上 下
18 / 107

第18話 まとめて刈り取れ

しおりを挟む
 あちこちの倉庫から、何かを破壊するような音が響き渡る。
 デビルプラントは地の底で繋がり合っていたようだ。
 彼らはそういう習性を持つ。

「旅の商人は、腐敗神プレーガイオスの司祭だったのだろうな。彼らは、青や紫と言った寒色の布を好む。そして人の善意や好奇心を利用し、そこに腐敗と滅びの種をばらまいて回るんだ」

「何故そのようなことを……」

「彼らの始まりが、まつろわぬ民だからだよ。かつてこの地に住んでいた民が、異なる民族に追われて土地を失う。彼らは復讐を誓い、プレーガイオスを邪神として呼び込んだ。邪悪に作られた生物であるマンティコアなどを除けば、人がプレーガイオスを信仰する時、そこにあるのは復讐の思いだ」

 倉庫の外に出ると、村人たちの悲鳴が聞こえてくる。
 俺たちの応対で外に出てきていたから、今のところは誰も犠牲になってはいないな。

「では……奴らは悪ではないというのか……? この国が彼らを追いやったから、彼らは復讐のためにこんな事件を起こしている……」

 イングリドが動揺した。
 俺は肩をすくめてみせる。

「悪に決まってるじゃないか。無関係な人間を巻き込んだり、何代にも渡って無差別に悪意を振りまく者なんか、悪以外の何物でもない。さあ、片付けるとしよう!」

「そうか……そうだな! 分かった!!」

 イングリドは力強く頷いた。
 彼女はまだ若い。
 悩むこともあるだろう。だが、この件はよく考えれば悩む必要など無い。

 後ろで不安げにしている子どもたちに、笑いかける。

「安心したまえ。幸いにして事件は小規模のうちに片付くだろう。これも、諸君が正直な話をしてくれたおかげだ。俺と彼女は、畑を枯らしたこの悪魔的植物が偶然現れたところを、退治するとしよう!」

 子どもたち驚いた顔を向けてくる。

「お、大人に言わないの!?」

「これは事故だ。悪漢というものは、人の心の隙間をついてくるものさ。諸君は好奇心旺盛な若者であったから、そこを付け込まれたに過ぎない。だが、好奇心とは人が前に進む力だ。一度の失敗で、君たちがこの力を失うべきではない。苦労は、この道化師と死神が受け持とう!」

「おいこらオーギュスト! 私は死神じゃないってば!」

 ぺちりとイングリドに叩かれた。
 俺がしまった、と舌を出したら、子どもたちがワッと笑った。

「さあ、ご覧あれ。悪漢の狙いなど、たちまちのうちに粉砕して見せよう!」

 朗々と宣言し、破壊されていく倉庫に向かうのだ。

「諸君! 逃げたまえ! あれこそは、旅の商人が密かにばらまいていた、畑を枯らす事件の首魁! 悪魔の種、デビルプラントだ!」

 俺の言葉に応じるように、倉庫を突き破って巨大な顔面が飛び出してきた。
 赤紫色の、大型の牛ほどもある頭と、そこから生えた無数の触手。
 あれは根であろう。

 頭上には、まだつぼみを付けていない茎が何本も生えていた。
 複数のデビルプラントが一つになった姿である。

『オォ――』

 デビルプラントが吠え始める。
 死の叫びで、村人を殺そうというのだろう。
 流石にあの大きさの口を、ハンカチで塞ぐことはできない。

「イングリド! 槍を!」

「ああ、任せろ! うぅぅぅ、あ────ッ!!」

 裂帛の気合とともに、投擲される魔法の槍。
 それは正確な狙いで、デビルプラントの口に突き刺さった。

『ウグワーッ!?』

 叫びを阻害され、叫ぶデビルプラント。
 死の叫びとは、一種の呪詛のようなものだ。

 叫び声で綴られるが、それは正確な音階の叫びでなければならない。
 槍が刺さっていては、放てない。

 デビルプラントが、槍を抜こうと身を捩り、触手を持ち上げていく。
 好機。

 俺は駆け出した。
 持ち上がっていく触手に飛び乗ると、その上をひょいひょいと跳んでいく。

『!?』

 慌てて俺を払い落とそうとするデビルプラントだが、植物のモンスターというものは動きが鈍い。
 そんな動きで道化師を捉えられるものか。

 俺はこいつを回避しながら、奴の口に突き刺さった槍の柄を、思い切り蹴飛ばした。
 より深くに槍を押し込んだのだ。

『ウグワーッ!?』

 仰け反るデビルプラント。
 この隙に、こいつの足元にイングリドが駆け込んでいる。

 彼女は村人から借りたらしき斧で、デビルプラントの足の部分、すなわち根を叩き切り始めた。

『がおぉぉぉっ! うがぁぁっ!!』

 これにはデビルプラントも大慌てである。
 植物だからな。
 根をやられたら栄養を吸収できなくなる。

 だが、イングリドに集中させはしない。
 俺はナイフを抜いて、こいつの額に突き刺した。

『ぐおぉっ!』

「お前さんの核がある位置は、さっきイングリドが教えてくれたんだ。一発で核をぶち抜く辺り、流石の幸運スキルと言ったところだな!」

 ナイフを突き刺し、素早くその柄からピンを抜いて取っ手を外す。
 そして、刃だけになったナイフを蹴って奥深く押し込む。
 これを素早く、何本も連続で行うわけだ。

 デビルプラントが暴れる、暴れる。
 身軽な俺でなければ、とっくに振り落とされているところである。

 俺に意識を集中したせいで、イングリドの妨害ができなかったデビルプラント。
 ついに、支えとなっていた根をあらかた叩き切られたようだ。

 ぐらり、と傾ぐと、そのまま巨体を地面に横たえた。

『ウグワーッ!!』

「イングリド! 斧を投げてくれ!」

「分かった! 当たるなよ! 死ぬなよ!」

「君が言うと冗談にならないな!」

 投擲されてきた斧は、ジャストのところで斧の刃が俺の方に向いている。
 これをちょっと首をすぼめてやり過ごし、柄が来たところでキャッチした。

 斧の回転を利用しながら起き上がり……突き出したナイフの柄を目掛けて、一気に斧を叩き込む!
 すると、深く突き刺さった何本ものナイフは、デビルプラントの肉を深くえぐりながら弾け飛んだ。

『ウグワーッ!?』

 抉れた奥底に、蠢く透明な部位がある。
 エビルプラントの核であり、この植物が動物のように動くことができる部位だ。

 これがあるからこそ、エビルプラントはプレーガイオスの眷属たりうる。
 その正体は、腐敗神に仕える天使のようなものである。

 当然、通常の武器では通用しない。

「イングリド!」

「既に来ている! はあーっ!!」

 女戦士が駆け寄ってくる音がした。
 既に、魔法の剣が抜かれている。

 切っ先が俺の横を抜けていき、穿たれたエビルプラントの額に、奥深く突き刺さった。
 悪魔の植物の目から、輝きが消える。

「動かなくなってしまった」

「ただの植物になったからね。さて、イングリド。凱旋だ」

「凱旋?」

 振り返る彼女の目の前では、恐ろしいモンスターを見事に討伐した我々を迎える、村人たちの姿があった。

「やったー!」

「モンスターを倒したぞ!」

「凄いぞー!」

 俺は彼女の肩を叩きながら告げる。

「こうしてコツコツ仕事をやっていけば、君が素晴らしい仕事をする冒険者だということが周囲に伝わっていくだろう。そうなれば、死神の汚名返上などすぐというものさ」

「あ、ああ!」

 イングリドの表情が微笑みに変わる。
 かくして、村を襲っていた謎の疫病の正体は明らかになった。

 同時に俺は、ジョノーキン村とこの村の事件の裏で、腐敗神の思惑が動いていることを察するのである。
 大事にならねばいいが。
 いや、大事になり、それを解決することが目的への近道となるだろうか?

 うーむ……悩ましい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

とあるオタが勇者召喚に巻き込まれた件~イレギュラーバグチートスキルで異世界漫遊~

剣伎 竜星
ファンタジー
仕事の修羅場を乗り越えて、徹夜明けもなんのその、年2回ある有○の戦場を駆けた夏。長期休暇を取得し、自宅に引きこもって戦利品を堪能すべく、帰宅の途上で食材を購入して後はただ帰るだけだった。しかし、学生4人組とすれ違ったと思ったら、俺はスマホの電波が届かない中世ヨーロッパと思しき建築物の複雑な幾何学模様の上にいた。学生4人組とともに。やってきた召喚者と思しき王女様達の魔族侵略の話を聞いて、俺は察した。これあかん系異世界勇者召喚だと。しかも、どうやら肝心の勇者は学生4人組みの方で俺は巻き込まれた一般人らしい。【鑑定】や【空間収納】といった鉄板スキルを保有して、とんでもないバグと思えるチートスキルいるが、違うらしい。そして、安定の「元の世界に帰る方法」は不明→絶望的な難易度。勇者系の称号がないとわかると王女達は掌返しをして俺を奴隷扱いするのは必至。1人を除いて学生共も俺を馬鹿にしだしたので俺は迷惑料を(強制的に)もらって早々に国を脱出し、この異世界をチートスキルを駆使して漫遊することにした。※10話前後までスタート地点の王城での話になります。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。 しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。 途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。 しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。 「ミストルティン。アブソープション!」 『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』 「やった! これでまた便利になるな」   これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。 ~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

処理中です...