コストカットだ!と追放された王宮道化師は、無数のスキルで冒険者として成り上がる。

あけちともあき

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第18話 まとめて刈り取れ

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 あちこちの倉庫から、何かを破壊するような音が響き渡る。
 デビルプラントは地の底で繋がり合っていたようだ。
 彼らはそういう習性を持つ。

「旅の商人は、腐敗神プレーガイオスの司祭だったのだろうな。彼らは、青や紫と言った寒色の布を好む。そして人の善意や好奇心を利用し、そこに腐敗と滅びの種をばらまいて回るんだ」

「何故そのようなことを……」

「彼らの始まりが、まつろわぬ民だからだよ。かつてこの地に住んでいた民が、異なる民族に追われて土地を失う。彼らは復讐を誓い、プレーガイオスを邪神として呼び込んだ。邪悪に作られた生物であるマンティコアなどを除けば、人がプレーガイオスを信仰する時、そこにあるのは復讐の思いだ」

 倉庫の外に出ると、村人たちの悲鳴が聞こえてくる。
 俺たちの応対で外に出てきていたから、今のところは誰も犠牲になってはいないな。

「では……奴らは悪ではないというのか……? この国が彼らを追いやったから、彼らは復讐のためにこんな事件を起こしている……」

 イングリドが動揺した。
 俺は肩をすくめてみせる。

「悪に決まってるじゃないか。無関係な人間を巻き込んだり、何代にも渡って無差別に悪意を振りまく者なんか、悪以外の何物でもない。さあ、片付けるとしよう!」

「そうか……そうだな! 分かった!!」

 イングリドは力強く頷いた。
 彼女はまだ若い。
 悩むこともあるだろう。だが、この件はよく考えれば悩む必要など無い。

 後ろで不安げにしている子どもたちに、笑いかける。

「安心したまえ。幸いにして事件は小規模のうちに片付くだろう。これも、諸君が正直な話をしてくれたおかげだ。俺と彼女は、畑を枯らしたこの悪魔的植物が偶然現れたところを、退治するとしよう!」

 子どもたち驚いた顔を向けてくる。

「お、大人に言わないの!?」

「これは事故だ。悪漢というものは、人の心の隙間をついてくるものさ。諸君は好奇心旺盛な若者であったから、そこを付け込まれたに過ぎない。だが、好奇心とは人が前に進む力だ。一度の失敗で、君たちがこの力を失うべきではない。苦労は、この道化師と死神が受け持とう!」

「おいこらオーギュスト! 私は死神じゃないってば!」

 ぺちりとイングリドに叩かれた。
 俺がしまった、と舌を出したら、子どもたちがワッと笑った。

「さあ、ご覧あれ。悪漢の狙いなど、たちまちのうちに粉砕して見せよう!」

 朗々と宣言し、破壊されていく倉庫に向かうのだ。

「諸君! 逃げたまえ! あれこそは、旅の商人が密かにばらまいていた、畑を枯らす事件の首魁! 悪魔の種、デビルプラントだ!」

 俺の言葉に応じるように、倉庫を突き破って巨大な顔面が飛び出してきた。
 赤紫色の、大型の牛ほどもある頭と、そこから生えた無数の触手。
 あれは根であろう。

 頭上には、まだつぼみを付けていない茎が何本も生えていた。
 複数のデビルプラントが一つになった姿である。

『オォ――』

 デビルプラントが吠え始める。
 死の叫びで、村人を殺そうというのだろう。
 流石にあの大きさの口を、ハンカチで塞ぐことはできない。

「イングリド! 槍を!」

「ああ、任せろ! うぅぅぅ、あ────ッ!!」

 裂帛の気合とともに、投擲される魔法の槍。
 それは正確な狙いで、デビルプラントの口に突き刺さった。

『ウグワーッ!?』

 叫びを阻害され、叫ぶデビルプラント。
 死の叫びとは、一種の呪詛のようなものだ。

 叫び声で綴られるが、それは正確な音階の叫びでなければならない。
 槍が刺さっていては、放てない。

 デビルプラントが、槍を抜こうと身を捩り、触手を持ち上げていく。
 好機。

 俺は駆け出した。
 持ち上がっていく触手に飛び乗ると、その上をひょいひょいと跳んでいく。

『!?』

 慌てて俺を払い落とそうとするデビルプラントだが、植物のモンスターというものは動きが鈍い。
 そんな動きで道化師を捉えられるものか。

 俺はこいつを回避しながら、奴の口に突き刺さった槍の柄を、思い切り蹴飛ばした。
 より深くに槍を押し込んだのだ。

『ウグワーッ!?』

 仰け反るデビルプラント。
 この隙に、こいつの足元にイングリドが駆け込んでいる。

 彼女は村人から借りたらしき斧で、デビルプラントの足の部分、すなわち根を叩き切り始めた。

『がおぉぉぉっ! うがぁぁっ!!』

 これにはデビルプラントも大慌てである。
 植物だからな。
 根をやられたら栄養を吸収できなくなる。

 だが、イングリドに集中させはしない。
 俺はナイフを抜いて、こいつの額に突き刺した。

『ぐおぉっ!』

「お前さんの核がある位置は、さっきイングリドが教えてくれたんだ。一発で核をぶち抜く辺り、流石の幸運スキルと言ったところだな!」

 ナイフを突き刺し、素早くその柄からピンを抜いて取っ手を外す。
 そして、刃だけになったナイフを蹴って奥深く押し込む。
 これを素早く、何本も連続で行うわけだ。

 デビルプラントが暴れる、暴れる。
 身軽な俺でなければ、とっくに振り落とされているところである。

 俺に意識を集中したせいで、イングリドの妨害ができなかったデビルプラント。
 ついに、支えとなっていた根をあらかた叩き切られたようだ。

 ぐらり、と傾ぐと、そのまま巨体を地面に横たえた。

『ウグワーッ!!』

「イングリド! 斧を投げてくれ!」

「分かった! 当たるなよ! 死ぬなよ!」

「君が言うと冗談にならないな!」

 投擲されてきた斧は、ジャストのところで斧の刃が俺の方に向いている。
 これをちょっと首をすぼめてやり過ごし、柄が来たところでキャッチした。

 斧の回転を利用しながら起き上がり……突き出したナイフの柄を目掛けて、一気に斧を叩き込む!
 すると、深く突き刺さった何本ものナイフは、デビルプラントの肉を深くえぐりながら弾け飛んだ。

『ウグワーッ!?』

 抉れた奥底に、蠢く透明な部位がある。
 エビルプラントの核であり、この植物が動物のように動くことができる部位だ。

 これがあるからこそ、エビルプラントはプレーガイオスの眷属たりうる。
 その正体は、腐敗神に仕える天使のようなものである。

 当然、通常の武器では通用しない。

「イングリド!」

「既に来ている! はあーっ!!」

 女戦士が駆け寄ってくる音がした。
 既に、魔法の剣が抜かれている。

 切っ先が俺の横を抜けていき、穿たれたエビルプラントの額に、奥深く突き刺さった。
 悪魔の植物の目から、輝きが消える。

「動かなくなってしまった」

「ただの植物になったからね。さて、イングリド。凱旋だ」

「凱旋?」

 振り返る彼女の目の前では、恐ろしいモンスターを見事に討伐した我々を迎える、村人たちの姿があった。

「やったー!」

「モンスターを倒したぞ!」

「凄いぞー!」

 俺は彼女の肩を叩きながら告げる。

「こうしてコツコツ仕事をやっていけば、君が素晴らしい仕事をする冒険者だということが周囲に伝わっていくだろう。そうなれば、死神の汚名返上などすぐというものさ」

「あ、ああ!」

 イングリドの表情が微笑みに変わる。
 かくして、村を襲っていた謎の疫病の正体は明らかになった。

 同時に俺は、ジョノーキン村とこの村の事件の裏で、腐敗神の思惑が動いていることを察するのである。
 大事にならねばいいが。
 いや、大事になり、それを解決することが目的への近道となるだろうか?

 うーむ……悩ましい。
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