召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第二十五章 待ちわびる人達

ぐりふぉん

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 急げ。急げ。
 領主に首をはねると言われて冷静ではいられない。
 さっさと荷物をまとめて引き上げる。
 チーズ工房のおじいさん、ペンツェに挨拶をして引き上げる。

「リーダ、結局何やったの?」

 ドタバタと海亀に戻る途中、ペンツェからもらったチーズを囓りながら、ミズキが聞いてくる。
 聞かれても困る。
 と言うか、お前らと一緒にいただろうが。

「わからない……けど、オレ達が戻ってきたの、どうやってわかったんだろ?」
「そうっスね。飛行島で戻ったのに、不思議っスね」

 さっさと海亀に乗り、飛行島までダッシュ。
 それから飛行島に乗って急ぎ戻る。

「少しばかり不安なんだがな」

 サムソンは、飛行島を高速移動させることについて、少し不安なようだ。
 ギリギリを見極めての高速移動。
 流れるようにすぎる下の風景を見ると、飛行島のスピードがいかにすごいかが分かる。
 何ヶ月もかかっていた旅。
 だが、この調子であれば、瞬く間に戻ることができそうだ。

「でも日が経つのは早いです。思いません?」
「そういえば、収穫祭って言われてびっくりしちゃった」

 夏の日にあった舞踏会から、帰りの空の旅、ダラダラとした時間の中で、季節は夏から秋へと巡っていた。
 下に広がる森は青々とした森から、ところどころ茶色く紅葉した森へと変わっていた。
 茶色と黒。
 眼下に広がる森のほとんどがその2色で覆われていた。
 そして随分と肌寒い。
 本当に月日が経つのは早い。

「やっぱりダメか。少しスピード落とすぞ」

 高速移動を続けて4日目に入った時に、サムソンがぼやいた
 サムソンによると、高速移動による振動で、飛行島の地下に這わせている配線類に影響があるという。

「我々もできる限りのことはやったのですが……」
「長時間の高速移動は想定していないのかもな」

 結局、サムソンとトゥンヘルが相談して、少しスピードを落とすことにした。
 落としたと言っても結構……いや、まだ相当早い。

「これなら、きっと首をはねられることはないよな」

 もっとも、本当に処刑なんてことになるなら逃げる。
 それよりも、まずは理由の確認だけど。
 とりあえず屋敷に帰って、それから詳しい情報収集をミズキ達にお願いするかな。
 城に行って、いきなり捕まったりしたくはない。
 家畜の世話をしてもらったお礼がてら、バルカンにも聞いてみよう。
 オレがグダグダと考えている間も、長い長い街道を下に見ながら飛行島は進む。

「あのキラキラ光っているの、ギリアの湖ですよね?」

 ある日、遠くにみえる一点を指さしカガミが言った。

「それっぽいな」
「そうっスよ。ほら、下に見える街道の先がストリギのはずだから」

 順調に空の旅は続き、気がつけばギリアを象徴する巨大な湖が見えてきた。

「戻ってくるのは、あっという間でしたね」

 カガミが、ギリアのある方角をジッと見て言った。

「うん」

 ノアも何だか嬉しそうだ。
 操縦席にいるサムソンを除いて、飛行島の端に立ち、遠くに見える湖を見る。

「戻ってきたでち」
「親方元気かな」

 そういや、あんまりお土産買っていなかったな。
 懐かしい気持ち一杯で、グングンと近づく、ギリアをのんびり見る。
 湖はやがて、眼下に広がり、さらに追い抜いて……。

「屋敷が2つある」

 ピッキーが声をあげるまでは、のんびりしっぱなしだった。
 屋敷が2つ?
 そうなのだ。屋敷がすぐそばに見えて初めて気がつく、ギリアの屋敷が二つあった。

「いや、新しい屋敷が建っているんスよ」

 ギリアの屋敷、そのすぐ近くに建物が建っていた。
 オレ達の屋敷に勝るとも劣らない、立派な屋敷。

「何だあれ?」

 2階からサムソンが声をあげる。

「わからない」

 オレ達の屋敷からほんの少しだけ離れたところ。
 もとは瓦礫が積まれた空き地に、もう一軒の屋敷が出現していた。

「少し距離を取って降りるぞ」
「まかせる」

 2階から声を張り上げるサムソンにまかせ、少し距離を取って降り、地上から屋敷にもどる方針に決める。
 だが。

「あれ? 上昇している?」
「飛行島が、勝手に動きだした!」

 警戒して大回りで近づこうとした時、異常が起こった。
 飛行島が急にゆるゆると上昇を始めたのだ。
 それだけではない。

「キャンキャン!」

 ハロルドが警戒の吠え声をあげ、ノアの周りをクルクル回る。

「ギリアの屋敷から何かが飛び出してきた!」
「何かが近づいてきます」

 飛行島の側に立ったミズキとカガミが揃って声をあげた。
 魔物?
 そいつは飛行島をあっという間に飛び越えた。
 その姿は、金色に輝く鳥の上半身と、真っ白な猫に似た下半身をしていた。
 日の光に照らされ、大きく広げた鳥の羽がキラリと輝く。

「グリフォン! あれは……もしや」

 ノアに呪いを解除され、戦士の姿になったハロルドが見上げて叫ぶ。
 ハロルドが叫んだのとほぼ同時、グリフォンは魔法の矢を撃ってきた。
 いきなりの事で驚いたが、とっさにそれぞれが逃げる。

「ご主人様!」

 チッキーの声が聞こえ、攻撃されたのかと焦ったが、獣人達3人は狙われていなかったようで、安心する。
 だが、ホーミングする魔法の矢が、自分達に向かってくるというのは、なかなかの恐怖だ。
 そして攻撃はそれだけにとどまらない。

「消えた?」
「いや、向こうっス」

 魔法の矢を撃った直後、飛行島の下に潜り込んだグリフォンは、別の方向から飛び出てきた。
 勢いに任せ上昇した後、グリフォンは太陽の光に隠れる。

「こしゃくな!」

 そして、太陽の光に紛れたグリフォンは、その光に隠れ急降下してきた。
 ハロルドが、その急降下攻撃にいち早く気付き、グリフォンの足をつかみ取る。
 だが「グゥ」と呻き、手を離してしまった。
 グリフォンの後足が燃えている。
 自己発火か。
 ジュウジュウと音をたて、ハロルドの左手が大きく火傷していた。

「ヌハハハハハ、ベアルドのオーク、ハロルドよ。我の足を掴み取ろうとは、片腹いたいぞ!」

 飛び回るグリフォンが笑う。
 ハロルドの事を知っている?

「知り合い?」
「あれは、南方3賢者……金色のフィグトリカでござる」

 フィグトリカ? 南方3賢者?
 そんなこと言われてもさっぱり分からない。
 とりあえず、有名人……というか有名グリフォンか。
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