召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第二十二章 甘いお菓子と、甘い現実

りきさくかんせい

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 丸一日、いろいろなお菓子を作るお菓子パーティー。
 次々と作られるお菓子。

「これがミルフィーユ」
「え? こんなに薄く……」
「それほど引き延ばした様子は無かったのに……どうやったのですか?」

 何か作る度に、イスミダルもラテイフも、そしてサラムロも驚く。
 もちろんこの世界でもなじみなお菓子もあったようだが、オレ達の作るお菓子は、概ね未知のお菓子ばかりだった。
 そんな、未知のお菓子について、カガミが解説する。

「これが、ドーナツ。そして、これがティラミス」
「姉ちゃん。これ、絶対魔法でなんかしたろ?」
「こら、サラムロ。姉ちゃんではなくて、カガミ様と呼びなさい」

 サラムロは、度々魔法を使っているに違いないと言う。
 理解不能なものは、大体魔法。オレ達から見て、現地人特有の考え方が面白い。

「これが大福とおはぎ。それから、あちらにあるのがどら焼きです」

 どら焼きを自作する人は初めて見た。

「クッキーとパウンドケーキできたっスよ」

 カガミとプレイン、なんでこんなにお菓子のレシピを知っているんだ?
 殆ど2人で作っている。
 オレはフルーツポンチだけ。あとは、カガミに言われるまま、助手として餅をついたくらいだ。
 そもそも、菓子の作り方なんて知らない。
 まったく知らなかったサムソンはともかく、やたらと博識な同僚に驚きを隠せない。

「あと、お菓子作りに欠かせないのがマヨネーズ」
「我々が作るクッキーとは違うのですね」
「あの……彼は、ちょっと変わっているので……もちろんマヨネーズを使わないお菓子のほうが多いですよ」

 特にプレインがマヨネーズを取り出したときは、どうしようかと考えたけれど、美味しいお菓子をつくるのでビビる。
 レパートリーも多いしな。
 お菓子にマヨネーズを使うのは一般的……ではないよな。
 カガミも驚いていたし。
 それにしても、リスティネル。
 作ってみせるのがいいとかなんとか言っていたけれど、自分が食いたかっただけじゃないか。

「布のように薄い生地を重ねるのか、面白いのぅ」

 お菓子を一番楽しんでいたのはリスティネル。

「ふむ。苦みがアクセントとなって、下に引いた甘い雪のような生地を引き立てている。くわえてやや冷やしてあるゆえ、口の中で解けるような感触をもたらし、それがいっそうこの菓子の味を演出している」

 次点でハロルド。

「やっぱ、甘い物っていいよね」

 3番手につけたのはミズキ。

「案外、なんでも手に入るんですよね」

 カガミが嬉しそうに言う。
 確かに、この町では他のどの町よりも食材が手に入った。
 特に、調味料は本当に沢山あった。
 お金にも余裕があったので、ガシガシ買い込んだ。
 これで、作れる料理のレパートリーは格段に増える。

「皆さんのお菓子をみて、作ってみました」
「予選には、これを持って行こうかと思います」

 何作も作った結果、予選に持って行くお菓子が決まる。

「食べちゃうのはもったいないよね」

 オレ達の作ったお菓子を見て、インスピレーションを受けた2人が作り上げたお菓子を目の前にして、ミズキが言った。
 結局、一番琴線に触れたのは、意外なことに、大福だった。

「餅が作れるとは思わなかった」
「トウモロコシみたいな食べ物を流用しました。すこし苦味があったんですよね」

 目の前にあるのはただの大福ではない。
 一口サイズで、中にはあんこ、そして小さいイチゴが入っている。
 ちっこいイチゴ大福だ。
 見た目も楽しく工夫されている。
 大福の上に、もう一個小さなお餅が乗っている。
 さらに上に赤い食材、加えて上に載っけた小さいお餅には、目と口を3つの点で表現してある。
 ぱっと見、雪だるまだ。
 お菓子でできた小さな雪だるま。
 小さなイチゴはイチゴを縮小してから複製することで、実装した。
 魔法を使うからこそ作り出せる食材だ。
 異世界でないと、魔法のある世界でないと作れないお菓子。
 本来であれば面倒臭い餅の成形も、魔法を使うことで一気に解決できる。
 餅もあんこも、イスミダルとラテイフが他の料理の応用ですぐにマスターしてしまった。
 舌触りもいいし、甘みも丁度良い。さすがプロは違う。

「後少し、もう少し工夫し、これをもっと良くしていきたいです」
「いつから予選は始まるんですか?」
「予選は明日から始まります」
「時間がない」
「これから15日間かけて予選が進みます。途中参加もできるので、もう少しだけ工夫をして、それから出品しようかと考えています」

 焦るオレ達に、ラテイフが落ち着いた様子で回答する。

「十分って感じだけど、やっぱりプロは違うよね」

 ミズキがいくつも試作した物のうち一つを口に入れながら言った。
 あんこの中に入れる砂糖や、餅とあんこの配分などを色々試したいという。
 オレもミズキに同感だ。プロのこだわりは凄いな。

「そうっスね。それに、お店も時間かかりそうっスしね」

 そういえばそうだったな。
 壊されたお店。
 トゥンヘルと、トッキーピッキーのコンビが取りかかっているけれど、進捗はどうかな。

「ちょっと、聞いてみるよ」
「何から何までありがとうございます」
「いえいえ」

 恐縮する2人にパタパタと手を振り、外へとでると庭に木片がいくつか置いてあった。
 そして、トゥンヘルが何やら説明していて、トッキーとピッキーが頷いている。
 3人の前には、すでに店の扉が横になって置いてあった。
 作業は随分と進んでいるようだ。

「もうここでもう組み立てるの?」
「あっ。リーダ様」
「お店に行って、これを上からかぶせてみます。それから、壊れてるものを取り外したりします」
「微調整しながら進めていきます」
「へぇ」

 オレの質問に、トッキーとピッキーがちょこまかと動きながら説明してくれる。
 ちょうど部品を切り出したところのようだ。
 大きな板に下書きのように模様が描いてあるので、将来的には、細工が入るのだろう。

「これは仮組みでね。ちょうどよかった、リーダさんにお願いがあるんだよ」

 トゥンヘルが、2人の説明に頷いていたオレに声をかける。

「なんでしょう?」
「これから今日の内に、店に行きたいんだ」

 確かにいつかはお店で作業しなきゃいけない。扉の取り付けなんてあるからな。
 下準備が終わったから、次はお店で実際の作業を進めたいということだろう。

「了解。ラテイフさんに了解を得てきます」

 お菓子は順調。
 次は、お店だな。
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