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第十三章 肉が離れて実が来る
みえなかったのうき
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ノアが持っていた母親の物と思われる手帳。
真っ赤な手帳に巻き付いた真っ赤なテープをカガミがそっと触れる。
「これは封印だと思います。思いません?」
「確かにカガミ氏の言う通りだ。厳重に封印がされている。そんな感じだぞ、これ」
「まぁ……この件もおいおい調べていこうか。ノア、これを借りてていい?」
「うん、いいよ」
そんなわけで、手帳を開く方法の手がかりが何かないかと考えるが、ホイホイうまく思いつくわけもなく、日々が過ぎていった。
魔石ノイタイエルについても、目録をあたるが見つからない。
仕方ないので魔導具に関する本を読みあさり、ヒントだけでも探そうということになった。対して、仕事は着々と進み、魔法陣の修復、バックドアの改ざんも順調だ。
夕食時の会話から、ノアや獣人達3人も日々を充実して過ごしていることが分かる。
時間にも余裕があるゆったりとした時間。
ノアは長老から魔法を習ったそうだ。
それも、とんでもなく強力な魔法。
「星落とし?」
「うん。お空にある使われていない魔法陣を地上に落とす魔法なの」
「ノアサリーナが持つ魔力の色が、解放だからの。相性が良い魔法なんじゃよ」
にこやかに長老が付け加える。
なんか聞く限り過ごそうな魔法だ。
「試してみたっスか?」
プレインの言葉に、ノアが大きく頷く。
「長老様が、練習用に沢山の触媒を用意してくれて練習したよ。魔法陣がすっごく難しいの」
「確かに、魔法陣が特殊であるからの、よく頑張ったものよ」
ノアの言葉に、リスティネルが賞賛の声を送る。シューヌピアさんも、驚いている様子から、魔法陣は相当複雑なようだ。
「長老様が用意した触媒ってのは? 世界樹の樹液か、何か、でしょうか?」
「星落としの触媒は、星ときまっておる」
カガミの質問に、リスティネルが星だと答えたが……星?
「え?」
「極光魔法陣じゃよ。練習のため、簡単な極光魔法陣をこさえてな。それを触媒にしたんじゃよ」
「ノアサリーナには、星落としに必要な知識の全てを伝えた。あとで聞くがよかろ。私は、小難しい話を夜通ししたくはない」
そういって、リスティネルは話題を打ち切る。
長老も、リスティネルも、事も無げに言うが、いろいろととんでもないことを言っていた気がする。
その後、リスティネルから話題の転換を迫られたシューヌピアさんが、少し可愛そうだった。
他にも、獣人達3人は音楽を習ったことを聴いた。
気球に乗っていたときに、ロック鳥に襲われた話をしたら、何人かのハイエルフが対策を教えてくれたそうだ。
それが、音楽。
音楽で鳥が操れるらしい。
それで、そのための音楽を練習したのだとか。
一足先に聞いたノアも絶賛していた。
是非とも3人の音楽を聴いてみたい……というのは、少し前のお話。
小さなギターに似た楽器。卵の様な外見をした木製のオカリナ。そして、タンバリン。
鳴り響く音楽に合わせるように舞う小鳥。
音楽の練習する3人を眺めるのは、早く帰ったときの日課になりつつある。
今の仕事を受けたとき、大量の飛行島をまのあたりにして、泣きたい気分になったものだ。
だが、ゴールが見えてくると名残惜しくなる。
最近はもう少しのんびりしていても良いかなと思っていた。
ところが、予想外の事態が進行していた。
「ずいぶんのんびりしておるが、時間がないのではないかえ?」
のんびりムードだったオレ達に、リスティネルが怪訝な調子で聞いてくる。
時間がない?
魔神復活が近いということか?
カスピタータは、別にそんなに急がせる様子ではなかった。
どういうことだろうか。
「魔神復活が近いということでしょうか?」
「ん? いや、それは先だが……其方ら、大平原で肉を食いたいのであろう?」
「そうですけど」
「王の月に訪れた其方らは、姫、冠と過ごし、眠りまであとわずか……ほれ、冬も間近であろう。大平原にも雪が降る。肉の美味しい季節は終わり、保存肉を用意する頃合いとなる」
「本当だ。おいら達が、お嬢様と出会ってから1年になります」
え? そうなの?
月日の経過なんて殆ど考えていなかった。
「そうねぇ。リーダ達が来てから1年過ぎちゃったものねぇ」
「いつ?」
オレの側で軽い調子で呟くロンロに思わず聞き返す。
「クイットパースを出たあたりで1年よぉ」
結構前の話ではないか。なんてことだ、あっという間に1年過ぎていたのか。どうでもいいけれど。
「え? 何々? 大平原に降りても美味しいお肉は食べられないってこと?」
なんてことだ。意外すぎる伏兵がいた。
リスティネルの言葉通りであれば、残り1ヶ月もないのか。
確か、去年の雪は……やばいな。
納期なし美味しいご飯に快適生活、そんなダラダラ余裕のプロジェクトのはずが、一気に納期に追われることになる。
「どうするんスか?」
「あの、一回降りるってのは?」
「さすがに、理由が理由ですし……多分、私達の会議を冒涜したと怒る者も多数でるかと」
世界樹を降りて肉を食って戻るのは無理か。
うーん。
「雪解けっていつ頃になるんですか?」
「ともかく狩りの再開は、緑か、紫よの……もっとも、雪解けすぐは肉は上手くはない。冬眠明けは肉が細い。それに来年はどうなることやら」
先ほどから、王だの眠りだのわかりにくい。たまに聞くから睦月、如月、弥生といったような月の数え方というのは分かるが、どれがどれだかわからない。
「リーダ達の呼び方だとぉ。4月か5月ってことねぇ。今が10月の終わりになるのかしらぁ」
絶妙なタイミングでロンロの解説が入る。
つまり、今が10月で12月には雪が降るということか。
半年まてば狩りの再開は目前だが、肉が旨くない……。美味しい肉を食べるには、今を逃すと来年ということになる……か。
来年まで待つことも考えたが、年があけても肉の美味しい季節まではまだまだ先だ。リスティネルの言葉からも、来年の状況が読めないことがわかる。
魔神が復活なんてした日には、肉なんてぼやく暇などないだろう。
「どうしようリーダ」
ミズキが潤んだ目で見つめてくる。すごいな、意識して涙目になれるんだ。
だが、外見がどうであれ心の声は聞こえる。
肉が食いたい。できるだけ、可及的、すみやかに。
今後の作業を考える。
「命をすり減らす覚悟が必要だな……」
オレの言葉に、同僚達は無言で目をそらし、ノア達は神妙に頷いた。
真っ赤な手帳に巻き付いた真っ赤なテープをカガミがそっと触れる。
「これは封印だと思います。思いません?」
「確かにカガミ氏の言う通りだ。厳重に封印がされている。そんな感じだぞ、これ」
「まぁ……この件もおいおい調べていこうか。ノア、これを借りてていい?」
「うん、いいよ」
そんなわけで、手帳を開く方法の手がかりが何かないかと考えるが、ホイホイうまく思いつくわけもなく、日々が過ぎていった。
魔石ノイタイエルについても、目録をあたるが見つからない。
仕方ないので魔導具に関する本を読みあさり、ヒントだけでも探そうということになった。対して、仕事は着々と進み、魔法陣の修復、バックドアの改ざんも順調だ。
夕食時の会話から、ノアや獣人達3人も日々を充実して過ごしていることが分かる。
時間にも余裕があるゆったりとした時間。
ノアは長老から魔法を習ったそうだ。
それも、とんでもなく強力な魔法。
「星落とし?」
「うん。お空にある使われていない魔法陣を地上に落とす魔法なの」
「ノアサリーナが持つ魔力の色が、解放だからの。相性が良い魔法なんじゃよ」
にこやかに長老が付け加える。
なんか聞く限り過ごそうな魔法だ。
「試してみたっスか?」
プレインの言葉に、ノアが大きく頷く。
「長老様が、練習用に沢山の触媒を用意してくれて練習したよ。魔法陣がすっごく難しいの」
「確かに、魔法陣が特殊であるからの、よく頑張ったものよ」
ノアの言葉に、リスティネルが賞賛の声を送る。シューヌピアさんも、驚いている様子から、魔法陣は相当複雑なようだ。
「長老様が用意した触媒ってのは? 世界樹の樹液か、何か、でしょうか?」
「星落としの触媒は、星ときまっておる」
カガミの質問に、リスティネルが星だと答えたが……星?
「え?」
「極光魔法陣じゃよ。練習のため、簡単な極光魔法陣をこさえてな。それを触媒にしたんじゃよ」
「ノアサリーナには、星落としに必要な知識の全てを伝えた。あとで聞くがよかろ。私は、小難しい話を夜通ししたくはない」
そういって、リスティネルは話題を打ち切る。
長老も、リスティネルも、事も無げに言うが、いろいろととんでもないことを言っていた気がする。
その後、リスティネルから話題の転換を迫られたシューヌピアさんが、少し可愛そうだった。
他にも、獣人達3人は音楽を習ったことを聴いた。
気球に乗っていたときに、ロック鳥に襲われた話をしたら、何人かのハイエルフが対策を教えてくれたそうだ。
それが、音楽。
音楽で鳥が操れるらしい。
それで、そのための音楽を練習したのだとか。
一足先に聞いたノアも絶賛していた。
是非とも3人の音楽を聴いてみたい……というのは、少し前のお話。
小さなギターに似た楽器。卵の様な外見をした木製のオカリナ。そして、タンバリン。
鳴り響く音楽に合わせるように舞う小鳥。
音楽の練習する3人を眺めるのは、早く帰ったときの日課になりつつある。
今の仕事を受けたとき、大量の飛行島をまのあたりにして、泣きたい気分になったものだ。
だが、ゴールが見えてくると名残惜しくなる。
最近はもう少しのんびりしていても良いかなと思っていた。
ところが、予想外の事態が進行していた。
「ずいぶんのんびりしておるが、時間がないのではないかえ?」
のんびりムードだったオレ達に、リスティネルが怪訝な調子で聞いてくる。
時間がない?
魔神復活が近いということか?
カスピタータは、別にそんなに急がせる様子ではなかった。
どういうことだろうか。
「魔神復活が近いということでしょうか?」
「ん? いや、それは先だが……其方ら、大平原で肉を食いたいのであろう?」
「そうですけど」
「王の月に訪れた其方らは、姫、冠と過ごし、眠りまであとわずか……ほれ、冬も間近であろう。大平原にも雪が降る。肉の美味しい季節は終わり、保存肉を用意する頃合いとなる」
「本当だ。おいら達が、お嬢様と出会ってから1年になります」
え? そうなの?
月日の経過なんて殆ど考えていなかった。
「そうねぇ。リーダ達が来てから1年過ぎちゃったものねぇ」
「いつ?」
オレの側で軽い調子で呟くロンロに思わず聞き返す。
「クイットパースを出たあたりで1年よぉ」
結構前の話ではないか。なんてことだ、あっという間に1年過ぎていたのか。どうでもいいけれど。
「え? 何々? 大平原に降りても美味しいお肉は食べられないってこと?」
なんてことだ。意外すぎる伏兵がいた。
リスティネルの言葉通りであれば、残り1ヶ月もないのか。
確か、去年の雪は……やばいな。
納期なし美味しいご飯に快適生活、そんなダラダラ余裕のプロジェクトのはずが、一気に納期に追われることになる。
「どうするんスか?」
「あの、一回降りるってのは?」
「さすがに、理由が理由ですし……多分、私達の会議を冒涜したと怒る者も多数でるかと」
世界樹を降りて肉を食って戻るのは無理か。
うーん。
「雪解けっていつ頃になるんですか?」
「ともかく狩りの再開は、緑か、紫よの……もっとも、雪解けすぐは肉は上手くはない。冬眠明けは肉が細い。それに来年はどうなることやら」
先ほどから、王だの眠りだのわかりにくい。たまに聞くから睦月、如月、弥生といったような月の数え方というのは分かるが、どれがどれだかわからない。
「リーダ達の呼び方だとぉ。4月か5月ってことねぇ。今が10月の終わりになるのかしらぁ」
絶妙なタイミングでロンロの解説が入る。
つまり、今が10月で12月には雪が降るということか。
半年まてば狩りの再開は目前だが、肉が旨くない……。美味しい肉を食べるには、今を逃すと来年ということになる……か。
来年まで待つことも考えたが、年があけても肉の美味しい季節まではまだまだ先だ。リスティネルの言葉からも、来年の状況が読めないことがわかる。
魔神が復活なんてした日には、肉なんてぼやく暇などないだろう。
「どうしようリーダ」
ミズキが潤んだ目で見つめてくる。すごいな、意識して涙目になれるんだ。
だが、外見がどうであれ心の声は聞こえる。
肉が食いたい。できるだけ、可及的、すみやかに。
今後の作業を考える。
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