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90 わたしはまたしても〇〇〇

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「そういえば、レティーは今日どうしてお泊まり会なんて開こうと思ったの?」
「………珍しいわね、ジェフがそんなこと聞くなんて。」

 唐突な彼の質問に、わたしは感情の読めない微笑みを浮かべた。今日のお泊まり会が最後になるかもしれないからなんて、誰が言えるものか。わたしはそのまま微笑みを浮かべてはぐらかすことにした。

「………そういえばジェフ、フレイアさまが東方の“将棋”というオモチャを取り寄せて下さったらしいの。1局いかが?」
「ルールも分からないゲームに、僕が付き合うとでも?」
「………付き合わないわね。」

 わたしはジェフに笑いかけてから、将棋盤にチェスの駒を並べる時よりも、丁寧に丁寧に将棋の駒を並べた。手触りと香り高い木の香りが良い将棋の盤と駒は、見るからに面白げだ。

「レティーは『王将』と『玉将』、どっちが良い?」
「どちらでも。」
「じゃあ、私が王将をもらうわね。」
「はい。」

 将棋では基本、強い人の方が『王将』の駒を持つことになっている。フレイアさまの方がわたしよりも強いのは一目瞭然だから、妥当な選択だろう。

「じゃあ、『歩』を5つとって………、えい!」

 カランコロン、

 子気味の良い音に合わせて、フレイアさまの『歩』の駒が、『歩』の向きに1つ、『と金』も向きに4つ転がった。ある意味すごい配分だ。

 カランコロン、わたしも転がしたが、『歩』が3つで、『と金』が2つだった。これで、わたしが先手に決まった。

「じゃあ、始めましょうか。」

 わたしはフレイアさまの言葉に、こくんと1つ頷いた。そして、『歩』をパチン!と1歩前に進めた。

▫︎◇▫︎

「………、………参りました。」
「ふふふっ、私に負けたのがそんなに不満?」
「えぇ、不満です。」

 ゲーム開始から30分、早くもわたしはフレイアさまに負けてしまった。手も足も出ていなかった気がするのはできれば気のせいだと思いたい。

「慣れないゲームでここまでできたのだから、私は十分だと思うわよ?」
「………いいえ、わたしにはまだ足りないわ。」

 そう、わたしには足りない。全く足掻けていないとは思いたくないが、今のわたしではお兄さまと戦う脳が足りない。わたしはそっと、息を吐き出した。

「ジェフ、次の相手をしてちょうだい。」
「うえぇー、」
「………、」

 わたしは2人の戦いをただただ観戦することにした。

*******************

読んでいただきありがとうございます😊😊😊

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