ。

「おっと……つまりだな。この素晴らしい温泉郷が今、危機に晒されている。それは鉱山都市による侵略の危機だ」

「侵略……!!」

 俺の話が聞こえたのか、酒場にいたリザードマンたちがこちらに注目する。
 そうだな、彼らにも聞いてもらうべきだ。

「諸君! 諸君はこの素晴らしい温泉に浸かり、そしてイフリートを崇めるためにやって来ている!」

 リザードマンたちが頷く。
 やっぱり温泉が第一か。

「だが、この温泉を脅かす者がいるのだ! それはドワーフの鉱山都市! 無限に大地を掘り進む彼らが、温泉に手を伸ばそうとしている! いや、それだけではない。彼らは、そこまで温泉に興味がないのだ! この意味は分かるかね……!?」

 ざわつく酒場。

「温泉に興味がない……?」

「そんな馬鹿な……」

「ドワーフは、鉱石を掘り進め、ひたすらに採取することにしか興味がない! ちなみに俺の仲間のドワーフの話では、鉱山都市では主に蒸気浴で湯船には浸からないし、温泉が出ても入る用にせず、加工して流してしまうそうだ」

 ざわめきが大きくなった。

「は、破壊者だ……」

「温泉の破壊者……!」

「我々の温泉が危ない……!!」

 リザードマンたちがどよどよと騒ぐ。
 酒場の外まで騒ぎが広がっていき、周囲に、聖地にやってきていたリザードマンのほとんどが集まりつつあるようだ。

 これは好都合。
 俺は声を張り上げた。

「ドワーフの鉱山都市は、この温泉を侵略し、鉱石を掘り出すための一部として加工してしまおうと考えている! 彼らは止まらない! 話し合いは通じない! 何故か! ドワーフの頭が硬いからだ!」

 ここで、リザードマンたちからクスクス笑いが漏れた。
 彼らのユーモアセンスは、ドワーフよりも人間に近いかも知れない。

「ということでだ。ドワーフの硬い鉱石頭を柔らかくし、話し合いなどもできるようにするために、一発、ショックを与えて熱してやろうと思っているんだ。諸君! 戦いはお好きかな?」

 この問いかけに、リザードマンたちの中で、威勢のいい若者が吠える。
 だが、年かさの者たちは肩をすくめた。

 そう。
 守るための戦いは、勝っても失わないだけで得るわけではない。
 むしろ、戦いの中で何かを失うかも知れない。

「では、戦いは最小限。しかし、ドワーフ諸君には二度と温泉郷に近寄らぬよう、トラウマを植え付けて撤退していただく戦法があるとすればどうだろう! 彼らはどうやら、諸君が信じる大妖精、イフリートによく似たモノが怖いそうだ。悪魔バルログだ!」

 オー、とどよめく民衆。
 いやあ、大勢に注目されるのは実に気持がいい。

「乗ってるなあ、オーギュスト」

「彼は観客がいるほど調子に乗っていくタイプだからな」

「だがしかし、諸君……! バルログは既に滅ぼされ、存在しない。そして諸君の信じるイフリートもまた、おいそれと姿を見られるものじゃない。どうする?」

 俺の問いかけに、人々は腕組みをして考えた。
 いやあ……実に話し甲斐がある……。

「作るんだよ。我々で、イフリートを作る! なんと、ドワーフの中にも温泉を軽視する上層部に反感を抱く者がいる。彼らの協力を取り付けてきた! 温泉を守るため、彼らは手を貸してくれるそうだ!」

 オオーっと民衆がどよめく。

「あれっ、そんな話だったかな……?」

 シャイクが首を傾げた。
 いいのだ。
 この辺りは、お互いが共闘できると思えるような物語があればいい。

 真実だけが真実ではないのだ。
 信じたいものが真実となる。
 世の中そんなものだ。

「これより、イフリート教と、ドワーフの温泉を守る一党で、温泉郷防衛同盟を結成! 明後日より、温泉郷を守る作戦を始める!」
しおりを挟む
感想 115

あなたにおすすめの小説

異世界人生を楽しみたい そのためにも赤ん坊から努力する

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は朝霧 雷斗(アサギリ ライト) 前世の記憶を持ったまま僕は別の世界に転生した 生まれてからすぐに両親の持っていた本を読み魔法があることを学ぶ 魔力は筋力と同じ、訓練をすれば上達する ということで努力していくことにしました

ダンジョンに捨てられた私 奇跡的に不老不死になれたので村を捨てます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はファム 前世は日本人、とても幸せな最期を迎えてこの世界に転生した 記憶を持っていた私はいいように使われて5歳を迎えた 村の代表だった私を拾ったおじさんはダンジョンが枯渇していることに気が付く ダンジョンには栄養、マナが必要。人もそのマナを持っていた そう、おじさんは私を栄養としてダンジョンに捨てた 私は捨てられたので村をすてる

微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する

こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」 そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。 だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。 「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」 窮地に追い込まれたフォーレスト。 だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。 こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。 これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。

職業ガチャで外れ職引いたけど、ダンジョン主に拾われて成り上がります

チャビューヘ
ファンタジー
いいね、ブックマークで応援いつもありがとうございます! ある日突然、クラス全員が異世界に召喚された。 この世界では「職業ガチャ」で与えられた職業がすべてを決める。勇者、魔法使い、騎士――次々と強職を引き当てるクラスメイトたち。だが俺、蒼井拓海が引いたのは「情報分析官」。幼馴染の白石美咲は「清掃員」。 戦闘力ゼロ。 「お前らは足手まといだ」「誰もお荷物を抱えたくない」 親友にすら見捨てられ、パーティ編成から弾かれた俺たちは、たった二人で最低難易度ダンジョンに挑むしかなかった。案の定、モンスターに追われ、逃げ惑い――挙句、偶然遭遇したクラスメイトには囮として利用された。 「感謝するぜ、囮として」 嘲笑と共に去っていく彼ら。絶望の中、俺たちは偶然ダンジョンの最深部へ転落する。 そこで出会ったのは、銀髪の美少女ダンジョン主・リリア。 「あなたたち……私のダンジョンで働かない?」 情報分析でダンジョン構造を最適化し、清掃で魔力循環を改善する。気づけば生産効率は30%向上し、俺たちは魔王軍の特別顧問にまで成り上がっていた。 かつて俺たちを見下したクラスメイトたちは、ダンジョン攻略で消耗し、苦しんでいる。 見ろ、これが「外れ職」の本当の力だ――逆転と成り上がり、そして痛快なざまぁ劇が、今始まる。

精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ
ファンタジー
 2020.9.6.完結いたしました。  2020.9.28. 追補を入れました。  2021.4. 2. 追補を追加しました。  人が精霊と袂を分かった世界。  魔力なしの忌子として瘴気の森に捨てられた幼子は、精霊が好む姿かたちをしていた。  幼子は、ターニャという名を精霊から貰い、精霊の森で精霊に愛されて育った。  ある日、ターニャは人間ある以上は、人間の世界を知るべきだと、育ての親である大精霊に言われる。  人の世の常識を知らないターニャの行動は、周囲の人々を困惑させる。  そして、魔力の強い者が人々を支配すると言う世界で、ターニャは既存の価値観を意識せずにぶち壊していく。  オーソドックスなファンタジーを心がけようと思います。読んでいただけたら嬉しいです。

元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~

下昴しん
ファンタジー
武力で領土を拡大するベギラス帝国に二人の皇子がいた。魔法研究に腐心する兄と、武力に優れ軍を指揮する弟。 二人の父である皇帝は、軍略会議を軽んじた兄のフェアを断罪する。 帝国は武力を求めていたのだ。 フェアに一方的に告げられた罪状は、敵前逃亡。皇帝の第一継承権を持つ皇子の座から一転して、罪人になってしまう。 帝都の片隅にある独房に幽閉されるフェア。 「ここから逃げて、田舎に籠るか」 給仕しか来ないような牢獄で、フェアは脱出を考えていた。 帝都においてフェアを超える魔法使いはいない。そのことを知っているのはごく限られた人物だけだった。 鍵をあけて牢を出ると、給仕に化けた義妹のマトビアが現れる。 「私も連れて行ってください、お兄様」 「いやだ」 止めるフェアに、強引なマトビア。 なんだかんだでベギラス帝国の元皇子と皇女の、ゆるすぎる逃亡劇が始まった──。 ※カクヨム様、小説家になろう様でも投稿中。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

商人でいこう!

八神
ファンタジー
「ようこそ。異世界『バルガルド』へ」

処理中です...