召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第二十章 聖女の行進

とぎれることのないうた

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 歌声が響き渡る。
 それはチッキーの歌声だった。
 しかも、ただの歌ではなかった。
 辺りを飛び回り、うっとうしく、オレ達に小さな切り傷を付けていたコウモリが塵となって消え去った。
 それだけではなく、鳥の動きも遅くなる。

「効いてる」

 ミズキが、疲れを感じさせない弾んだ声をあげる。
 プリズムで作り出した聖なる光が当たっている部分では鳥すらも塵となっていく。
 襲い掛かってくるアンデッドの勢いは変わらず厳しい。
 だが、先程に比べて心なしか敵の動きが遅く見える。
 ミズキの嬉しそうな声に反応したのか、ピッキーも演奏に参加した。
 小さな太鼓を叩きながら歌う。
 歌声の効果はさらに増し、プリズムの光が当たっていない場所でも、鳥が塵となって消えた。
 プリズムの光より、歌声の力は強い。
 そして、トッキーも加わった。
 トッキーは小さいギターのような楽器を、ピッキーは太鼓を叩き、そしてチッキーは手を叩きながら歌っている。
 歌声の効果は益々強くなり、目に見えて、アンデッドの動きが遅くなる。

「いける! いける!」

 ミズキが嬉しそうな声を上げながら剣を振る。
 確かにだ。
 ちょっとした希望が見えた。
 しかも3人の歌声は、心なしかオレ達にも力を与えてくれる。
 だが、すぐに問題にも気づく。
 歌をずっと歌うことは出来ない。
 すぐにチッキーの澄んだ歌声は、かすれてきた。
 大きな声で歌っているのだ。
 当然のことだろう。
 やはり、いつまでも歌うことができない。

「ボクも歌えるっスよ」

 そう言ってプレインがチッキー達の側へと近づいていく。
 チッキーと交代して歌うつもりだろう。
 どうする?
 考えながら剣を振る。

「クソ! 歌を練習しておけばよかった」

 サムソンの悔しそうな声が聞こえた。

「まだ歌えるでぢ!」

 チッキーが声を上げるが、すでにかすれ、十分な声が出なくなっていた。
 それをカバーしようとピッキーが大声を張り上げる。
 だが、だが張り上げた声は長く続かず、すぐに歌の力が弱まってしまう。
 悪循環だ。
 すぐにプレインがカバーに入り、歌の力は元に戻る。
 だが、プレインも長続きするとは思えない。
 歌は今までに無い効果を発揮している。
 どうする? どうする?
 自問自答しながら剣を振る。
 永久に歌うことは出来ない。
 しかも大声で。

「プレイン! 身体強化で!」

 ミズキがプレインに声をかける。
 身体強化で、なんとかするということか。
 でも、それでも限界はある……。
 歌いながら、この周りを囲むアンデッドを倒せるとは思えない。
 でも、歌の効果は絶大だ。
 この歌が、永久に鳴り続ければ……。
 鳴り続ければ、戦いながら、次の手段を講じる余裕が作れる。
 永久に歌えれば……だ。
 永久に……。
 待てよ。
 すぐにオレは影の中から一つの魔導具を取り出し、起動させた。
 握りしめながら剣を振るい、敵と戦う。
 しばらく経って、魔導具が持つもう一つの機能を使う。
 くぐもってるが、歌が聞こえた。
 魔道具から歌が聞こえる。
 ここまでは想定通りだ。
 言葉封じの石。蓄音の魔導具だ。これは、吟遊詩人の歌を録音できたのだ。
 この歌を録音できないわけがない。
 だが、もう一つの効果は……。

「やった!」

 思わず大声をあげる。
 一か八かの賭けだったが、オレはその賭けに勝った。
 オレの近くにいるアンデッドの動きが突如遅くなった。
 打ち込む力も弱くなった。
 直接、歌わなくてもよかった。
 録音した歌でもそれなりの効果があったのだ。
 こんなくぐもった声でも、効果がある。
 もっとそばで録音すれば、もっとしっかりした歌であれば、より効果が望める。

「どうしたんだ? リーダ?」
「なに? なに?」

 大声をあげたオレに、重なるようにサムソンとミズキが声をかけてきた。

「とっかかりだ!」

 オレが影の中に入れている、残りの三つの魔導具を投げ渡し、プレインへと声をかける。

「言葉封じの石だ! 歌を録音しろ! 録音でいける。録音して、こいつを流すんだ!」
「まじっスか?」

 石を受け取ったプレインが、歌うのを一瞬忘れ裏返った声をあげた。

「あぁ、いけた! 効果は、薄かったが、でも効果はあった!」
「了解っス」

 希望が見えたのだ。

「音量を上げよう!」

 サムソンが声をあげる。

「あげられるのか?」
「前に、ラノーラとマリーベルのためにスピーカーの魔法を作ったことがある! それが使えるはずだ!」

 これも成功!
 音量を大きくして効果を増大させることができた。
 一気に戦いは楽になる。
 できた余裕は、サムソンとカガミの作業に回す。

「即興ですが、三つの魔道具を時間差で起動させる魔法です!」

 カガミが言葉封じの石をローテーションで起動させる魔法陣を組み上げた。
 これで曲が終わる度に、再び再生させる手間が省ける。
 言葉封じの石は1回再生した後、しばらく再起動できないので、それを補う仕組みだ。

「スピーカーの魔法を強化した! でかい音が響くぞ!」
「どんどん使え!」

 一気に、なんとかなりそうだと希望は見えてきた。
 そうなると先程までは鉛のように儲かった腕もなんとか動く。
 そして、どんどんと強化される聖なる歌の力は、オレ達の負担を少なくしてくれた。
 工夫しつつ、戦う。
 結局その日は徹夜だったが、夜を越え朝日を迎えた時になってもオレ達は誰ひとり欠けることなく、朝日を浴びることができた。

「リーダ、そろそろ交代しましょう」

 朝日を迎えた時とほぼ同時、一足先に休んでもらっていたカガミが起き上がってきた。

「頼むよ。もうヘトヘトだ」
「ボクはもう少し頑張るっスよ」

 頭上からプレインの声が聞こえる。
 プレインは二階の屋根に座り込み、聖なる歌を耐えきったアンデッドを、弓で射ぬいでいた。
 オレはそれでも勝てないアンデッドへ聖水をかけたり、それほどでもないアンデッドを殴り飛ばして戦い続けた。

「私も、もう少し頑張るから、リーダは休んで!」

 ミズキも、もう少し頑張るようだ。
 もう少ししたらノアも起きてくるだろう。
 昨日の夜遅く、明日にはクローヴィスを呼んで一緒に戦うと言っていた。
 楽になったとは言え、テストゥネル様が了解してくれるかは分からない。
 もし、クローヴィスが一緒に戦ってくれるのであれば大きな戦力になる。

「あぁ。休ませてもらうよ。もしクローヴィスがダメだったら起こしてくれ」
「しっかり休んで下さい」

 カガミの言葉を軽く頷き、小屋に入る。
 小屋の中には、手当てをされた茶釜の子供達。
 そして、サムソンが死んだように倒れ込んでいた。
 サムソンは、スピーカーの魔法を徹夜で魔道具化し、さらには調整などで根を詰めていたので、先に休んでもらっていたのだ。
 皆、ボロボロだよな。
 オレも自分の部屋に行くまでの気力がなくて、広間にゴロンと倒れるように転がった。

「ふぅ」

 大きく息を吐くのと同時、オレの意識はなくなっていた。
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