召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第二十八章 素敵な美談の裏側で

カーバンクルのほん

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「あとは、レンケッタ……様か。居ればいいな」

 シルフィーナに資料を渡した終えて、すぐにレンケッタ達がたむろっている空き教室に向かう。
 ところが今日のオレは運がいい。向かう途中に、集団でどこかへ向かっているレンケッタを発見したのだ。
 歩いて行く彼女に声をかけて、オレに近づいてきた従者を通じ資料を渡す。

「これは、見事な……ありがとうございます」

 レンケッタも、資料を見て大喜びだった。
 サクサクと怖いぐらいに簡単に済み、オレは自由になった。
 終わった
 これで今日のミッションは全部終わり。
 こんなにすぐ終わると思わなかった。
 なんだかとっても運が良い。
 ただし、予想外に早く終わりすぎてしまったため時間が余ってしまった。
 歩いて帰ることはできるが、疲れるし時間がかかるので、昼過ぎに迎えに来るというミズキを待つ。
 この大学、案外時間を潰すところがないのが困りもの。
 ウロウロしながら、これからどうしようかと思案する。
 一応スペースはある。見渡せばあちらこちらに整えられた芝生があり、天気の良い日差しを浴びて学生たちが談笑している姿や、小さな子供たちが走り回る姿がある。
 だけど、オレが同じように過ごすことはできない。
 あまりも周りが爽やかすぎて、一人ぽつんと過ごすと悲しい気分になってしまうのだ。
 他に知り合いでもいれば違うのだが、残念ながら今は変装中。
 このカワリンドという男に、一緒に時間をつぶしてくれるような知り合いはいない。

「あらあら、カワリンドさんではございませんか? また何か急用で?」

 そう思っていた矢先、声をかけられた。
 声の主はカガミの担当教授であるデートレッド先生だ。
 茶色い玉葱型の髪が、フワフワと左右に揺れている。
 そしてニコニコ笑う彼女は、オレの正体がリーダであると知っている。

「えぇ。少しばかり用事があって、ですがそれももう終わりました」
「それはそれは。もしよろしければ、研究室にいらっしゃる? 昔にお茶ぐらいは出すけれど」

 ラッキー。渡りに船とはこのことだ。
 デートレッド教授の研究室である温室は居心地がいいのだ。加えて、美味しいおやつが期待できる。

「お誘いいただけるのであれば、是非」

 どうせ暇だし、お言葉に甘えることにした。

「それは良かったわ。私も少しばかり暇だったの」

 そして再び訪れることになった温室。
 デートレッドは、戻ってすぐに何かの魔法を使った。
 すると温室の片隅から、木が数本ふよふよと動いて、枝を動かし、テーブルの上にケーキを切って乗せ、お茶を注いでくれた。
 偽トレントの魔法か。

「普通の木なのに、器用に動くのは不思議な気分です」
「ホホホ。こうやって細かい作業はなかなか大変ですが、便利でしょ。私はね、誰もいない教室で、独りお茶を飲んでぼーっとするのが好きなの」

 そう言ってお茶を口に運んだ。
 確かに周りには誰もいない。あるのは日差しが心地よくて、綺麗に整えられた木々が美しい空間だけだ。とても綺麗に片付いているが、このあたりも魔法で何とかしているのかな。
 いやそうでもないか、本が山積みになったテーブルがあった。
 整えられた温室にはひどく異質だ。
 オレの視線に気がついたデートレッドが、ゆっくり積み上げられた本に歩み寄った。

「あら、あれはカガミさんの借りてきた本ね」

 そして、さっとひとなでして言った。

「借りてきた本ですか?」
「えぇ。カーバンクルについての本は、写本が許されないのよ」
「全部?」
「そうよ。ここに置いてある24冊の本は全部カーバンクルについての本」

 そっか。ノアに褒美として渡されたカーバンクル。普段は、ただのちょこまか動く黒い小動物だ。
 ところが、強力な結界を張ることができる魔導生物だ。
 カーバンクルがどのような魔導生物なのか、カガミは調べようと思ったのだろう。
 それにしても24冊。
 前にゴーレムのことを調べた時だって、そんなにたくさんの本はなかった。
 オレ達が思っている以上に、カーバンクルはすごいのか。
 後でカガミに聞いてみよう。

「そういえばノアサリーナ様はカーバンクルを褒美としてもらったのよね」
「はい。お嬢様はカーバンクルをとても気に入っています」

 ノアはカーバンクルをすごく大事にしている。 
 いつも一緒にいて、世話が楽しくてしょうが無いらしい。
 そういえば、叱っている姿も見たな。
 飛行島にある家の玄関そばで、何をやっているのだろうと見ていると、ノアが妙に芝居がかった感じで叱っていたんだよな。
 腰を曲げて、縮こまったカーバンクルを見下ろすように。
 ノアが呼び出した蝶々の使い魔を食べたという理由で。

「それにしても、カーバンクルを王にいただくなんてね」
「やはり意外ですか」

 そりゃ、あの時にあった周りの反応を考えるとな。
 偉い人も、反対していたしなぁ。

「それはもう。あれを作った時のことは大変だったのですよ。国を挙げての大事業でしたから」

 遠い目をしてデートレッドは言った。

「国を挙げて?」

 そんなにすごいものだとはちょっと思えない。国宝だったというが、そこまで凄いようには見えないのだ。
 確かに、作り出した結界は凄いのだが、それぐらいだ。
 後は、見た目の可愛らしい空飛ぶ小動物。

「だから私は、カーバンクルが誰の手にも渡らない理由は、きっと魔神との戦いに備えておかれてるのだと思ったいたのよ」

 オレの言葉に、デートレッドはそう答えた。
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