召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第二十章 聖女の行進

えいえんにつづくたたかい

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 やばい。
 これは不味い。
 見渡す限り少なくとも100体は超えるアンデッドがオレ達を取り囲んでいる。
 先程見たとおり、遠く背後にはさらに大群。
 それだけではない。
 オレ達を取り囲むアンデッド達の、さらに外にも次々とアンデッドが湧き出しているのが見えた。
 ぼさっとしている暇はない。
 取り囲むアンデッドの一体が海亀の背を駆け上がり襲いかかってきた。
 兵士の格好をしたスケルトンだ。
 すぐに屋根に上っていたプレインが弓を射って迎撃する。

「助かった」

 オレはプレインに礼を言いつつ、影から剣を取り出す。

「やっ!」

 ミズキの掛け声が聞こえた。
 カガミが魔法を詠唱する声も聞こえる。

「ハロルド! 後だ!」

 サムソンの大声が響く。
 すでに、あちこちで戦いが始まっていた。
 次から次へと乗り込もうとしてくるアンデッドの戦いは、なし崩し的に始まった。
 いつの間にか茶釜から降りたミズキが、オレの背後から小屋へと乗り込もうとしていたアンデッドの頭を吹き飛ばす。
 オレの2倍くらいの背をしたゴブリンだ。
 確か、ホブゴブリンだっけかな。大型のゴブリン。
 そのアンデッド。
 先ほどのミノタウロスといい、人以外のアンデッドも沢山いる。

「ぼさっとしないで! 私も余裕ない!」
「悪い!」

 オレを助けてくれたミズキは、小屋の周りを走り回り、次々とアンデッドを倒していく。
 防戦が精一杯の中で、ミズキとハロルドは、オレ達の力不足を埋めてくれる。

「どうするんだ! リーダ?」
「まずは乗り込ませないように!」

 サムソンの声に、とりあえず応える。
 敵の勢いは衰えるどころか、益々激しくなってくる。
 加えて、鳥やコウモリといったもののアンデッドまで襲い掛かってきた。
 飛び回るコウモリや鳥。
 大した攻撃力はないが、とにかくうっとうしい。

「リーダ! らちがあかない!」

 息を切らせていながらも、半壊したゾンビを蹴り倒しながらミズキが叫ぶ。
 言われなくてもわかっている。
 もう既に取り囲んでいるアンデッドの数は1000体じゃ済まなくなってきた。
 曇り空だが、高く昇った日の明かりに照らされるアンデッドの軍勢は、見渡す限り続いている。
 あの緑一杯の丘は、すでにほとんどが動く死体に埋め尽くされていた。
 しかも、まだまだどんどん増えてくる。

「このままじゃマズイ! みんな戦いながら手を考えるんだ」
「手ですか?」
「なんでもいい! 思いつくものを手当たり、次第に試すんだ!」

 そう、声をあげる。

「了解っス」
「ノアもピッキー達も頼む! オレ達の了解はいらない!」

 叫びながら、足を掴んできたアンデッドの手を、もう片方の足で踏みつぶす。

「がぁ……」

 プレインのうめき声が聞こえた。

「プレイン?」
「大丈夫っス」
「大丈夫じゃない! プレインが! 背中を斬られた!」
「すぐに、エリクサー飲むっスよ。まだまだ戦えるっスよ」

 不味すぎる。
 なんとかミズキとハロルドが頑張ってくれているから持っているが、このままであとジリ貧だ。
 とりあえず、そばにあった魔改造聖水をぶちまける。
 少しでもアンデッドは弾け飛び、塵と成った。
 しかも、その塵が少しでも当たったアンデッドにもダメージがあった。
 凄い効果だ。
 でも、これではダメだとすぐに判断する。
 樽一杯の聖水といえども、この数全員には当てられない。

『ゴォォォ!』

 視界の端に赤い炎が見えた。
 カガミが火柱の魔法を使ったようだ。
 一瞬で何十体ものアンデッドが燃え上がり、火だるまとなった。
 だが、それで終わり。
 すぐにそれと同じか、それ以上のアンデッドが、地中から湧き上がり、倒されたアンデッドのスペースを埋め尽くす。
 ノアの使う魔法の矢が、あたりに飛び回り次々とアンデッドをなぎ倒していくのも見えた。
 だが、多勢に無勢。
 焼け石に水といった感じだ。
 しかも、火柱にも、魔法の矢にも耐える強いアンデッドもいる。
 強力な盾で、オレ達の攻撃に、まったく怯まないアンデッドもいた。

「ちぃ。こやつら、手強い」

 それらは、ハロルドとミズキがなんとかしのいでくれていた。

「不味いでござる」
「強すぎるやつは、聖水を使おう」
「あぁ」
「先輩! 神殿で買ったプリズムは?」

 頭上からプレインの声が聞こえた。
 そういえばそんなものを買っていたな。
 いろんな神殿で売っていた缶ジュースくらいの大きさをした三角柱。
 光を通すと七色の光に分割して広がり、それは退魔の力を持つと言っていた。

「ウィルオーウィスプ!」

 オレはそう叫びながら、すぐに影の中からプリズム取り出し、頭上に掲げる。
 すぐにウィルオーウィスプは応じてプリズムに強い光を当ててくれる。
 プリズムを通った光は、7色にわかれ辺りを照らした。
 少しだけ効果があった。
 コウモリが塵と成り、アンデッドの中にはあからさまに苦しむ者もいた。
 だが十分な効果があるとは言えない。
 直接光をあてなくてはならない。
 光は広がるとはいえ、視界全体をカバーするほどではない。
 とりあえず飛び回るコウモリたちを無力化はできるが、不十分だ。

『ガシャン!』

 窓ガラスが割れる音がした。
 小屋の中をみると、サムソンが犬の頭をした大男のゾンビに襲われていた。
 ピッキーとトッキーが、2人がかりで殴りつけて、なんとか対抗し、その隙にサムソンが自己発火で引き剥がしていた。

「サムソン!」
「しくじったが大丈夫だ! リーダ! プリズムを沢山だせ!」
「あと2本しかない!」

 それほど沢山の数が必要だとは思っていなかった。
 いろんな用意をしていたが、これほどの大群を想定していなかったのだ。

「増やせないか?」
「試していない」
「かせ!」

 いわれてサムソンにプリズムを投げ渡す。

「おいらたちも!」
「あぁ、何でも良いから試してくれ!」

 それからも次々と、思いつくまま試していく。
 プレインは火球の魔法を連続して唱え、サムソンはプリズムを魔法で増やして小屋の周りへと括り付けていく。
 トッキーとピッキーはその補佐だ。

「カガミ様!」

 チッキーの叫び声が響く。

「どうした?」
「少しやられただけ。大丈夫! エリクサー飲むから」
「リーダ。ごめん、エリクサー無くなった。追加、頂戴!」

 皆、ギリギリだ。
 次々と傷つき、エリクサーをガンガン消費していく。
 オレも魔導具フエンバレアテを取り出し、手当たりしだいにぶん回す。
 それぞれの手がそれなりの効果を収めるが、やはり焼け石に水。
 次々と生まれるアンデッドに対する決定打とは言えない。
 あんだけ倒したっていうのに、アンデッドが減った様子はまるで無い。
 逆に増えているくらいだ。

「ハァッ、ハァッ……」

 ミズキもバテてきて、声が出なくなってきた。
 ハロルドも辛そうだ。
 加えて、ハロルドには時間制限がある。
 こんなこといつまでも続けていられない。
 そうこうしてるうちに一緒に戦っていた茶釜が、子ウサギ達を小屋の中にどんどんと投げ込みまだした。
 いつの間にか子ウサギ兎たちは沢山の怪我をしている。
 茶釜としても、もうこれ以上子供達を戦わせるわけにいかないという判断なのだろう。
 当然の判断だ。
 むしろ今まで頑張ってくれたことに感謝する。
 当の茶釜も小さな傷をたくさんつけているが、まだまだ戦う気は満々のようだ。
 だが、やはりこれがいつまで続くとも思えない。

「ガァ……ッ」

 ハロルドの巨体が宙を舞った。
 見ると、ハロルドよりさらに大きいゾンビに殴られたようだ。

「あれって……」
「オーガっスよ!」

 ギリアの町で遭遇した巨大な魔物。
 殴られたハロルドは、すぐに立ち上がったが肩で息をしている。
 あのハロルドでさえ……いや、体力的なものか。
 もう随分と長く戦っている。
 すぐに魔改造した聖水をぶちまけてオーガのゾンビを破壊する。
 強い相手でも一撃で倒せるのはいいのだが、すでに樽の聖水は3分の1を使いってしまっている。
 この調子ではすぐに尽きてしまう。
 早く終わって欲しいと思うオレの希望とは裏腹に、同じような調子で戦いは続いた。
 他の精霊達も手助けをしてくれているので、なんとか持ちこたえている状況だ。
 火球の魔法は大きな虎の姿をとり、あたりのアンデッドを焼き尽くしながら移動するようになった。
 あれはきっとサラマンダーの力だろう。
 聖水の水は、ひしゃくに入れて投げつけると、小さな粒になってあたりに飛び散り、大量のアンデッドを巻き込んでくれる。これはウンディーネ。
 シルフであるヌネフの起こす吹き荒れる風は、打ち込まれる矢をはじきとばし、オレ達を守ってくれる。
 他にも、伸びてくる木の蔓によって、オレも含め皆の死角から襲いかかってくるアンデッドを牽制してくれた。
 だが、どれも決定打にならない。
 あまりの数の多さにどうにもできないのだ。

「ノーム! 逃げるっスよ!」

 そんな中、プレインの声がいっそう響き渡る。
 必死に声を張り上げているプレインの方向を見ると、ノームが必死にツルハシを地面に叩きつけていた。
 アンデッドに蹴り倒されても、すぐに起き上がって、ひたすらにツルハシを地面にたたき付けている。
 幸いアンデッドのターゲットになっていないらしく、攻撃はされていない。
 だが、このアンデッドの群衆に蹴られ踏まれ、その体はボロボロだった。
 それにも関わらず延々とツルハシを地面にたたき付けていた。
 何かをやろうとしているのはわかる。
 だが、このままではノームが死んでしまう。

「てやんでぇ」

 プレインの張り上げた声に、ノームは振り返りツルハシを振るった。

「いいから逃げるっスよ! ここは大丈夫だから!」

 プレインのその言葉に反応し、ノームは地面の中に潜った。
 本当に不味い。
 いくら手を尽くしても、この数を何とかする方法が見つからない。
 延々と戦いは続く。
 どれくらい戦ったのかはわからない。
 だが、続く戦いの中で、ハロルドの呪いは解け、子犬に戻ってしまった。
 腕は鉛のように重くなり、武器を振り上げるのもしんどい。

「リーダ! 怪我してる!」

 ノアの声を聞いて、オレは初めてお腹を刺されていることに気づく。
 やばい。
 思った以上に血が流れていた。
 すぐにエリクサーを飲んで傷を癒やす。
 それからオレに追撃しようとしたゾンビを蹴り飛ばす。
 だが、力が入らず、尻餅をついてしまった。
 見ると、他の皆も相当厳しい状況だ。

「あぁ、クソッ。何か……何か、手を」

 忌々しくオレが愚痴っていた時。
 絶対絶命のそんな時、あたりに歌声が響いた。
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