召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第十四章 異質なるモノ、人心を惑わす

かくしごと

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 同僚、ハロルドそしてロンロを集めてスライフの言葉を伝える。

「なんと」
「このままだと……ノアの呪いでエルフ馬が死ぬのぉ?」
「そうらしい。だから、対策を考えなくてはならない」
「エルフ馬の子供達と別れるしかないっスか?」
「それはできない。急にそんなことをしたら、ノアが訝しがる。するとしても、最後の手段だ」
「そうですね。方法が無い時の……最後の手段だと思います」
「さすがに呪い子の呪いが原因だと言うわけにいかないっス」
「早く出る言い訳なら、俺が望んだことにしよう」

 サムソンが、ことさらに軽い調子で言う。

「悪いな」
「いや。早く魔道書を見てみたいというのは本当のことだからな」
「で、相違点を探すってことっスよね」

 小さく頷き、追加の情報を伝える。

「茶釜の子供達、3匹のうち、1匹だけが耐性を持っていると言っていた」
「3匹のうちの1匹って、あの怪我をした子ウサギでしょうか?」

 そうか。怪我をしたやつだったら、加護、もしくは薬の影響ってことで答えが出る。
 神の加護が、呪いをはじく。ありそうだ。

「いや、違うぞ」

 だが、サムソンが首を振る。

「違う?」
「スライフが指差していたのは、よく飛び跳ねる。一番小さいやつだった」
「あんなに遠く離れてて見えてたのか」
「身体を強化する魔法で視力を上げる練習をしていた。それが功を奏した。一匹だけ離れて動き回っていたしな」

 なるほど。身体の強化で視力を上げるか。ミズキがいつもやっていて便利そうだとは思っていたが、オレも挑戦しようかな。

「となると、加護や薬ってわけじゃないっスね」

 すぐに解決……と期待したが、そんなに上手くはいかないようだ。

「他の何か、別の理由があるってこと?」
「私達と出会ってから何かがあったとしたら、出会ってから今まで起こったことを思い出すしかないと思います。思いません?」
「あぁ。まずはそこからだ」

 カガミは言わなかったが、出会う前に耐性を得る理由があれば、お手上げだ。
 だが、そんな答えのない問いを考える予定はない。
 それにスライフは、海亀とロバについて大丈夫だと断言していた。
 今までに聞いた呪い子の話から、呪いの力は種族を超えて影響を与えるというのは間違いない。
 つまり海亀は生まれながらに耐性を持っているというわけではない。種族は耐性を得る理由にはならない。
 どちらにしろと、子ウサギ達が死ぬまでにはまだ時間がある。
 遊牧民たちのヤギについても、オレ達が早く出発すれば、呪いにより死ぬことはないはずだ。
 当面の方針が決まったので皆を見渡し声をあげる。

「移動しながら、タイムリミットのギリギリまで考える。どうしてもダメだったら別れよう」

 カガミとミズキも無言で頷く。

「苦労したがしょうがないね」
「死なせてしまうより、よっぽどいいっス」
「この件はノアに言わないようにしてくれ」
「もちろんでござる」
「そうだよね、まだまだ子供だし」
「すでに、ノアは……」

 カガミが何かを言いかけて、少しだけ首を振って再度言葉を発した。

「もう十分、自分の呪いで傷ついていると思います。私達で受け止めましょう」
「気を取り直そう。とりあえず、お肉と誕生日会だ」
「まずは目の前のこと……っスね」

 一旦、それで話し合いは終わり。
 各々、何か気づきがあれば互いに報告し合う。いつもと同じ形で新たな問題に挑むことになった。
 そして、話し合いをした日。
 明日の昼前には焼き肉が食べられるということになった。

「ちょうどいいと思います。明日は、ノアちゃんの誕生日なんです」
「えぇ。皆が間に合わせてくれました」

 とてもいいタイミングだと思っていたらラッレノー達が、間に合わせてくれたのか。確かに昼夜問わず料理をしていて、元気だなと思っていた。
 もしかしたら、誕生日会の為に、無理をさせてしまったのかもしれない。

「ラッレノーさん達には感謝の言葉もありません」
「アハハ。これくらい大した事はありません。せっかくの旅人、そして恩人、そんな方の誕生日会を行えるのです。皆、張り切っていますよ」

 ラッレノーが、遠くでせわしなく動き回る遊牧民を見やり、笑顔で言う。
 よく見ると、いつの間にかテントが増えて、人が増えていた。

「人が増えてない?」
「えぇ、噂を聞きつけて別の家族がやってきましたので。ということで、明日の昼から誕生日会を始められたら。そこで併せて料理を振る舞えればと、考えているのですが?」
「いいっスね」

 オレも異論は無い。もうこうなったら、全部お任せだ。

「では、お願いします」
「夜遅くだとノアノア眠いだろうしさ」
「では、お任せください」

 こうして笑顔で大きく頷くラッレノーに、全てを任せることにした。

「あのね、リーダ。いっぱいの道具があのテントに入ってるんだよ」
「すごいね」
「うん。パエンティがね、こっそりお手伝いしたんだって」
「こっそり?」

 大きくノアが頷く。
 ノアが料理道具が詰め込まれていると思っているテントには、誕生日会に使うあらゆる道具が詰め込まれていた。
 テーブルやプレゼント類。
 ちょっとした催し物の小道具。
 それらが、ステゴサウルスの胴体で作られた窯のそばに設置したテントに詰まっている。
 参加する人数に、準備の数々。
 今年は想像していなかった以上に派手な誕生日会になりそうだ。
 その日は夜、自分の事のようにウキウキして眠られなかった。
 浅い眠りのまま、誕生日会当日の朝を迎える。

「おはようって……寝不足?」
「まぁね」
「興奮して寝れなかったとか?」

 心底嬉しそうにミズキが上目遣いでオレの顔をのぞき込む。
 こいつは、朝から元気だよな。

「まぁね」
「あははは。まるで小学校の遠足前みたいなこと言ってる」

 言われると確かにそうだ。
 笑うしかない。
 そして、お昼時。
 バタバタと食事の準備が始まる。

「焼き肉ってすごいんだね。いっぱいテントが並んで、まるでお祭りみたい」

 ロンロにも協力してもらって、できるだけ日付を言わないようにお願いしておいた。
 それが功を奏して、ノアは自分の誕生日の事など全く考えていないようだ。ただ単純に焼き肉パーティーがすごく豪華なことに目を白黒としていた。
 ニヤニヤ笑いが止められない。
 ひときわ目立つ黒い鉄板も準備された。下に敷いた炭に火が入る。

「あれで焼くんだ」
「あっちの網も大っきいスね。さすが恐竜の肉を焼くだけあって豪快っス」

 南の港町で買ってきた野菜類、海藻類が所狭しと並ぶ。
 ちょっとした市場のようだ。
 鉄板の上で野菜類が焼かれはじめた。

「魚介類もあるぞ」

 どんどんテンションが上がってくる。

「さて、では始めましょうか」

 ラッレノーが近づき、全ての合図となる一言を言った。
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