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5 朝のお散歩

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「ライアン!!ぐずぐずしないでさっさと起きなさい!!」
「うぅー、ねむいよ、ははうえ。まだ6じすぎだよ?」
「お黙り!お散歩に行くから5分以内にお着替えまで終わらせなさい!!」

 わたくしは絶句した。穏やかな雰囲気の女性が怒鳴っているのは正直に言って迫力満点だ。

「ディア、部屋の前で待っていましょう。お馬鹿もここまで喝を入れれば5分以内に出てくるでしょう」
「は、はい」

 ごめんなさい、ライアン。わたくしにはどうにもできないわ。
 わたくしはライアンに心の中で謝罪しながら、部屋の前に立ちました。

「ディアはいつからお散歩をしているのですか?」

 唐突にお義母さまに話しかけられ、わたくしは肩をびくりと揺らしました。
 先程息子を怒鳴っていたとは思えないほどに穏やかな声音です。

「5年前からですわ。どうしても起きられない日以外はずっとお散歩していますの。雨の日はお屋敷の中を探検していますわ」
「楽しそうですわね」
「えぇ、楽しいですわ。だってとってもわくわくするもの!」

 わたくしはこのお屋敷にあった隠し通路を見つけた時を思い出して口元を綻ばせた。

「笑った」
「え?」
「貴方が心の底からの笑みをやっと見せてくれたから」
「!!」

 わたくしは今、目をこれでもかというほどに見開いてしまっているでしょう。淑女たるもの表情は常に操らねばなりませんのに。

「貴方は悲しいの?」
「………何をおっしゃっているのか分かりかねますわ」
「私はずっと周りの事を観察してきましたの。だから、ちょっとした表情の違いも見分けられますわ。貴方の笑みはとっても分かりにくいけれど、偽りの笑み」
「っ、」
「だからね、私、貴方を笑わせたかったの。ーーーとっても可愛いわね」

 敬語が抜けたお義母さまはとっても眩しかった。
 きらきらした金髪に、空色に瞳。ありふれた色彩だけれども、太陽のように鮮やかだった。わたくしには遠い世界だということが、ありありと伝わってくる。

「………母上、おはよう。それで?お散歩ってなに?」
「ディアが朝のお散歩に誘ってくれたの。せっかくだから庭園を案内してもらいましょう」

 ライアンは今更わたくしに気がついたのか、不機嫌そうに眉を顰めた。

「おはようございます、義姉上」
「おはようございます、ライアン。その、ご愁傷様で」

 意地悪をしてしまったのにも関わらず、わたくしは何故か謝ってしまった。だって本当に不憫なんだもの。

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読んでいただきありがとうございます😊😊😊

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