782 / 830
後日談 その2 出世の果てに
電池切れ
しおりを挟む
夜空の中でのダンスは延々と続いた。ノアは本当に楽しそうに笑いながらはしゃぐ。
大盛りあがりのノアに振り回されるオレはついていくのがやっとだった。
ゼェゼェと息が上がる。
そんなとき、パッとノアが手を離したかとおもうと、ドサリと倒れた。
勢いがついていたノアの体は、地面を少しだけころがる。
「え?」
ノアはピクリとも動かない。
前触れもなく倒れたこともあって、とても焦ってしまう。
レイネアンナも真っ青だ。先ほどまでの楽しそうな表情とは打って変わって無表情になった。
「ノア、ノア!」
サッと倒れたノアに、レイネアンナが駆け寄り声をかける。
「少し待ってください、今エリクサーを……」
オレが影からエリクサーを取り出した直後の事だ。ノアのそばにしゃがみ込むオレ達を隠す影ができた。
影の主は、ハイエルフの長老だった。彼は音もなく近寄ったかと思うと、オレ達を見下ろしていた。
「ノアサリーナなら、大丈夫じゃよ」
長老様が笑いながら言う。
「ノアが倒れた理由が分かるんですか?」
「寝ているだけじゃな」
「ねて……寝ている?」
いや、先程まで起きていたじゃないか。眠たそうな雰囲気はまるでなかった。
「よっぽど今日という日が楽しかったのだろう。自分の限界すら気が付かぬほどに。そして、この場には全てを任せて足りる安心感があったのじゃろう」
納得のいかないオレに対し長老が穏やかな調子で説明する。
とりつくろう必要がないから、限界ギリギリまで楽しんでいたってことか。
あたりを見ると、テストゥネル様も笑顔でみていた。
大事って事はないらしい。
「そうですか。びっくりしました」
いや、本当に。シャレ抜きでびっくりした。
「まったく、この子は……」
安心したレイネアンナが、微笑みながら言いノアの額をなでる。
そうだよな。母親がすぐ近くにいるのだ。そりゃ、限界ギリギリまで遊んでいたくもなるか。
「このまま寝かせてあげましょう。オレがベッドまで運びますよ」
オレはノアを抱えあげる。地面に寝かせたままは駄目だろう。それにしても本当にノアは軽い。それでも最初に出会った時よりも背は伸びて大きくなった気がする。多分。
「ベッドに寝かされたあとは、私達が」
「整えの魔法をつかいますので」
ノアを抱え上げたオレに、ハイエルフの双子であるファシーアとフラケーテアが駆け寄ってきて言った。
「整えの魔法……ですか?」
「身を清め、服を着替える魔法です。ノアサリーナ様を起こすのは可哀想ですもの」
「そんな魔法があるんですね。それはいい考えだ」
確かに、土で汚れたドレスを着たままってのはまずいな。
「では、妾達は帰ることにしようかの。主賓が退場するのじゃ、残りの者で楽しむのは酷というもの」
テストゥネル様が言う。
その言葉をかわきりに、お開きムードになった。
「じゃあ、またね」
クローヴィスが別れを口にして母親であるテストゥネル様と一緒に消える。逆召喚の魔法で帰ったのだろう。
「では、ワシらもおいとましようかのぉ」
続けてハイエルフの長老がいい。縦ロールの派手な髪をした人型の金龍リスティネルが、そんな長老に伸ばした人差し指を向けると、彼は消えた。
「逆召喚……ですか?」
さり際、一瞬、何かを言おうとした長老を見てカガミが疑問を呈す。
「そう、カガミの想像どおり。ファシーア達の召喚魔法により我らは参ったが、ここが時間まで維持したのは私。まぁ、別れの言葉くらい、それぞれ言いたいだろうゆえ、一人ずつ返すことにしたのよ」
「あの……守り神様、フリユワーヒ様は別れを言う前に帰されてしまいましたが……」
「ん、シューヌピアよ。そうであったか。うっかりしておったわ。オーホッホッホ」
「静かになさってください」
馬鹿笑いするリスティネルを、フラケーテアが非難する。
「我らは、この場の片付けを手伝ってから帰るべきだろう」
そして続けて、カスピタータがハイエルフ達に提案する。というか、最初の挨拶以降、彼がしゃべったのは2回目な気がする。
「そうですね。兄さんのいうとおりですね」
「では、私とカスピタータで余り物を平らげることにしよう」
「ふざけないでくださいまし。トゥンヘルおじさま」
カスピタータの提案に頷いたハイエルフ達が、軽口を叩きながら、テキパキと場を片付け始めた。
そんな彼らにあとをまかせて、オレはノアを寝室に抱えていく。
「よくよく見ると、すごいな」
家の内装は見事だった。廊下には何点か絵がかけてあり、床の絨毯には切れ目が無い。天窓はステンドグラスになっていて綺麗な絵が形作られていた。そして扉の一つ一つに、控えめだが綺麗な彫刻が施してあって、使うのがもったいないくらいだった。
「ギリアの街の職人が、力をあわせ作ったのものです」
フラケーテアが言った。続けての説明で、ギリアにいた大工や、トゥンヘル、そしてドワーフの職人までもが一致団結して作ったものだと教えてもらう。ちなみに、飛行島に植えてある木々もギリア中の職人が持ち寄ったものらしい。
ノアの寝室もすごかった。
天蓋付きのベッドに、机と本棚。タンス。どれも立派な代物だ。
「先約がいますね」
部屋に先行し、ベッドの垂れ幕を開いたレイネアンナが、おかしそうに笑った。
彼女が指差した先には仰向けになって大の字で寝たカーバンクルがいた。
「見ないと思ったらいつのまに」
こいつはこいつで馴染んでいるな。
「ではノアサリーナ様をベッドに、あとは私達でやりますので」
カーバンクルをすくい上げるように取り除いたファシーアに言われる。
その言葉に従ってノアを寝かせ、あとのことはまかせ部屋を出た。
通路の窓越しに、星あかりにてらされて、テキパキと動く同僚たちとハイエルフが目に入った。
オレも手伝うかな。
ちょっとだけ駆け足で、家の外へと向かう。
いろいろあったが、楽しくにぎやかなノアの誕生日は、こうして過ぎていった。
大盛りあがりのノアに振り回されるオレはついていくのがやっとだった。
ゼェゼェと息が上がる。
そんなとき、パッとノアが手を離したかとおもうと、ドサリと倒れた。
勢いがついていたノアの体は、地面を少しだけころがる。
「え?」
ノアはピクリとも動かない。
前触れもなく倒れたこともあって、とても焦ってしまう。
レイネアンナも真っ青だ。先ほどまでの楽しそうな表情とは打って変わって無表情になった。
「ノア、ノア!」
サッと倒れたノアに、レイネアンナが駆け寄り声をかける。
「少し待ってください、今エリクサーを……」
オレが影からエリクサーを取り出した直後の事だ。ノアのそばにしゃがみ込むオレ達を隠す影ができた。
影の主は、ハイエルフの長老だった。彼は音もなく近寄ったかと思うと、オレ達を見下ろしていた。
「ノアサリーナなら、大丈夫じゃよ」
長老様が笑いながら言う。
「ノアが倒れた理由が分かるんですか?」
「寝ているだけじゃな」
「ねて……寝ている?」
いや、先程まで起きていたじゃないか。眠たそうな雰囲気はまるでなかった。
「よっぽど今日という日が楽しかったのだろう。自分の限界すら気が付かぬほどに。そして、この場には全てを任せて足りる安心感があったのじゃろう」
納得のいかないオレに対し長老が穏やかな調子で説明する。
とりつくろう必要がないから、限界ギリギリまで楽しんでいたってことか。
あたりを見ると、テストゥネル様も笑顔でみていた。
大事って事はないらしい。
「そうですか。びっくりしました」
いや、本当に。シャレ抜きでびっくりした。
「まったく、この子は……」
安心したレイネアンナが、微笑みながら言いノアの額をなでる。
そうだよな。母親がすぐ近くにいるのだ。そりゃ、限界ギリギリまで遊んでいたくもなるか。
「このまま寝かせてあげましょう。オレがベッドまで運びますよ」
オレはノアを抱えあげる。地面に寝かせたままは駄目だろう。それにしても本当にノアは軽い。それでも最初に出会った時よりも背は伸びて大きくなった気がする。多分。
「ベッドに寝かされたあとは、私達が」
「整えの魔法をつかいますので」
ノアを抱え上げたオレに、ハイエルフの双子であるファシーアとフラケーテアが駆け寄ってきて言った。
「整えの魔法……ですか?」
「身を清め、服を着替える魔法です。ノアサリーナ様を起こすのは可哀想ですもの」
「そんな魔法があるんですね。それはいい考えだ」
確かに、土で汚れたドレスを着たままってのはまずいな。
「では、妾達は帰ることにしようかの。主賓が退場するのじゃ、残りの者で楽しむのは酷というもの」
テストゥネル様が言う。
その言葉をかわきりに、お開きムードになった。
「じゃあ、またね」
クローヴィスが別れを口にして母親であるテストゥネル様と一緒に消える。逆召喚の魔法で帰ったのだろう。
「では、ワシらもおいとましようかのぉ」
続けてハイエルフの長老がいい。縦ロールの派手な髪をした人型の金龍リスティネルが、そんな長老に伸ばした人差し指を向けると、彼は消えた。
「逆召喚……ですか?」
さり際、一瞬、何かを言おうとした長老を見てカガミが疑問を呈す。
「そう、カガミの想像どおり。ファシーア達の召喚魔法により我らは参ったが、ここが時間まで維持したのは私。まぁ、別れの言葉くらい、それぞれ言いたいだろうゆえ、一人ずつ返すことにしたのよ」
「あの……守り神様、フリユワーヒ様は別れを言う前に帰されてしまいましたが……」
「ん、シューヌピアよ。そうであったか。うっかりしておったわ。オーホッホッホ」
「静かになさってください」
馬鹿笑いするリスティネルを、フラケーテアが非難する。
「我らは、この場の片付けを手伝ってから帰るべきだろう」
そして続けて、カスピタータがハイエルフ達に提案する。というか、最初の挨拶以降、彼がしゃべったのは2回目な気がする。
「そうですね。兄さんのいうとおりですね」
「では、私とカスピタータで余り物を平らげることにしよう」
「ふざけないでくださいまし。トゥンヘルおじさま」
カスピタータの提案に頷いたハイエルフ達が、軽口を叩きながら、テキパキと場を片付け始めた。
そんな彼らにあとをまかせて、オレはノアを寝室に抱えていく。
「よくよく見ると、すごいな」
家の内装は見事だった。廊下には何点か絵がかけてあり、床の絨毯には切れ目が無い。天窓はステンドグラスになっていて綺麗な絵が形作られていた。そして扉の一つ一つに、控えめだが綺麗な彫刻が施してあって、使うのがもったいないくらいだった。
「ギリアの街の職人が、力をあわせ作ったのものです」
フラケーテアが言った。続けての説明で、ギリアにいた大工や、トゥンヘル、そしてドワーフの職人までもが一致団結して作ったものだと教えてもらう。ちなみに、飛行島に植えてある木々もギリア中の職人が持ち寄ったものらしい。
ノアの寝室もすごかった。
天蓋付きのベッドに、机と本棚。タンス。どれも立派な代物だ。
「先約がいますね」
部屋に先行し、ベッドの垂れ幕を開いたレイネアンナが、おかしそうに笑った。
彼女が指差した先には仰向けになって大の字で寝たカーバンクルがいた。
「見ないと思ったらいつのまに」
こいつはこいつで馴染んでいるな。
「ではノアサリーナ様をベッドに、あとは私達でやりますので」
カーバンクルをすくい上げるように取り除いたファシーアに言われる。
その言葉に従ってノアを寝かせ、あとのことはまかせ部屋を出た。
通路の窓越しに、星あかりにてらされて、テキパキと動く同僚たちとハイエルフが目に入った。
オレも手伝うかな。
ちょっとだけ駆け足で、家の外へと向かう。
いろいろあったが、楽しくにぎやかなノアの誕生日は、こうして過ぎていった。
0
お気に入りに追加
246
あなたにおすすめの小説

世の中は意外と魔術で何とかなる
ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。
神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。
『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』
平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

転生先ではゆっくりと生きたい
ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。
事故で死んだ明彦が出会ったのは……
転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた
小説家になろうでも連載中です。
なろうの方が話数が多いです。
https://ncode.syosetu.com/n8964gh/
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。
異世界召喚されました……断る!
K1-M
ファンタジー
【第3巻 令和3年12月31日】
【第2巻 令和3年 8月25日】
【書籍化 令和3年 3月25日】
会社を辞めて絶賛無職中のおっさん。気が付いたら知らない空間に。空間の主、女神の説明によると、とある異世界の国の召喚魔法によりおっさんが喚ばれてしまったとの事。お約束通りチートをもらって若返ったおっさんの冒険が今始ま『断るっ!』
※ステータスの毎回表記は序盤のみです。

異世界に来たからといってヒロインとは限らない
あろまりん
ファンタジー
※ようやく修正終わりました!加筆&纏めたため、26~50までは欠番とします(笑)これ以降の番号振り直すなんて無理!
ごめんなさい、変な番号降ってますが、内容は繋がってますから許してください!!!※
ファンタジー小説大賞結果発表!!!
\9位/ ٩( 'ω' )و \奨励賞/
(嬉しかったので自慢します)
書籍化は考えていま…いな…してみたく…したいな…(ゲフンゲフン)
変わらず応援して頂ければと思います。よろしくお願いします!
(誰かイラスト化してくれる人いませんか?)←他力本願
※誤字脱字報告につきましては、返信等一切しませんのでご了承ください。しかるべき時期に手直しいたします。
* * *
やってきました、異世界。
学生の頃は楽しく読みました、ラノベ。
いえ、今でも懐かしく読んでます。
好きですよ?異世界転移&転生モノ。
だからといって自分もそうなるなんて考えませんよね?
『ラッキー』と思うか『アンラッキー』と思うか。
実際来てみれば、乙女ゲームもかくやと思う世界。
でもね、誰もがヒロインになる訳じゃないんですよ、ホント。
モブキャラの方が楽しみは多いかもしれないよ?
帰る方法を探して四苦八苦?
はてさて帰る事ができるかな…
アラフォー女のドタバタ劇…?かな…?
***********************
基本、ノリと勢いで書いてます。
どこかで見たような展開かも知れません。
暇つぶしに書いている作品なので、多くは望まないでくださると嬉しいです。
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

異世界に落ちたら若返りました。
アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。
夫との2人暮らし。
何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。
そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー
気がついたら知らない場所!?
しかもなんかやたらと若返ってない!?
なんで!?
そんなおばあちゃんのお話です。
更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる