召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

文字の大きさ
上 下
146 / 830
第九章 ソノ名前はギリアを越えて

リーダのひさくにみんながおこる

しおりを挟む
 締め切った船の部屋でひたすらプログラミング。

「完全に、昔を思い出すっスね」
「言わないで」

 プログラムを実行用ファイルに変換するコンパイルのように、魔法陣に書き出し、転記してテスト。
 ノアにもガンガン手伝ってもらう。
 皆の描く線にも性格が表れるようで、ノアの描く線は可愛らしくてほっこりする。
 マリーベルは、夜の会話以降、協力的になった。同僚の誰に対しても惜しみなく知っていることを説明してくれる。ノアのことは苦手なようだが、嫌悪感をあらわにするといったことはない。
 そんなマリーベルの変化に、少しだけサムソンが寂しそうにみえた。

 べつにいいけど。

 町から屋敷へは、トッキーとピッキーに御者を頼み、全ての時間をゴーレム作りに費やす。小さな仮組みのゴーレムを何度も何度も作っては直し作っては直し。
 ずいぶんと完成度が上がり、あとは屋敷で大型化のテストで終わり、楽勝ムードが漂う。
 屋敷で一休み。さて、いざいかん。ストリギへ納品の旅だ。
 そう思っていた。
 それは屋敷から出る直前のことだ。
 屋敷にトーク鳥が手紙をもってやってきた。
 やばい内容だった。
 とりあえず明るい調子で皆に声をかける。

「皆。領主ラングゲレイグ様が仕様変更を伝えてくれたぞ。素敵な提案にお腹が痛くなるね」

 だめだった。
 オレの精一杯な明るい調子に、皆が黙ってしまった。

「どんな仕様変更なんだ?」
「……えっとね、盾を持たせろだって」

 元々武器を持たせるだけだった。それだけでも、武器を考慮したバランスを取り、ついでに速度を出すための調整が必要だった。
 盾を持たせると、いままで調整したバランスが無駄になってしまう。ついでに、盾の使い方を考えなくてはならない。

「かなり厳しいと思うんです。思いません?」
「行きでアレだったから……時間が足りないっスね」
「でね、あともう一つ、変更点があるんだ」
「え?」
「あと2体追加。全部で4体だ。剣と斧、ハンマーに杖。全部片手持ち」

 あの後、公爵から提案があったそうだ。魔法陣を書き写すのであれば、人を増やせばいいではないかと。大きな石を運ぶとき、作業を急がせる場合は4人のところを8人にすれば2倍だ。
 公爵が、緻密な魔法陣を描ける人員をみつくろってくれたらしい。
 余計なことを。

「人が増えればゴーレムの納品が増やせるという話っスか」
「なんでそんな話になったんだ?」
「納期を説明するのに、人月計算を持ち出してさ。なんていうか……ほら、異世界の知識」

 静かな時が過ぎる。
 いたたまれなくなって、ノアにカロメーを作ってくれとお願いする。

「せっかくなので、お茶を用意するでち」

 トタタっとかけていくチッキーを見ていたミズキが振り返る。

「絶対無理」
「……どうするんだ? そういえば、お前、秘策があるって言ってなかったか?」

 秘策。そうだ、いまこそ提案すべきだろう。正直、皆を追い込むことになる秘策なので、話づらかった。
 だが、背に腹は代えられない。
 実は、元の世界とちがって、この世界は一日30時間だ。
 オレ達が、こちらの世界にきたとき、やたら早起きになったのは、そのずれが原因だ。
 サムソンが持っていた腕時計で、日の出から翌日の日の出を図ったときに気がついた。おかげでぐっすり眠れて快適ライフははかどった。
 そんな健康のために費やしていた時間を解放する。

「この世界は一日30時間だ」
「知ってる……俺も気になっていたからな。皆にも言っただろ」

 あれ、この話はサムソンから聞いたんだっけかな。
 そうであれば話が早い。

「寝ないで頑張ろうかと。昔に比べて、さらに6時間稼げる」

 皆を社畜な生活に引き戻すことになるが、他に方法はない。

「それが秘策……ですか?」
「うん」
「リーダ……お前」
「ソレ……いつもの……常套手段じゃないっスか」
「お肌があれちゃう」
「酒も肌に悪いし、屋敷の設備をつかえばバッチリだ」
「設備……ですか?」
「温泉とエリクサー」

 ブチっと誰かがキレる音がした。
 皆、怖い。
 ノアとチッキーが戻ってくるまで、同僚が喋らないので辛い時間だった。

「どうしたの?」
「ううん。なんでもないよノアノア」

 不安げな顔でオレを見上げたノアに、ミズキがフォローを入れる。

「しょうが無い。他にアイデアも無いですし……やるしかないと思います。頑張りましょう」
「俺は、ラノーラとマリーベルの為にも諦めるわけにいかないからな」

 皆が苦笑しつつ荷物をまとめる。結局降りるわけにいかないからと、前向きだ。
 魔法陣を入れる立派な箱をチッキーが見つけてくれた。古い箱だ。それっぽい厳かな印象をうける箱なので、これに魔法陣の入った紙を入れる。

「ところで盾ってどんなのにするスか?」

 どのような盾……オレはそんなに詳しくない。いままで見た兵士が持っていた盾。丸いものや四角いもの。いろいろあった。シンプルなものがいいだろうとしか考えていなかった。
 さて……。

 あ。

「ノア、ハロルドに質問があるんだ」

 ノアは神妙に頷きハロルドの呪いを解除する。

「なんでござるか?」
「あの、エレク少年が船で話をしていた兵士。地面に置いた状態で体が隠れるくらいの巨大な四角い盾をもっていたけど、知ってる?」
「ふむ。船で一緒だった少年でござるな。重装歩兵が持っていた盾でござるな」

 よかったハロルドは知っている。

「あれをゴーレムに採用したいんだ。地面に盾を置いて武器を振るうことができれば、盾が3本目の足としての役割を果たせる」

 バランスが2本の足より取りやすくなるはずだ。しかも四角い盾であれば作るのも簡単になる。
 問題は、あの盾の使い方をしらないことだ。基本的には地面に置いて使わないのであれば、理解が得られないかもしれない。武器をもつ意味を殺すようなデザインでは駄目なのだ。

「大丈夫でござるよ。対ブレス用の戦闘法をアレンジすれば、大丈夫でござるな」
「対ブレス?」

 ハロルドが身振りを交えて説明をしてくれる。
 自分の全面にくるように盾を地面に置いて、ゆっくり引きずるように接近し、射程に入ったら盾を支点にグルンと体を回して、遠心力で攻撃する。
 もしくは盾に半身を隠し武器を振るう。案外パターンが少なくて、これもオレ達にとっては朗報だった。

「これならいけそうだな」

 サムソンが嬉しそうな声をあげる。

「なんか動きがかっこいいっスね。さすが専門家」
「動きがパターン化できれば作業も楽になると思います」

 自然な流れで動きの監修役は、ハロルドに決まる。
 帰り道はトントン拍子で作業が進んだ。
 ほぼ徹夜だったけれど。移動する馬車、揺れる船の中、案外辛い。
 だけど、船がストリギにつく直前には完成することができた。
 大型化の検証はしていない。ぶっつけ本番。オレにとって気がかりはそれだけだった。
しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

私、この人タイプです!!

key
恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:254

高飛車な先輩をギャフンと言わせたい!

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

殺された女伯爵が再び全てを取り戻すまでの話。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:229

処理中です...