召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第十一章 不思議な旅行者達

ぞろぞろとけしずみ

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 やばい。やばい。
 走って逃げる。後ろは振り向かない。多数の足音と、地響きがする。見なくても大群で追いかけて来ているのがわかる。

「おい。このままじゃ大変なことになるぞ」

 サムソンが叫ぶ。
 言われなくてもわかる。このままオレ達が地上に出ると、いままでのトロール退治が無駄どころの話では無くなる。

「ひょっとしてさ、あの火球がまずかったんじゃない?」
「寝た子を起こすってこと?」
「そうかも。でも、今は対策だ」

 今回の火球が原因だとしても、放って置いたら遅かれ早かれトロールは復活していただろう。すでに一部復活していたわけだし。別に火球は、いつか来るきっかけの一つに過ぎなかったと思う。

「そうだ! ノアちゃん、地図みせて」

 走る中、カガミがノアに声をかけ地図を受け取る。

「この辺りで足止めして欲しいと思うんです」
「なんとかなりそう?」
「多分……大丈夫だと思います」

 カガミは、走りながら何かを考えていたかと思うと、オレ達に追いかけるトロール達の足止めを提案した。

「わかった。どのくらい?」

 長時間は無理だ。昨日のタックルの様子から、足止めできても、短時間であることを推測する。

「ええ、ほんの少し、魔法陣を設置するだけの時間が欲しいんです」
「了解した。なんとかするしかないな。ノア、ハロルド呪いを解いて!」

 サッと振り向き、魔法の壁を作る。
 ぐぇ、何十匹いるんだ? 目の前には、通路にところ狭しと3匹のトロールが見える。その後ろにも影が幾重にも繋がって見えるので、相当の数が居るに違いない、走る速度が遅いのが幸いしている。
 サムソンとプレインも振り向き魔法の壁を作る。

「チッキー達はカガミと一緒に。私はカガミを手伝う」
「了解。ノアも、一緒にカガミを手伝って」

 オレ達だけで通路が一杯になったことをみて、ミズキがカガミの応援に向かう。

「駄目か!」

 あっさり3枚の魔法で出来た壁が粉砕されるのをみて、サムソンが声を上げる。
 壁が駄目なら、反撃し、ひるませる。
 オレは、自分の影からバリスタを設置し、打ち込む。魔法の壁を作る呪文は瞬く間に破壊されてしまったが、それでもほんの少しだけ時間を稼げた。おかげで、バリスタの狙いをつける時間はかせげた。
 ずんずんと鈍い音を響かせ、バリスタから放たれた矢はトロールの腹を数匹まとめて撃ち抜いた。
 プレインが電撃の魔法を撃つ、電撃は壁を反射し、トロール数匹を貫通したが、倒すことはできなかった。

「次だ、次」

 影の中から石臼や金属のよろい、とりあえず重くてかさばるものをどんどん取り取り出す。

「どうするスか?」
「とりあえずトロールの前に投げ込め。走る邪魔をするんだ!」

 そう言いながら、手当たり次第に、トロールの足下へと投げ込む。トロールが躓いてこけたのをみて、オレの考えを理解した仲間も協力して投げる。
 プレインは矢を打ち込み、石臼などを追尾させていく。
 普通の魔物であれば、怯ませて時間を十分稼げただろう。
 だがトロールはタフで、それらの攻撃をものともせず、ゆっくりゆっくりと歩を進めてくる。

「カガミ、まだか?」
「もう少し」

 もう、他の手を思いつかない、とりあえず影から取り出した兜を、トロールの頭めがけてなげつける。

「ノアちゃん、そっちの魔法陣も……そうそう、その辺り、そのまま貼り付けて」
「できた!」
「ミズキ、魔力を魔法陣に流してみて」
「オッケー」
「うん、うまくいってる。それでは大丈夫。あとはこのままこの魔法陣をこうやってくっつけて……」

 ハロルドの目の前までトロールがやってきた。ハロルドは、プレインの打ち込んだ矢をトロールから引き抜き、顔面に突き刺す。

「もう限界でござる。サムソン殿は後ろに下がっていてくだされ、拙者が後は引き受けたでござる」

 そう言ってサムソンの退避を促す。だがハロルドも、自分より一回りも二回りも大きいトロールの体に押しつぶされそうだ。

「いや。しかし……」
「準備できました! そのまますぐ逃げてください!」

 そう、サムソンが何かを言おうとした時、カガミの声が聞こえる。
 ギリギリだ。助かった、そう思いまっすぐ退避する。
 しばらく走ると、通路は直角に曲がっていた。曲がり角直前の壁には魔法陣が貼り付けられている。

「カガミ!」
「皆、私の後に!」

 全員が曲がってのをカガミは確認して、自分の側にあった魔法陣に手をつけ、魔法を詠唱する。
 オレ達が、先程曲がった曲がり角の端から水平に火が吹き出した。火柱の魔法だ。壁に貼り付けたのか。
 ゴゥという音を伴って、猛烈な勢いで火が噴き出す。
 なるほど、こういう手があったか。

「あの道を追いかけてくるトロール、一網打尽じゃないっスか」

 火柱が収まった時、念のために通路から顔を出してみる。大量の消し炭が広がっているが、その後ろからさらに2匹のトロールが見えた。

「おいおい、いったい何匹いるんだ」
「大丈夫。今度は楽勝だ、もう少し引きつけて火柱の魔法で潰せばいい」

 その企みは成功し、後もう一回火柱の魔法を撃ったところで向こうの部屋から何も来なくなった。
 だが、先ほどの部屋がどうなっているのかを確認せずに、帰るのはまずいような気がして、消し炭だらけの通路を進む。

「これは酷い」

 軽い口調でそんなことを呟く。
 先ほど大量のトロールがいた部屋にいく。天井を見やるもう何者も中には残っていなかった。
 部屋の端には小さな扉が見えた。さきほど、この部屋に来たときチラリと見えたが、思ったより小さな扉だった。オレ達が屈めば何とか入れるぐらいの小さな扉だ。
 扉にはかすれていたが、文字が書かれていた。
 地下水脈に続き、北へと進む。
 この扉をくぐれる者の大きさのドジョウ船のみがあるため、用心されたし。
 巨人については秘術を使い、潜る場合については、長時間使うことを覚悟されたし。獣人にしては、川魚は毒となる故、食べないように。
 なんだろう。これ。

「……色々な種族に対する注意書きっスね」

 ここに書かれていることをまとめると、この扉をくぐれる種族にとっては何の考えもせずに利用できるけれども、他の種族が利用するときには気をつける事項があるということか。

「一応先がどうなっているのか見てみたいと思うんです。思いません?」
「わたしがぁ、先行するわぁ」

 ロンロが偵察すると言って、するりと扉を抜けて姿を消したかと思ったら、すぐに戻ってきた。

「どうだった?」
「滑り台のような形になって先は空洞だったわぁ。生き物の気配はぁ、ないわねぇ」

 戻ってきたロンロが言うには、滑り台のような道が続いた先は、天然の空洞だったそうだ。天井がうっすらと光っていたので、真っ暗というわけではなく、水が張ってあって、空洞に小さな湖があっただけらしい。
 何も無い湖。ただし、滑り台のような道の先端には石版が置いてあったらしい。残念ながらロンロには読めない文字で書いてあったそうだ。

「せっかくだから、見てくるよ」

 胴体にロープを結び、扉へと入る。滑り台のようにつるつる滑る坂を滑り降りる。
 図が描かれた長方形の石版が立ててあった。矢印で四つの図が繋がれている。図が何を意味しているのかはわからない。Aから始まり、次はB、BからCへ、CからD、そしてAに戻るという風に円形に文字が繋がっている。戻ってきて、かるくスケッチして皆に見せる。

「なに、これ?」
「あと下の方にこんなのが書いてあったよ。かすれて読めないけど」
「数字となんだろう、よくわからない文字っスね」
「地名かもしれないと思うんです。おもいません?」
「これってどっかで見たことある気がするぞ」
「バス停っすよ、バス停もしくは駅の路線図掲示板」
「あっ、なるほど。ということは何か公共交通機関の乗り場みたいなものか」
「確かに扉にも船がどうこうって書いてあったな」
「それじゃ、これも地名っスかね」

 プレインが指さした文字の羅列、読めないと思っていたら、名詞……つまり地名だということか。ティンクスペインホル。
 どこかで聞いたことあるな。思い出せないけど。
 思い出せないってことは、あまり大事だと思わなかったのか。
 まぁ、いいや。
 トロールの脅威は、とりあえずなくなった。
 探検はそろそろお開きにしよう。
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