召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第二十七章 伝説の、真相

くろふくたち

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 イオタイトの主人は、どのような人かについての質問。

「変な人だよ」

 それに、イオタイトは間を置かずに答えた。
 納得しない様子のカガミをチラリと見て、彼は言葉を続ける。

「およそこの世界で最も自由なお方だ。その上で自由にならないこの世を嘆いている方だ。それと……」
「それと?」
「主様は皆さんと話をしたいという事だ。だから、身分などにとらわれる事なく、自由に話をしてもらってかまわない。主様は、言葉使いや物言いで怒ったりする人じゃない」

 彼の主人は気さくな人だって事か。
 でも、多分、カガミが聞きたいのは、名前とか立場……そのあたりな気がする。
 人柄も大事だが、今の所、ただ者ではない感じだけだ。
 黒本エニエルにした細工に、この馬車……そして、目の前のイオタイト。
 これだけいろいろあれば、彼の主人がただ者では無いことくらい簡単にわかる。

「ところで、主様というのは……貴族なのでしょうか?」
「そのあたりは、まぁ、おれっちが言うことではないかなぁ。本人が言いたければ言うと思うよ。そうそう、皆さんも、言いたく無い事は言わなくていいから」
「言わなくても?」
「主様から、そう伝えるように言われている」

『ガチャリ』

 イオタイトが言い終わると同時に馬車の扉が開いた。
 もう着いたのか。
 全く揺れず、引っ張られる感覚もなかったので、スピードが出ていたのかもわからない。
 でも、それらを差し置いても予想以上に早い。
 そこまで離れた場所じゃなかったのか。
 馬車を降りた先は、洞窟の中だった。

「こちらだ」

 そう言ったイオタイトについて行く。
 彼の側には、サッカーボールくらいの大きさをしたぬいぐるみが浮いていた。ぼろ切れを羽織ったカボチャのぬいぐるみだった。それが、ランタンを持ってフヨフヨ浮いていた。
 辺りが照らされてあたりの様子がなんとなくわかる。
 どうやら、地底湖に少しだけ露出した地面の上を歩いているようだ。
 こうして辺りを見ると、どういう道を進んでここまでやってきたのか検討もつかない。

『ピチャン……ピチャン……』

 天井から地底湖に落ちる水滴の音と、自分達の足音が響く。
 そんな中、肌寒くヒンヤリとした薄暗い空間を進んでいく。
 しばらく進むと、地底湖に建つ不思議な建物が目に入った。
 あれは、ドラゴン……かな。
 怪物が巨大な口を開けている姿を模した建物だ。
 大きく開いた中に口に飛び込むように、建物へと入っていく。
 等間隔に設置してあるロウソクの明かりが灯す光景は、いたって普通だった。
 よく見る貴族の屋敷といった様子だ。
 窓がまったく無いところに多少は違和感を憶えるが、それ以外は普通。
 そして、そのままイオタイトについて行った先、突き当たりにあった大きな両開きの扉を進んだ先に、主様というのはいた。
 薄暗いドーム状になった部屋。
 天井は一面ガラス張りで、淡い光に照らされて外の様子が見える。
 謁見の間に似ている。
 それが第一印象だった。
 部屋の中央からやや広めの階段が空中に向かって伸びている。その突き当たりに椅子がある。
 椅子はオレ達に背を向けるように据え付けられていた。
 謁見の間であれば、椅子はオレ達を向いている。
 さらに、その階段の途中には、空中に浮いた巨大で下が丸いフラスコが浮いていた。
 フラスコの中には液体が入っていて、たまにチラチラとその表面に文字が浮いて見えた。
 階段の突き当たりにある椅子には誰かが座っていた。

「来たか」

 その人は、椅子越しにチラリとオレ達を見て言った。
 部屋が暗いため顔はよく見えない。
 だが、声から年配の男だとわかる。
 加えて、椅子の根元に、全身真っ黒い鎧姿の人。それから黒いドレスを着て、ヴェールで顔を隠した女性。
 他にもこの部屋には何人かの人がいた。鳥かごに座っている人、腕を組んでこちらを見ている男。
 その誰もが黒い服や黒い鎧を着て、仮面やヴェールで顔を見せないように隠し、遠巻きにオレ達を見ていた。
 その様子は、のんびりというより監視といった感じだ。
 立ち位置から、あの椅子に座っているのが主様か。
 最後に、オレ達の後から、ローブ姿でフードを深く被った女性と、ゴリラや猿が入ってくる。

「主様、言いつけ通り連れてきました。ノアサリーナ様と愉快な仲間達です」

 全員がそろったからか、イオタイトがオレ達に背を向けた椅子に向かって言った。
 その説明はどうなのかと思った。
 とりあえず黙って向こうの出た方を見ることにする。

「よく来た。だが……とりあえず、全員の姿が見たい。ハロルドの呪いを解いてくれぬか?」

 ハロルド?
 そういや、ハロルドも指名を受けていた。
 イオタイトもいるわけだし、呪いの事を知っていても当然か。
 こちらを見たノアへ頷き、ハロルドの呪いを解いてもらう。

「フォホホ。解呪ではなく、力業ではじき飛ばすとは。確かに、ハロルドほどの大人物にかけられた呪いを解除するとなれば、理に適っておりますな」
「ですが、このやり方はエレガントな方法ではありません」
「いや。これは発想が……」

 呪いを解除する様子を見て、鳥かごに座った人と、その側にいるローブ姿の女性が議論を始める。
 だが、他の人は相変わらず静かだ。
 警戒はされているままだ。取り囲む集団から視線を感じる。

「して、拙者まで含めて呼び出した要件は?」

 議論する2人を無視して、ハロルドが椅子を見上げて声をあげた。

「ん、あぁ……できる限り全員と話をしておきたいだけだ。それ以上の他意は無い……それから、ノアサリーナ、最後の1人も紹介してくれぬか?」
「最後の1人でございますか?」
「そうだ。ほら、其方の側に浮かんでいる……その女性だ」

 え? ロンロの事か?

「ロンロ?」

 オレと同じ事を考えたのだろう、ノアが彼女をバッと見る。

「ギャッハッハ。そうか。そこに居たか。照らせ」

 カマをかけていたようだ。オレ達の反応をみて、椅子に座った男は笑い声を上げた。
 続けて、鳥かごに座った人が何かの魔法を詠唱する。

「ロンロ殿……で、ござるか」

 ハロルドがロンロを見て呟く。そうか、ロンロを見るための魔法か。

「私が見えるの?」
「ハロルド? 見えるの?」
「ボンヤリと……何を言っているのか、声は聞こえぬでござるな」

 ロンロとノアの問いかけに、ハロルドが小声で答えた。
 声まではわからないか……。多分、オレ達以外はハロルドと同様なのだろう。だが、ロンロの姿を見る魔法があったのか。
 その可能性まで至らなかった。しかし、ロンロを見ることができる魔法が存在しても、おかしい話ではない。
 それにしても、この主様とかいう人。
 オレ達の知らない事を沢山知っていそうだ。
 友好的に、話を進めて黒本エニエル以上の収穫が得られればと、思う。
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