召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第二十五章 待ちわびる人達

おとなりさん

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 どうして?
 有名なグリフォンが襲ってくるのだ?
 理由が分からない。
 そのうえ、飛行島は勝手に動く。
 あいつが原因?

「ほれほれ。よそ見をしている暇はないぞ!」

 グリフォン……賢者と呼ばれるフィグトリカは、楽しげに言うと大きく金色の翼を広げ、羽ばたいた。

『ダン、ダダダダダ』

 直後、地面に羽が突き刺さる。
 羽を飛ばしてきた?
 次々と放たれる羽は、地面に突き刺さる。

「やだっ」

 まるで標準を定めるかのように、次々と突き刺ささる羽を見たカガミは、自分に向かって飛んでくる羽を飛び避けた。

「カガミ!」

 さらに追撃を考えていたのだろう、カガミに後足を突き出し、フィグトリカは上空から襲いかかる。
 茶釜に乗ったミズキが、援護に入ろうと突進するが間に合いそうにない。
 まずい。

「ヌゥ」

 だが、フィグトリカは突如身を翻し上昇した。
 よく見ると、奴にかって魔法の矢が何十本も飛んでいた。
 サッと振り返ると、両手を地面につけたノアと目が合う。

「さすが、姫様」

 そんな間も、フィグトリカは上昇する。追い縋る魔法の矢から逃れようと。
 だが、ノアの使う魔法の矢は、追尾性能が段違いだ。

『ドスッ』

 とうとう避けきれなくなり、フィグトリカに魔法の矢が突き刺さる。
 そして、耐えきれなくなった奴は、グルグルときりもみ飛行さながらに、周りながら落下した。

「ノアちゃん!」

 カガミが悲鳴のようにノアの名前を呼ぶ。
 違う。フィグトリカは落ちているわけではなかった。
 大きく体を回転させ、振り回す翼でさらに飛びかかる魔法の矢をはじきつつ、ノアへと突進していたのだ。

「姫様!」

 いち早く気付いたハロルドが駆け寄るが、間に合いそうにない。
 フィグトリカは、魔法の矢から逃げつつ術者であるノアを倒すつもりだ。
 ぶつかる。
 そう思った瞬間、ノアは大きく後にバク転して飛び避けた。さらに、体のバネを生かして、手に持った赤い剣で反撃する。

「ヌゥゥ……呪い子がぁ!」

 振り絞るようにフィグトリカは声をあげ、翼を大きく羽ばたかせ、後足も利用し急ブレーキをかける。

『ドス、ドスッ』

 だが、避けきれない。
 まだ、ノアの放った魔法の矢は残っていた。
 大きく後に逃れようとしたフィグトリカの背後から、魔法の矢は襲いかかり、音を立てグサリと突き刺さった。
 そして、奴は前のめりになる。
 加えて、カウンターとして振り抜かれたノアの一撃。
 鋭い一撃は、フィグトリカの突き出した前足の先、爪を切り飛ばした。
 だが、相手もやられるままではない。
 再び大きく羽ばたき、その風圧でノアを吹き飛ばし、さらなる追撃から逃れるべく、大きく上昇した。

「ナイス、ノアノア!」

 でも、オレ達の反撃は終わっていなかった。
 フィグトリカの逃れた先、そこには、待ち構えていたかのように大きく飛んだ茶釜の影があった。
 茶釜……あんな高さまで、どうやって飛んだのだ?

「エルフ馬、どういうことだ?」

 上空で待ち構えるように飛んでいた茶釜に、フィグトリカが驚きの声をあげる。
 さらに驚きはそれだけではない。
 茶釜の影から、矢をつがえたプレインが、ヌッと飛び出した。
 矢はフィグトリカに向かって放たれ、さらに茶釜からミズキが飛び降り、手に持った剣で斬りかかる。

『ブォン』

 風切り音が響く。
 ミズキの振り抜いた剣は、フィグトリカをすり抜けたのだ。
 プレインの放った矢も、奴の体に当たる事無くすり抜け、地面に突き刺さる。

「ヌワァハハハ。参った。参った」

 間の抜けた声がした。
 声がした方を見ると、飛行島の端からフィグトリカのよじ登る姿が見えた。
 飛行島の端にかかった前足、その右足の爪が欠けている。

「幻術でござるな」
「そこがハロルドの言う通りだ。爪を切られてしまった時、こりゃ敵わんとな。幻術を使って、飛行島の下に逃れたのだ」
「もうやめでござるか?」
「ヌハハハ。負けだ。負けだ。せっかくだから、ちょいと手合わせしたかっただけだ。それにしても、飛行島を操る者がいるとは。まだまだ知らぬことは多い。ヌハハハハハ」

 高笑いしながら、のっそりのっそりとフィグトリカは近づいてきた。
 勝手なものだ。一方的に喧嘩ふっかけておいて、勝手にやめる。
 もっとも、戦いが終わることについては願ったりなのだが。

「あの……爪」

 ノアが申し訳なさそうに、ゲラゲラと笑うフィグトリカへ声をかけた。

「ん。問題ない。それに、ワシが勝手に喧嘩を売り、勝手に怪我しただけだ。いやはや、ハロルドの指導によるものか? なかなかの手際に恐れ入ったわ」

 前足を少しあげて、フィグトリカはそう言うと、バサリと翼をはためかせ、地上へと飛び降りていった。

「まだ……上昇してるっスね」
「あぁ」

 フィグトリカが去った後も、飛行島は上昇を続けていた。
 どうしたものかな。
 次の問題は勝手に動く飛行島だ。あのグリフォン……フィグトリカは関係ないよな。
 あの言動から嘘を言っているようにも思えない。

「サムソンの所、いってみようよ」

 ミズキの提案で、2階の操縦席に行くことにした。

「操作が効かないぞ」

 お手上げとばかりにサムソンが両手を挙げて歓迎する。
 それは、そんなサムソンに、苦笑し応じていたときの事だった。
 2階の操縦席にある壁。
 プレインが、壁の一方を指さす。

「壁の色が違うっスね」
「前から?」
「いや、違うぞ。少なくとも、オレが席に座ったときは違った」
「ん……と?」

 色の違う部分を手で触れたミズキが首を傾げると、グッと手を伸ばした。

「ミズキお姉ちゃんの手が!」

 ノアが大声をあげる。
 ミズキが小さく声をあげ、首を前に突き出すと、さらに一歩踏み込んだ。
 空中でミズキの半身が消える。
 驚くオレ達に対し、一歩後に下がったミズキが、ヘラヘラと笑って振り向いた。

「なんか繋がってるっぽい」
「ぽいって……危ないだろ。触ったとたんドカンとかだったらどうするんだ?」
「へーきへーき」

 そう言って笑うミズキについて壁を通り抜けると、薄暗い場所に出た。
 足下に段差があって、一瞬焦ったが、少し進むと、そこは地下室だった。
 地面には沢山の魔法陣。
 特に、中央にある巨大な魔法陣には見覚えがある。
 ギリアの屋敷……地下室。

「ワープするんだ。へーへー」
「なるほど。あそこに飛行島をとめて、出入りはあの色の違う壁を使うのか」

 サムソンが地下室を一瞥し、オレ達が降りた階段を見て言う。
 いわゆる駐車場ならぬ、空にある駐飛行島場ってところか。

「王様に取られるとか考えると、空に置いた方が便利っスよね」
「でも、海亀は降ろさないといけないから、一旦は降りる必要があると思います。思いません?」

 確かにな。

「それじゃ、一旦戻るか……そうだ、ロンロ。隣に住んでいる人を一応確認してもらえないか」
「分かったわぁ」

 外の偵察をロンロに任せ飛行島に戻る。
 飛行島は、一旦停止したあとは、また簡単に動かせる事が分かった。
 止まるか、スピードを落とすと自動的に動く仕組みのようだ。
 そしてお隣さんも簡単に判明する。

「キンダッタ?」
「そうよぉ。他にもフェーリタ族が沢山」

 猫の獣人であり、南方で有名な戦士団である金獅子、その1人キンダッタ。
 あいつが、隣。
 ついでに同族が沢山。
 つまりは猫の群れ。
 隣に家を建てやがったのはキンダッタか。

「だったら危険じゃないっスね」
「堂々と戻るか」

 念の為、飛行島を降ろすのは後回しにして、屋敷に帰る。
 新しくできた屋敷の入り口前で、フィグトリカと何やら話をしているキンダッタを見つけた。

「キンダッタ様。お久しぶりでございます」
「これは、ノアサリーナ様」
「ギリアへ来られていたのですね?」
「まぁ……ワタクシはやめましょうと言いましたゾ。ですが……」

 何かを言いよどみ、キンダッタが、真新しい屋敷の方をちらりと見た。
 その先に、こちらに向かってくる一団があった。
 ドレス姿の猫に、メイド姿の猫がぞろぞろと続く。
 また増えた。

「これは、これは。ノアサリーナ様。初めまして、わたくし、レオパテラ獣王国公爵令嬢エスメラーニャと申します。金色彩る収穫の時はすぎ、冬の眠りを迎える頃、暖かい出会いは幸運の兆し、素敵な出会いに感謝いたしますわ」

 真っ白で、やや首の長めな猫の獣人が、スカートの端をつまみお辞儀する。

「初めまして。私も、暖炉に火を灯すより前に、暖かな出会いを得て、嬉しく感じます」

 ロンロの助言をうけて、ノアも静かにお辞儀で返した。

「先日、こちらに越して参りましたの。ふと見ると、景色が美しくて、是非ともこの地に別荘をと思いましたの。それに……ノアサリーナ様とも、お近づきになりたいと思っているのですのよ」

 そう言ってニコリと笑う。
 そして彼女は、言葉を続ける。

「ですので……今日は、旅の疲れもあるでしょうから、また日を改めてお茶会などをお誘いしてもよろしいかしら?」
「えぇ喜んで」

 そんなやり取りをして話を終わった。
 旅から戻ってきて、いきなりのお隣さんという出来事。
 最初はどうなるかと思ったが、ノアとも友好的な隣人だし、問題ないか。
 ともかく、久しぶりの屋敷だ。
 とりあえず、一休みしよう。

「そういえば上空から見たんだが……温泉への道、あいつら勝手に引いてるぞ。ロープウェイが2つに増えていた」

 そのそばから、サムソンからロクでもない報告を受ける。
 キンダッタの奴め。
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