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おふとん。
しおりを挟む「ん……?」
ぼんやりと意識が浮上すると、そこは暗くて温かくて、いつまでも微睡んでいたくなるような心地好い空間だった。
ここは安心安全のわたしの部屋だ。ずっとここに居たい。何も考えずにこの穏やかな気持ちのまま過ごしていたい。
そう思うのに、大好きなお布団で二度寝しようとした矢先、どうやらこの部屋は明確な意思をもって、わたしを追い出そうとしていることに気付く。
「え……なに!?」
暗闇の中、転た寝をするわたしを包み込んでくれていた温かな布団は、いつの間にか何者かに奪われていた。
加えて先程から何やら外が騒がしいし、部屋も何となく狭くなっていってる気がする。急な環境の変化に戸惑うしか出来ない。
何かの陰謀か、はたまた天変地異の前触れか。
思わず叫びたくなったけれど、もし部屋自体に意思があるのなら、わたしが異変に気付いたことを悟られるのはまずい気がした。
「えー……でも、これ、このままじゃやばいよね?」
そうこうしている間に明らかに狭くなっていく部屋の中で、このままここに居てはいけないと本能的に感じたわたしは、精一杯何とかしようと考える。
けれど、逃げるにしたって、どこに行けばいいのかもわからない。何しろこちとら寝起きなのだ。
「あ……こっちだ!」
ふと頭の方に風を感じて、見上げるとほんの僅かに明かりが差し込んでいるのに気付く。
出口はきっとあっちだと感じたわたしは、反射的にその光めがけて頭をねじ込んだ。
そして、そのままドリルになった気分で、少しずつ身体を捻りながらその細道を突き進む。
「うう……」
正直めちゃくちゃ苦しい。超狭い。普通に痛い。頭が変形しそうだ。というか、もしかすると出方を間違えたかもしれない。
けれど今更戻ることも出来ず、わたしは何とか進み続けた。
今まで過ごしていた心地好い部屋から追いやられ、名残惜しさと悲しみを感じながらも、わたしは進む。
そして、ようやくその狭い道を抜けた先、わたしはその解放感と達成感に思わず歓喜の声を上げた。
「おぎゃあおぎゃあ……!」
「おめでとうございます、元気な女の子ですよ!」
「ああ……やっと会えた。私の赤ちゃん……ふふ、かわいい」
温かく心地好い羊水がなくなった代わりに、わたしは少し汗ばんだお母さんの腕に抱かれる。
まあ、これはこれで悪くない気がする。
こうして暗くて小さな部屋から抜け出したわたしは、目を開けていられないくらい眩しい世界へと、元気に生まれ落ちたのだった。
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