召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第二十六章 王都の演者

ぱれーど

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 新年の祝賀……謁見の日。迎えに来た馬車に乗り込む。
 バシッと着飾り、見た目は万全だ。
 4頭立ての大きな馬車。綺麗な模様のある布で、馬車全体が覆われている。
 最初に来た時には、窓がなかったので不安だったが、中に入るとまるでマジックミラーのように外が見えた。
 そして、城の前にグッと伸びる跳ね橋を前に、オレ達の馬車は止まった。

「まずいな」

 謁見の日、オレ達は少なからず緊張していた。
 特にピッキー達獣人3人は、先ほどから緊張で一言も喋っていない。
 馬車に乗るまでは、やや言葉少なめな程度だったが、こうやって待っている間にどんどんと緊張の度合いが増していたのだ。
 謁見室に入る前に、落ち着く良い方法があればいいのだがな。
 本人たちの前で、緊張してるよね……なんて言えなくて、同僚に相談するわけにもいかず静かに考える。

「全く動きませんよね」
「そうスね」

 橋の前に、ずいぶんと長い間、オレ達は放置されていた。
 御者も全く愛想がない。
 こちらが話しかけても「知りません」「存じません」そんな言葉しか返ってこない。
 事務的な御者の無機質な態度が、一層、緊迫感を増し、獣人3人を緊張させていた。
 ところが、魔法でなんとかするわけにもいかない。

「獅子の心臓が使えない?」
「トッキー君が心配で、使おうと思ったんですが……」

 あまりにも緊張していたので、カガミが獅子の心臓という心を強くする魔法を使うことにした。
 そんなカガミから報告を受けた。今朝の事だ。
 予想外な事に、獅子の心臓に制限がかかっていたという。
 攻撃魔法や飛翔魔法が制限を受けることは予想していた。だが、獅子の心臓という魔法まで制限がかかっているとは思わなかった。
 魔法が使えないとなると、後は自力で何とかするしかない。
 だからと言って、良い考えが浮かぶわけではない。
 何か気を紛らわせるものがあればな……。先ほどから、堂々巡りだ。

『ガラン……ガラーン、ガラーン』

 静かに考えていた時に、あたりの鐘が一斉に鳴りだした。

「なんだ。なんだ」
「あれじゃないっスか?」

 プレインが指で一方を示し声を上げる。
 着飾った騎士の一団が、巨大な跳ね橋の方へ向かって、ゆっくりと進む姿が見えた。
 パレードか。
 そういえばラングゲレイクが言っていた。
 新年の祝賀は、王都第1騎士団から第5騎士団の全てが、大通りを歩き入場するところから始まると。
 すると、あれは騎士団か。

「あの、おいら……教えてもらいました」
「何々、何を教えてもらったの? トッキー」

 ようやく言葉を発したトッキーに対し、嬉しげな態度でミズキが聞き返す。

「天秤の旗は第1騎士団です」
「王都の第1騎士団ですか?」
「はい。正義の象徴、第一騎士団です」

 トッキーに続き、ピッキーが元気に言ったその言葉に、少しだけ緊張した空気が緩んだ。

「あれが第1騎士団か。流石というか、何というか、迫力あるぞ」

 サムソンも興味深そうに、トッキーの背中ごしに外をのぞき見て言う。

「第1騎士団の先頭……じゃあさ、あれが騎士団長なのかな、トッキー」
「はい。先頭は団長だそうです」

 王都の第1騎士団。先頭を進んでいくのは、太ったおばちゃんと痩せたおじさんだった。二人は、大きな旗がついた槍を抱えて、立派なマントに身を包み、馬に任せるかのように悠々と進んでいた。
 後に続く人達は全身鎧に身を包み、これぞ騎士団といった感じの迫力がある集団だった。

「正義の守り手、ヨランの法を担うもの!」

 誰かが歌うように大きく上げた声が聞こえた。
 その集団が跳ね橋を進み、姿が見えなくなった後、さらに新たな一団が見えた。

「では、あれが第2騎士団でしょうか?」
「多分そうです。星空の守り手、第2騎士団です」

 ピッキー達は予習を十分にしていたみたいだ。自信満々に頷く。
 第2騎士団の先頭は、幌なしの馬車に乗った3人の女性だ。まるで3人組のアイドルかのように、にこやかな顔で手を振ってゆっくりと進んでいく。
 それに続く集団も第1騎士団に比べ、軽装な人が目立った。

『ドーン、ドーン、ドーン』

 第2騎士団が跳ね橋へと進んだ後、別の方角からドラの音が響く。

「あれは……えっと、大地にて敵う者無し第3騎士団です!」

 第3騎士団の団長はお爺さんか。

「あのお爺ちゃん……寝てない?」

 確かに言われると、俯いてコックリコックリと、頭を揺らしている。
 だが第3騎士団は皆が巨大な馬に乗っていて、迫力ある騎馬集団だ。

「ラングゲレイグ様は、第3騎士団の副団長だったそうです」
「へぇ。ピッキー君、予習バッチリっスね」

『ズズ……ン、ズズ……ン』

「今度は、何だ?」

 第3騎士団が過ぎ去った後、地鳴りに似た音が響いた。
 遠くの方で、尺八に似た低い音……いや鳴き声が聞こえ、第4騎士団がやってくる。

「その守りは移動する砦、第4騎士団です」

 見るからに頑丈そうな全身鎧と巨大な盾を持った歩兵が、先頭を歩いていた。

「がはははは!」

 歩兵の一団の後に、これまた金属鎧を纏った馬に乗った人が大笑いして進む。

「すごい声だと思います。思いません?」

 離れているにも関わらず、笑い声がはっきりと聞こえた。その声がふさわしい大男だ。楽しそうに腕を組み笑う大男と、その一団。

「象さんだ!」
「はい。お嬢様。第4騎士団は象を駆るらしいです」

 さらに続いて、鎧を着込んだ象が続いていた。

「第4騎士団は象を連れているんだ」
「鎧を着こんだ象って迫力あるね」

 驚くオレ達など目もくれず、象の鳴き声を伴って、地面を揺らしながら第4騎士団が跳ね橋の先へと姿を消した。
 そして、最後……第5の騎士団が楽器を鳴らしながらやってきた。

「あれは、大海に君臨する第5騎士団です」

 青い鎧、馬にも青い装飾が施された集団。それが第5騎士団だった。
 その集団は一人一人が楽器を持って、音楽を奏でながら進んでいく。

「大迫力だったね」
「ピッキー君達も有り難うっス」
「やっぱり解説があると楽しめる」

 ピッキー達の説明と、陽気に入場していく騎士団を見ていると気が楽になる。
 トッキーも、チッキーも、パレード始まる前の緊張した顔から少し柔らかい顔つきになった。
 オレも安心して、笑みがこぼれる。
 パレードが終わり、なんの合図もなくオレ達が乗る馬車が動き始める。
 巨大な跳ね橋を、10台を超える馬車の一団と共に進み、城の敷地へと入る。

「広い庭……」

 カガミが感嘆の声をあげる。
 まるでサファリパークといわんばかりの、動物が沢山いる森のような庭を馬車は駆け抜ける。
 ようやく城に入るのかと思ったが、城の入り口に見えたそれはトンネルで、抜けた先はさらに庭。
 今度は、なだらかな丘だ。静かで、背の低い草木の生える丘。

「また庭っスか?」
「お、王都には、庭……庭が17あるらしいです」

 今度はトッキーがポケットからメモ帳を取り出し解説してくれる。

「沢山あるんだな」
「ヨラン王国の、王国の、各地方を表現しています」
「あの石像は?」
「えっと……多分、王様です。城には、沢山の王様の像があるらしいです」

 それから先も、トッキーの説明が続き、途中からはピッキーとチッキーも加わった。
 なんでも、ラングゲレイグがいろいろ教えてくれたらしい。
 あの領主様は、案外面倒見がいい。

「トッキー、あの建物は?」
「赤い屋根のあれは、食堂です。騎士団の人はいっぱい食べるから、沢山の大鍋があります」
「大角鹿を10匹いっぺんに丸焼きにできるそうでち」

 巨大な城へは、いけどもいけども、たどり着かないが、3人の説明が楽しいので苦にはならない。

「みてみて、大神殿が」

 そしてミズキに言われて後ろをみると、大神殿が遠くに見えた。
 あれほど巨大だった大神殿が小さく見える。
 それからすぐにあたりが暗くなる。城の入り口にたどりついたようだ。
 暗くなったのは、城が日の光を遮ったからだと気が付く。
 馬車は止まり、1人の女性と10人以上の兵士が出迎えてくれた。

「王城パルテトーラへようこそ。王の謁見を補助いたしますトロラベリアと申します」

 オレ達の全員が馬車から降りたことを確認すると、彼女は案内するように前を歩き始めた。
 巨大な柱、巨大な通路。彫刻が施された壁。
 城の中もまた、妥協を許さない立派な作りで、ただただ圧倒される。

「すごい……」
「王城パルテトーラは、世界でも並ぶものがない巨大な城です。おびただしい人、ゴーレム、ドワーフ……あらゆる種族、あらゆる技術を費やし2000年以上かけて作られました」

 こんな建物は元の世界でも見たことがない。
 もういろいろと感覚がおかしくなりそうだ。
 そして、えんえんと歩き続けるなかで、皆とはぐれたら二度と外に出られないのじゃないかと、妙な心配をしてしまった。

「ノアサリーナ様、そして皆様、お久しぶりでございます」

 案内された控えの間、そこで待っていたのは意外な人物だった。

「あれ、エレク様は、どうしてここに?」
「本日は、星読みスターリオ様のお手伝いで、こちらに参りました。ギリアでの知り合いということで、控えの間でのおもてなしを任されたのです」

 ちょうど、王城の雰囲気に飲まれかけていたところで、知り合いに会えたのはうれしい。
 皆の緊張感が和らいだのが感覚でわかる。
 それから、彼が星読みスターリオの養子となって、現在はスプリキト魔法大学に通っていることを聞く。奴隷の身から、ヨラン王国でも上位貴族の養子になったと言う事で、境遇が一変したそうだ。

「さすがリーダ様ですね。魔法の才にとどまらず、物語の脚本ですら、王の目に留まるほどとは……」

 パクった物語を、褒められ、恐縮しきりだ。それでも、謁見までの緊張感ある時間が気楽に過ごせたことは大きい。

「それではノアサリーナ様。謁見の時間となりました。こちらへ」

 そして、とうとうノアとオレ達の順番が回ってきた。
 案内役のトロラベリアについて行く形で、少し歩いた先に巨大な鉄扉があった。

「この先が、謁見の間です」

 彼女の言葉を聞くまで、目の前はただの壁だと思った。
 それほどに、とんでもなく巨大な扉だ。
 てっぺんを見るために、ほぼ真上を見上げないとならないほどの高さ。
 その扉の表面に複雑な文様が光る。

『ガンガン……ガガガ……』

 それから、扉は音を響かせゆっくりと開いた。巨大な鉄製の扉が震えて起きる振動を、ピリピリと感じた。

「いや、これは、聞いてない」

 そんな扉の先、その先に広がる光景を見た時、オレは思わず悪態をついた。
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