召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第十三章 肉が離れて実が来る

そらとぶいえ、そのちょうさとそうじ

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 立体映像でみた獣人は、起こすと表記されているところを指でなぞっていた。
 文字に触れてみたが反応がないので、魔力を流してみる。フワリと柔らかく文字が輝いたが変化はない。
 同じように、眠るというものも指でなぞる。
 先ほどと同様だ。薄く文字が輝くだけ。

「何にも起きないな……」
「あと一歩って感じなんスけどね」

 かすれた文字の部分も、同様に魔力を流し文字をなでるが、どの文字も同じだった。
 一旦諦めて、皆に合流する。ジラランドルは何も知らなかったようだ。

「確かに、ここは屋敷にそっくりと思うじゃけんど。知らんけん。ワシらにできるのは家の掃除くらいじゃわい」
「どうするっスか」

 陸地の端から、下を見ると特にかわってはいない。この家は来たときと同じ高速に進んでいるだけのようだった。もしかしたら、やや上昇している気がしないでもない。
 どこに向かっているのだろうか。
 先程、眠ると書いてあった部分に魔力を流したので、もしかしたら動きが止まるのかと思っていたが、そういうこともないようだ。

「このままじゃラチがあかない。今日はここで過ごすことにしよう」
「降りるのは何時でもできそうですもんね」
「皆で役割分担して、いっきにかたづけたほうが良いと思うんです」
「じゃ、リーダ、気球をかたづけてくれるか? あと、カガミ氏は、ジラランドル以外のブラウニーを召喚して、掃除をしたほうがいいと思う」

 カガミは、笑顔で了承すると家に入っていく。しばらくすればピカピカの家になるだろう。ちなみに、オレを含め男性陣はブラウニーに悪態をつかれるので、外で作業だ。

「いつまで、この場所にいるんでしょうか?」

 トッキーが困った様子で質問してくる。どうしたのだろうか。空飛ぶ家は嫌なのだろうか。先ほどから、表情が硬い。

「何か心配事?」
「お家を直す時間が欲しいです」

 豪快に壊れた家を建て直したいと、トッキーとピッキーが主張する。
 確かにそうだ。このまま降りると、苦労しそうだ。下は海だしな。

「そうだね。まだまだ降りるつもりはないから、お家の修理を頼むよ」

 オレの回答に満足したようで、笑顔で頷くと、トッキーとピッキーは作業を始める。
 木片やがれきをひろって、一カ所にまとめるところから始めるようだ。
 オレやプレイン、そしてサムソンも、その作業に参加する。
 ピッキー達に海亀の上にのせる家を直して貰い、その間に、もう少し空飛ぶ家を調べることにしよう。
 うまく、この家を制御できれば、飛行する立派なお家が手に入る。
 旅はより快適になるだろう。

「だが、どうするかだ。調べるにしても、とっかかりがない」
「ところで先輩」
「ん?」
「物尋ねの魔法っスけど。この場所や、他の部屋でも試してみません? 全部の部屋に、庭、ありとあらゆるところを試せば……もしかしたらヒントくらいあるかもって思うんスよ」

 なるほどプレインの考えにも一理ある。
 どうせ触媒は財布の中にある元の世界でつかっていた小銭だ。いくらでもある。こんな時、やたら小銭を溜め込む自分の癖が役に立つ。本当に、世の中、何が幸いするのかわからない。
 さて、そうと決まればとりあえず、この庭からだ。
 物尋ね魔法を使う。いつもと同じ、白黒の立体映像。
 獣人が2人。1人はよく見る狼頭の獣人だ。もう1人も狼頭の獣人で、やや後にたっていた。2人でこの家を見上げている。
 2人は家を見上げながら会話を続け、後にたった狼頭の獣人が咳き込みしゃがみこんだところで立体映像は終わる。

「理解できないな。これ、理解するには音がやっぱり必要だぞ」

 サムソンが感想をもらす。確かに、会話主体の映像だと、音が聞こえないのは致命的だ。
 他の場所は、会話主体でないことを願いたいものだ。
 ブラウニー達が、2階の掃除にとりかかるのを見て、広間で物尋ねの魔法を使う。

「えっ? トロール?」

 今度はトロールが2匹と男が現れた。
 トロールは目隠しをしている。
 ふと、オレ達の背後から、男に連れられて獣人が入ってきた。
 獣人は、この部屋に踏み込むなり、頭を両手で押さえたかと思うと、いきなりテーブルの前に立っていた男に襲い掛かる。
 ところがそばにいた、目隠しをしたトロールは素早い動きで獣人の男を捉え、いきなり地面に叩きつけた。今までオレ達が出会ったトロールとは違い、素早く精密な動きだった。
 トロールと一緒にいた男は、その様子を一瞥する。それから、手を軽く振るともう1匹のトロールが、床板を剥ぐ。
 床板を剥ぎ取った瞬間、いきなりトロールはプルプルと震え、石のようになり、崩れたところで立体映像は終わった。

「なんすスかね?」
「床板の下に何かがあるようだったぞ」
「うわぁ。やばいシーンみた。だけどさ、なんか、トロールいきなりボロボロになってなかった?」
「私達がそのまま触るのは危険だと思うんです思いません」

 掃除を終えたミズキとカガミも合流し、検証を進める。
 確かに、トロールがいきなりボロボロになったのを見ると、床板を調べることに躊躇してしまう。何かがあるのははっきりしているが、うかつに触るのは避けたい。

「それだったら俺がゴーレムの手で何とかしてやろう」

 サムソンが軽く手を上げアイデアをだす。
 確かに直接触れなければ大丈夫かもしれない。

「まぁ、あれは俺の手から生やすわけじゃないし、物体にくっつけてそこから動かすこともできるからな。大丈夫だろ」

 手をぷらぷらと振ったかと思うと、おもむろにサムソンは魔法を詠唱する。詠唱しながら、ポケットから手を取りだし、握っていた石を足下に投げる。
 石には魔法陣が描き込まれているようだ。石の表面が複雑に輝き、細かく砕けた後、手の形に姿を変えた。
 瞬く間に手の形に姿を変えた石が、床板を剥ぐ。

『パン』

 大きな音がして、ゴーレムの手が砕け散る。
 少し離れていて良かった。近くにいたら破片があたって怪我していた気がする。

「あせったが、大丈夫だ」

 ゴーレムの手に一番近かったサムソンも落ち着いたようすで報告する。
 それから、何度も何度もゴーレムの手を使い続け、ゆっくりと床板を剥いでいく。
 サムソンは予備の魔法陣を描き込んだ石を持っていたようだったが4回目で、それも尽きてしまった。

「触媒に魔法陣を描く方法は、使い勝手がいいが、毎回魔法陣を書く必要があるのがネックだな」

 それから先は魔法陣に、触媒を乗せる方法でゴーレムの手を使う。
 5回目で、ゴーレムの手は何の衝撃も受けることもなく、床板を剥ぐことができて、その下を見ることができた。

「魔法陣スね」

 真っ白い石の板に魔法陣が描かれている。
 5つの魔法陣が描かれている。中央に大きなものが1つ。その周りを取り囲むように、小さな魔法陣が4つ書いてあった。
 中央の大きな魔法陣は薄く輝いている。これが起動しているようだ。

「いきなり正解あてちゃった感じ」
「ああ」

 早速書き写して解析に回したいが、これは面倒だな。
 やたら複雑な魔法陣だ、確かにこれを紙に書き写してパソコンの魔法で解析するとなると、かなり時間がかかりそうだ。

「これは書き写しすだけでいいんですよね?」
「その書き写しが面倒くさいのがな……」
「魔法が使えなくても、書き写すだけでよろしければ、ワシらがやるけん」

 ジラランドルが申し出てくれる。
 ブラウニー達が書き写した魔法陣は起動しない。だが起動しない魔法陣でもパソコンの間魔法で解析することができる。
 それならばと書き写しをお願いする。大変そうだが、ブラウニー達ならやってくれるだろう。もっとも実際にお願いするのはカガミとミズキだ。オレ達がいると、あのコンパクトヒゲ親父どもは、やる気を失うので、めんどうごとはカガミとミズキに任せ庭で遊ぶ。
 外に出ると、獣人達3人とノア、それにハロルドが、気球を丁寧に畳んでいたところだった。がれきもブラウニーに片付けてもらえばよかったと、今頃になって気がつく。

「海亀さんがビューンって飛んで、びっくりしたの」

 ノアが笑いながらオレにいう。確かに、あんなに機敏に飛べるとは思わなかった。
 それに体当たりするとは……。一瞬必死さがにじみ出ていたとも思う。
 案外みんなのためというよりも、飯の種が逃げると思って必死だったのかもしれない。
 まぁ、何せよファインプレーだ。おかげで皆が別れ別れになることなく乗り込めた。
 それから、カガミとミズキ以外の皆で気球を片付け、遊ぶ。
 布を丸めたボールでキャッチボールをした。
 ブラウニーが魔法陣を転記し終えたのは、日が落ちるほんの少し前のことだった。
 地上はいまだ一面海。何処に進もうとしているのだろう。
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