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おまけの時間

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泣いてしまったことと、緊張の糸が切れたことで、自分の体力の限界が来ていたらしい。
3人が見送ってくれると言うのを断り、1人でよろよろと歩き始める。
乃田さんと高杉君は部活、布之さんは委員のお仕事のようなもの、と言っていたけれど、きっと先生のお手伝いなどをするのだろう。

「私のことは、気にしないで?あの、少しだけ疲れてしまっただけだから…」
そう言う私に、3人は渋っていたけれど。
「また、明日も一緒なんだよね?」
私が不安がっていることを知ってか、3人とも強く頷いてくれた。

「だから…あの、部活に遅れてしまうし、先生に悪いから…」
「分かった。春川が気にするから、部活に行く」
高杉君の声に、ホッとする。

「私も、仕方ないから行くか…」
「あら?あかりは、先生に言ってから来なかったの?」
「あったりまえだろ」
乃田さんの、自信のある口調に私の方が青くなる。

「ほら、春川がドン引きしているわ」
「だって、いると思ったのに体育倉庫に相川いないんだもん」
陸上部の乃田さんは、顧問の先生がいなかったから言ってこなかったようだった。

「え、と。乃田さん、急いで行かなくて、大丈夫?」
「そんな赤い目の春川に心配されても、逆にこっちが心配になるわ」
「呑気だな、乃田は」
高杉君の声に、乃田さんは溜め息をついた。

「高杉は余裕だな」
「まぁ?昼休みの内に、真田先生に遅れると言ってあるからな」
「くっそ、腹立つな」

「あかり?」
「…悪い」
「じゃ、貴方達は急いで行ってらっしゃい」

布之さんの言葉に、乃田さんと高杉君は私を気にしながら資料室を出て行った。
「さて、じゃあ春川行きましょうか?」
布之さんの言葉に、私は首を傾げる。

「林先生に、説明するわ。誤解されても嫌だから。勿論、春川の保護者の方にもね?」
「そ!そんな、そこまで頼めないから…」
「遠慮しないで」

「遠慮じゃなくて、布之さんも用事があったんじゃないの?」
「まぁ、貸し借りなしにする用事がね?」
「だから、大丈夫です」

「本当に?」
布之さんの確かめるような眼差しに、しっかりと頷く。
「…そうね、しつこくしても春川の迷惑になるものね」
布之さんの言葉に、「あ」と言ってしまう。
何で、親切にしてもらったことを、仇で返すようなことしか出来ないんだろう。

自己嫌悪。
「春川」
優しい声に、俯いていた顔を上げる。
「ごめんなさい、これは私の悪い癖なの。好きな子を困らせたくなるような、ね…?」
言われた言葉を理解できず、首を傾げる。

「春川が遠慮していることを、私もあかりも高杉も、絶対に気にしていないわ」
布之さんは「絶対に」の部分に、力を入れていた。
「私達は、友達でしょう?」

「う、うん…」
自信はないけれど、縋るように頷く。
「言葉で何度も確認するなんて、私にも女々しい部分があったものね」
布之さんの言葉に、再度首を傾げてしまう。

布之さんの言葉に追いつけない自分。
「仲良しごっこじゃあるまいし…」
小さな布之さんの呟きは、混乱する私の耳には届かなかった。

「ね、春川。私は、本当にあなたと仲良く出来て、こうやって過ごせて嬉しいの」
確かめるように言う言葉。
それを理解すると同時に、すごく安心する自分。

「ようやく、スタートラインなんだってこと」
「スタートライン?」
「そうよ。今までは、私とあかりが春川の友達と勘違いして過ごしていたけれど…。明日からは、春川もちゃんと私達を友達と思って接してくれるんでしょ?」

「勘違いなんかじゃない…」
私も、2人と仲良く出来たらって、ずっと考えていた。
ずっとずっと、願っていたといっても間違いじゃない。

「だから、明日からも一緒に過ごせるのだから、今日は各々自分の時間をきちんと消化しましょうね、って3人とも納得したのよ」
布之さんの言葉に、こくりと頷く。

布之さんと、資料室を出る。
鍵をしっかりと閉め、鍵を見つめる布之さん。
「さ、もう行きましょう」
「うん」

「でも、1階までは一緒に行きましょうね」
「…うん」
よろよろしている私の前に、布之さんは気にしながらも階段を降りて行く。

「あかりほど力はないけど、春川くらいならちゃんと支えられるわ」
にっこりと笑う布之さんに、曖昧に頷く。
階段を降りて、左に行くと保健室で、右に行くと職員室になる。
だから、階段を降りる所までは、一緒に行ける。

「本当に、大丈夫?」
1階に到着し、少しふらふらしている部分もあるけれど、しっかりと頷く。
「やっぱり、心配だわ。春川の保護者に、しっかりと説明した方がいいんじゃないかしら?」
布之さんは、本当に面倒見が良いと思う。

でも、甘えてはいけない。
「あの、少し恥ずかしいし、だから…」
もう中学生なのに、泣いたことを親に説明されるなんて。

「そうよね、だから、ぐっと我慢するわ」
布之さんの表情は、いつもと同じになった。
「じゃ、春川。また明日ね」
「うん、また明日」

手を振って、布之さんと別れる。
ゆっくりと保健室に向かい、呼吸を整える。
「失礼します」
「おかえりなさい」
お母さんが、そこにはいた。

私の顔を見て、少し驚いた表情をする。
「どうしたの?のぞみ」
明らかに、泣いた後だと分かってしまったのだろう。

「あのね、お母さん。お、お友達と一緒に、お話をしてきたの」
自分で「お友達」と言う部分に照れる。
「お友達と…?でも、」

お母さんの言葉は、私を心配していた。
だから、心配されないように、顔を上げてお母さんの顔をしっかりと見る。
「あのね、私、嬉しくて…泣いちゃったの。恥ずかしいんだけど…。でもね、あの…」
ゆっくりと、これは悲しいとか嫌なことではないと、先に伝える。

すると、お母さんの表情が少し和らいだ。
「恥ずかしいことなんて、何もないわ…。嬉しくて泣くなんて、よっぽど良いことがあったのかしら?」
お母さんの言葉に大きく頷く。

「だから、大丈夫です」
はっきりと私が言ったことで、お母さんは小さな溜め息を付き側にいた林先生に頭を下げる。
「長い時間、お邪魔してすみませんでした。今日も、ありがとうございます」

「いいえ、無事に戻って来て私も安心しています。春川、また明日」
「はい、ありがとうございます。林先生、さようなら」

「はい、さようなら」
「のぞみ、少し遅くなってしまったけれど、今日眼科に行きましょう?」
「え?」

不思議に思って、お母さんの顔を見てしまう。
「放課後まで見えているの、久しぶりじゃないかしら?」
そう言えば、そうかもしれない。

「だから、しっかりと見えていたことも、先生にお伝えしたらどうかと思って」
「…はい」
あまりにも、私の目が赤いことでお母さんが心配した可能性がある。
「…でも、さやかは大丈夫?」

「心配なら、家に寄って一緒に診察に行きましょう」
「…はい」
「定期検診以外でも、診察に行くことはあるんですか?」
「そうですね、中々難しい症状なので、何かあったらすぐに診察するようにしているんです」

「ごめんなさい」
私のせいで、余計な診察を増やしている気になってつい、謝ってしまう。
「違うのよ、これは私の安心のため、のぞみのせいじゃないわ」
私の頭を撫でながら、お母さんはそう言った。

「さ、じゃあ行きましょう」
「はい」
「林先生、遅くまですみません」
「いいえ、お気をつけて」

林先生に見送られて、保健室を出る。
そのまま玄関から、車に乗る。
「のぞみ?」
「はい?」

車の中で、お母さんと目を合わせる。
「今日は、下校まで過ごせたけれど、学校は楽しかったかしら?」
「…はい!」
声に元気はなかったかもしれない。
だけど、私はすごく嬉しかったし、これからも学校に行くのが楽しくなった。

そんな私を見て、お母さんはホッとしたように笑ってくれた。
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