召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

文字の大きさ
上 下
781 / 830
後日談 その2 出世の果てに

夜空の中で

しおりを挟む
「もぅ!」

 去ったミランダを見届けてノアが言った。
 そして、ケーキがおいてあるテーブルに大股で歩いていく。

「ノアノア、やけ食い始めちゃった」

 茶釜に乗ったミズキが近寄ってきて笑った。
 見るとたしかに、ムシャムシャと、ケーキをはじめとした料理を手当たり次第に食べている。

「ノア……」

 その様子を眺めていたレイネアンナだったが、しばらくしてため息交じりにノアの方へと歩いていった。

「レイネアンナさんも大変だよねー」

 茶釜の背から、子うさぎに世界樹の葉をちぎってあげながらミズキが笑う。
 ボーッとみていると、レイネアンナはノアに何かを語りかけ始めた。小言かな。
 もっとも、そんなやりとりはすぐに終わり、2人はすぐに踊りだした。
 遊びながらもレイネアンナからダンスを習っているようだ。
 続いてプレインがギターのような楽器を使って演奏を始め、ハイエルフ達やピッキー達獣人もそれに続いた。

「リーダ! ゴルフのセット出して!」

 ダンスが一段落すると、ノアが近寄ってきて言った。
 次はゴルフをするらしい。
 影からゴルフ道具一式をだしてあげると、ノアが抱えて駆け出していく。常に動き回っていて元気な様子を見ているだけで楽しい。

「リーダも!」
「了解」

 ゴルフにはオレも呼ばれた。

「ボクのは自分専用なんだ!」

 クローヴィスは専用のゴルフクラブを用意していた。持ち手は革張り、赤一色で、狼の頭を模したヘッドは目がピカピカと点滅している。作り込まれたゴルフクラブだ。

「それは魔法の道具なんスか?」

 素振りする度に、キラキラと光の軌跡を残すゴルフクラブを見て、プレインが尋ねる。

「魔法の効果は光の煌めきだけじゃ。道具のせいで負けたとリーダに言われると、クローヴィスが可哀想だからの」

 その質問に答えたのはテストゥネル様。まったく。オレの心はそんなに狭く無い。
 飛行島の外へと打ち出して、魔法のリングをくぐらせる魔法のゴルフ遊びを皆で楽しむ。盛り上がった勝負はクローヴィスのトップで終わった。次は長老様。
 そう、ゴルフにはオレたちだけでは無く、ハイエルフ達も参加したのだ。しかも、ハイエルフ達は全員が妙に上手い。

「たまたまじゃよ」

 どうして強いのかと尋ねるノアに、長老が楽しげに笑って答えた。

「ぜったいに、何か秘密があるんだ」

 ノアはニヤリと笑った長老を見て訝しげだ。
 それから次はボードゲーム。遊ぶ内容を次々と変え、たまに音楽の演奏などをはさみ、誕生日会は延々と続く。

「焼き立てでち」

 日が落ちる頃に料理の追加がされる。熱いスープに焼き立てパン、それから何かの丸焼きに、異世界果物である巨大ぶどうグラプゥのバター焼き。

「これ、いつの間に?」
「トゥンヘル様が、召喚してくださったでち」

 テーブルに料理を並べているチッキーが言うには、ハイエルフ達がギリアから召喚したものだという。
 なんでも、今日の日のために、あらかじめギリアの酒場で注文しておいたらしい。
 そして、料理がそろったことをリスティネルが遠視で確認し、ハイエルフ達が召喚したそうだ。

「久しぶりに食べると思います。思いません?」
「うん! ギリアのお料理!」
「これって、あれだよね。巨人のパン」
「キャンキャン!」
「ハロルド様、申し訳ありません。我らでは、すでに呪いを外せないのです」
「キャウゥン……」

 盛り上がる皆と、落ち込むハロルド。
 子犬の姿だけで考えると、不憫に感じてしまう。実際はいい年したおっさんだけど。

「まぁ、落ち込むなよ。明日、取り寄せるからさ」

 そんなハロルドに近づき慰める。明日になったら白孔雀を飛ばして、それから頃合いを見て神の力で取り寄せればいいだろう。神々がおとなしく話を聞いてくれたらの話だけど。

「ふぅ。今回だけであるぞ」

 落ち込むハロルドに、テストゥネル様が声をかけた。
 次の瞬間、ハロルドの呪いが解ける。さすがは龍神といったところだ。

「おぉ! さすがはテストゥネル様!」
「明日の日の出まで、解除しておいた。せっかくのノアサリーナの誕生日ゆえの」
「かたじけない。拙者が手配したよりどりみどりの食事。堪能できぬとこでござった」

 ハロルドは呪いから開放されて、食事へとありついた。
 そして食事の中で、日はすっかりおちて、満天の星空が見えた。
 飛行島の周りはなにもない。180度、夜の闇ときらめく星。
 そろそろお開きかなと思いつつ、星空を楽しむ。
 ところが、そこからがクライマックスだった。

「わぁっ!」

 星明かりでほのかに照らされた飛行島に、シューヌピアの驚く声が響いた。
 トッキーとピッキーが、光る棒を使った踊りを披露したのだ。
 前にサムソンが作った魔導具。アイドルを応援するときに使うサイリウムを模した魔導具だ。
 光る棒が、空中に不思議な模様を描く。
 彼らは茶釜の子供達である子ウサギに乗って、クルクルと回りながら踊る。
 まるでロデオのように大きく揺られる子ウサギの背で、獣人達はサイリウムの魔導具を見事に操ってみせる。

「凄いな。トッキー君達は、自分のものにしているぞ」

 サムソンが驚く程のレベルで、彼らは動いていた。
 彼らが持った光る棒は、見事な光の模様を描いている。
 さらに、2人が描く円の中央にチッキーとノアが駆けて行き、サイリウムの魔導具を振り回し始めた。
 そこにプレインが再び演奏を始める。
 再び音楽と踊りの時間が始まったわけだ。

「わははー」

 横になった茶釜にもたれかかったミズキが上機嫌で笑う。
 シューヌピアとカガミも一緒にもたれかかって大騒ぎだ。見た感じ、3人のとも酔いが回ってハイテンションだ。

「作って良かった」

 海亀の背からのんびり見下ろし眺めていると、背後に立ったサムソンがしみじみと言った。
 確かにそうだ。スプリキト魔法大学の選挙中は、ロクでもないと思ったサイリウムの魔導具だが、いいものに見える。
 皆が代わる代わる踊り始める。
 シューヌピアとフラケーテア達双子、3人のハイエルフもサイリウムの魔導具を獣人達に習いつつ踊る。

「リーダ! 踊ろう!」

 そんな中、ノアが両手にサイリウムの魔導具を持って駆け寄ってきた。

「いってこいよ」

 どうしようかと思っていると、側にいたサムソンが言った。
 それから「ノアちゃん、サイリウムの魔導具は俺が持っててやるぞ」と言って、海亀の背から飛び降りサイリウムの魔導具を受け取る。
 しょうがないか。

「じゃ、ちょっとだけ」

 ピョンと海亀の背から飛び降りると、ノアがパッとオレの手を握ってひっぱった。そうして皆が踊る場所に向かう。
 皆が踊るスペースにオレとノアが行くと、その場にいたハイエルフ達がスペースを譲ってくれた。

「がんばれー!」

 酔いの回ったミズキが掛け声をあげる。

「じゃ、クルクル回るね!」

 ノアがオレを見上げて言った。海亀の背から、ずっと皆の動きを見ていたこともあって、何をすればいいのかがなんとなくわかった。
 右手をノアの頭上に掲げたり、あるいは前にステップ、後ろにステップ。適当な動きでもなんとかなった。というより、ノアがうまく合わせてくれているようだ。

「ママも!」

 踊りながらノアが声をあげる。突如、名を呼ばれたレイネアンナは困惑しつつも、周りに囃し立てられ小走りで近づいてきた。

「ノア! いきなり呼んではいけません」
「いいの!」

 ノアは元気よく答えながら、レイネアンナに抱きつくように飛び込んだ。それからサッと身を翻し踊りだす。
 今度は母親と踊りたいらしい。すごい元気だよな。まる1日、延々とはしゃいで。

「リーダも踊るの!」

 レイネアンナと入れ替わるべく距離を取ろうとしたオレの手を、ノアが右手でグッと掴んだ。
 つづけてレイネアンナの手を左手で掴んだノアは、オレたち2人を振り回すように、勢いをつけてグルンと回る。

「ノ、ノア」

 焦った声をあげつつも器用にステップを踏むレイネアンナと、それどころじゃないオレ。
 ノアはとっても楽しそうに、オレたちを振り回す。

「ノア! リーダ様が困りますよ!」
「いや。今日は、誕生日ですので」

 慌てふためくレイネアンナに笑って答える。今日はノアの誕生日。やりたいようにやればいいし、付き合うさ。
 嬉しそうに笑って自由に動きステップを踏むノア。振り回されながらも、オレは必死になって踊る。これはこれで存外楽しい。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

童顔の最恐戦士を癒したい

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:19

フェンリル娘と異世界無双!!~ダメ神の誤算で生まれたデミゴッド~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:170pt お気に入り:578

勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:1,585

治癒術士の極めて平和な日常

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:47

聖女追放。

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:74

200の❤️がついた面白さ!わらしべ招き猫∼お金に愛される道しるべ(完結)

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:15

処理中です...