召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第十三章 肉が離れて実が来る

そうりょくせん

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 膨大な作業量。
 選べる対策など、1つだけだ。

「また睡眠時間を削るのか」

 遠い目をしてサムソンが呟く。
 今までの経験から考えて、これ以上の劇的な効率化は見込めない。それなら、いつものパターンで睡眠時間を削るしかない。
 そう、いつものように。
 となると、具体的なコメントができない。

「肉食ったら元気になるよ」

 もう、投げやりにコメントを返すほかないのだ。

「お肌荒れちゃう……背に腹は代えられないけどさ」
「お肉に含まれてるコラーゲンのおかげでお肌すべすべだよ」
「相変わらずいい加減っスね。しょうがないっスけど」

 グチグチいいながらも皆前向きだ。
 肉の持つ魔力に人はあらがえない。

「だが、実際問題、相当ハードになるぞ。ラスボスが待っている」

 ラスボス。
 後回しにしていたが、一番大きな飛行島。お城のような飛行島がある。他の飛行島よりも何倍も大きな飛行島。その上に建つのは、白いお城。西洋風の白いお城で、何処かのテーマパークにありそうなメルヘンな代物だ。そのうえ、設備も整っている。オレ達の飛行島以外は、多かれ少なかれ兵器類も装備されているが、特に大量の兵器が備わっている大きな飛行島だ。
 描かれていた魔法陣もそれなりに大きく、やることは変わらないが、修繕にあたって使用するインクが多い。
 インクを準備するのが大変なのだ。
 材料はハイエルフが準備しているので問題はない。
 インクを調合するレシピも問題ない。
 だが、調合しつつ塗るとなると、人手が必要となる。
 しかもインクは空気に触れると劣化していく。描きにくくなるのだ。
 そんなわけで、オレ達は使用する都度、必要分量をその場で調合していた。

「インクの調合や、足場の準備は我々も参加できるが?」
「いえ、慣れた者同士で進めたほうがいいので、ご心配なく」
「そうか。飛行島の装備への手入れに人が回せるので、助かる」

 そんなやり取りをカスピタータとしていたのだ。
 仕事を続ける中ですっかり役割分担が定着している。
 オレ達は修繕。ハイエルフ達は、飛行島にある装備類の点検や整備。
 飛行島には武装しているものも沢山ある。一通りみたが、地上では見たこともないものばかりだ。
 その装備や、備品は、あのツインテールの双子が詳しかった。
 ふと目に映った、車輪がついた巨大な大砲。金属製の筒部分が長く、鳥の絵が彫り込まれていた。一目で攻撃力高そうだとおもうゴツイ大砲。
「これは、雷槍オクサイルと呼ばれている武器です。この鎖がついている先端が鳥の足を模した矢を飛ばし、相手に食らいつかせたあと電撃を送り込む仕組みになっています」
 オレがなんと無しに見ていたその兵器を双子の一人がめざとく見つけて解説してくれた。

「使えるのですか?」
「えぇ、もちろん。そして、あちらに積み重なっているのは魔壁フエンバレアテ、巨大な金属製の板を飛ばして攻撃したり、防御したりする仕組みのようです。そして、あちらが……」

 そんな感じで、たまに2人と顔を合わせると飛行島にある備品について説明してくれる。
 地上から帰還してから世界樹の大切さを再確認したとかで、とくに熱心に仕事をしているそうだ。
 というわけで、これから手伝ってもらうのも難しい。
 頼めば大丈夫だとは思うが、意見のすりあわせなどが難しいだろう。なんだかんだといって、ハイエルフ達とはいろいろと話をする。共同作業が難しいのはなんとなくわかる。
 今のオレ達に、意見をすりあわせ、スムーズな仕事に結びつける時間ももったいない。
 元々の理由は、オレ達も飛行島を独自に調べたかったこと、バックドアへの対策をハイエルフ達に見られたくなかったこと。その2つだっただが、この状況になると少し後悔する。
 短時間でかたづけるには人手が必要なラスボス対策。
 他の部分も、あと一ヶ月そこらで片付けるには雑務を効率的に進めなくてはならないだろう。

「私も手伝う。絶対」

 ノアが椅子から身を乗り出しオレを見る。
 確かにノアにラスボスを手伝ってもらうのはアリか。

「おいら達もできることがあれば何でもやります!」
「やります!」
「がんばるでち!」

 続いて声をあげたピッキートッキーにチッキーも真剣な表情だ。
 そうだな。全員でがんばるか。
 でも、安全は確保したい。

「リスティネル様」

 オレ達の話を、ぼんやりと縦ロールをいじりながら聞いていたリスティネルに声をかける。

「ん?」
「ノアサリーナ様達の安全に協力していただけませんか?」
「安全とな?」
「世界樹の中では落ちても助けてくれるのですよね? 同じように、飛行島でも助けて欲しいのです。ほら、我々には時間が足りないので、皆で安全に作業したいわけでして……」
「オホホホホホ。ホーホッホッホ」

 オレの言葉が終わらないうちに、リスティネルが笑い出す。
 いつものように、右手の甲を口に添え、いわゆるお嬢様の高笑いだ。

「えっと、安全に作業したいわけで……それで、落ちても助けてもらえると嬉しいなっと」
「まったく、何を言い出すかと思えば……。相変わらず面白い奴らよな。いいとも、私が面倒をみてやろうぞ。ホッホホ、いや、本当に面白い」

 途中から棒読みのような口調だったが、リスティネルが安全を請け負ってくれた。
 これで心起きなく仕事に没頭できる。

「それじゃ、明日から、皆で、総力戦だ!」
「うん。ソウリョクセン……頑張るよ!」

 笑顔のまま勢いよく立ち上がったノアが、椅子から転げ落ちそうになる。
 危ないと思った瞬間、ノアの身体がフワリと浮き上がり、ストンと椅子へ戻った。

「まったく……先が思いやられるわ」

 あきれたように呟くリスティネルの言葉に皆が笑う。

「いける」

 思わず小さな独り言がでた。
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