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第九章 ソノ名前はギリアを越えて
マリーベル
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オレが公爵から受けた仕事。その説明をする。
いきなりの案件だが、逆らえないことも含めて伝える。
「ゴーレム2体ですか?」
「1体に抑えようと思ったんだけど、ちょっと上手く行かなかったよ」
「どうするんスか?」
ゴーレム2体といっても、前に作ったものを流用できるだろう。
剣と斧は、両方とも持ち手があって、振り回すわけだ。
あれ、2体という話に気が重くなっていたが案外簡単ではないか?
「なぁ、サムソン?」
「ん……あぁ。ところで、報酬の件は確かなのか?」
公爵はラノーラとマリーベルの所有権を褒美に加えると言った。
最初に公爵の口から2人の名前を聞いたときは、驚いた。
オレ達がストリギに来た理由を、調査済みだったというわけだ。褒美というからには、公爵が満足するものを差し出すことが条件になる。
このストリギの町に来た理由は、踊り子のマリーベルを探すためだ。
いうなれば、ゴーレムを作るというのは予定外で、本来なら余計な仕事だった。
だが、仕事の褒美が、2人の自由であれば事情は変わってくる。
「マリーベルさん、落ち着いたよ」
バタンと音を立てミズキが入ってくる。
オレが領主と一緒に公爵に会っていたとき、マリーベルと出会うことが出来た。
見つけたのはモペアだ。
木々に聞いたそうだ。さすがドライアド。
大怪我をして湖の畔で打ち上がっていたそうだ。酷い怪我で、意識も無かった。
危険な状態だったマリーベルを宿まで連れてきて、薬を飲ませ、着替えさせた。
いま、ミズキはそんな役目を終えて戻ってきたところだ。
ラノーラは、領主の所にいることは間違いないらしい。
マリーベルが領主の館へ行ったとき、ストリギの領主は不在だったそうだ。中にいるということを門番から聞いたマリーベルは、これを好機と考え忍びこみ、力尽くで助けようとして、失敗した。
領主の館で何かをみたらしい。恐怖のあまり、必死に逃げて、湖に飛び込んだそうだ。
そこから先は何も憶えていないという。
「何かってのは?」
「魔物だって。そういえばこんなの持ってたよ」
小さな石だ。どぎついピンク色をしている。
『デルコゼ 毒薬 食料 魔石』
看破の結果もよくわからない。なんだろうこれ。
毒薬って出るのが引っかかるな。食べたりはしないけれど。どちらにしろまっとうなものではないだろう。
「この石は、一旦置いておこう。なんにせよマリーベルさんをこのままにはしておけない」
「そうですね。連れて帰ったほうが良いと思います。思いません?」
「一応、屋敷に魔法陣を取りに戻ることになっているからな。一緒にギリアへと戻り、メレウン一座に引き渡すことにしよう」
「ラノーラはどうするんだ?」
「一旦は、仕事を完遂することを優先だ。だけど、ラノーラの居場所について、領主の館の何処に、どんな待遇でいるのか、詳細を知っておきたい」
最悪の場合は、さらってでも身柄を確保すべきだと、考え提案しておく。
「そうっスね」
「マリーベルさんを連れて帰る途中、サムソンが事情を詳しくきいてくれ。一回、屋敷にもどってから、改めてストリギに来る時までに、情報を仕入れて対策を考えよう」
とりあえず、その路線で決まる。
領主の手配した船でギリアへと戻る。行きとは違って、外を楽しむ余裕もない。ゴーレムの魔法陣を作り直すのだ。前回のままでは、動きが遅すぎる。ノアのように莫大な魔力をつぎ込めばスピードアップできるが、そんな魔力を前提に作ったものを納品するわけにいかない。
加えて武器を持って振るう。
いろいろ作り直さないとならない。
「一体作れば、あとは微調整で済みそうだけどさ、結構大変だよね」
「間に合わなかったらどうしましょう……」
「あまり使いたくはないけど、最悪の場合に備えて秘策はある。なんとかなるさ」
不安さを隠しきれないカガミに、まだまだ手があることを伝える。
貸し切り状態の船で、ひたすら引きこもって作業。
しかも、今回はサムソンがあてにならない。マリーベル相手に情報収集だ。
ミズキあたりに任せたかったが、サムソン以外の同僚はいまいちマリーベルに信用されていなかった。ラノーラとマリーベルが気になって仕事がおろそかになっていたサムソンに、マリーベルのことは任せることにした。
ラノーラもマリーベルも、解放奴隷になるには大金が必要らしい。いままでの働きで蓄えたものと、さらにお金を借りることで、どちらか1人だけなら自由になれるという。
それであと金貨30枚。本当にあと少しだったんだなと思う。
他にはデルコゼだ。
「これは、魔物を操ることができる石でござるな。ずいぶんと昔、敵方に使われたでござる」
あのどぎついピンク色の石。これは、ハロルドが知っていた。魔物が操れるのか。マリーベルは魔物を見たと言っていた。おそらく、この石で操られていた魔物なのだろう。
「魔物を操れるっスか、魔物が仲間になるのは結構憧れるっスね」
「人にも影響あるでござるよ、少しずつルールを守る心がなくなっていくでござる」
だからこそ、多くの国では忌避される存在だそうだ。
「なんだかさ、相当うさんくさいよね、ストリギの領主」
そうだな。だからこそ、この仕事は完遂させなくてならない。
「どうして私達を助けようとされるのですか?」
夜、少し夜風にあたっていたらマリーベルから質問を受けた。
すぐ後ろまで来ていたことに気がつかなかった。
「そりゃ、サムソンの望みだからです」
「すみません、意味がわからないのですが……」
「サムソンは仲間です。彼が、気持ちよく仕事できるように手配する責任があります。なぜならば、仲間全員が楽しく仕事できないと、オレも……ノアサリーナお嬢様も悲しくなるでしょう?」
オレの本心が通じたのかどうかはわからない。
「そうですか」
オレの回答に、マリーベルは一言だけ残して部屋へと戻っていった。
いきなりの案件だが、逆らえないことも含めて伝える。
「ゴーレム2体ですか?」
「1体に抑えようと思ったんだけど、ちょっと上手く行かなかったよ」
「どうするんスか?」
ゴーレム2体といっても、前に作ったものを流用できるだろう。
剣と斧は、両方とも持ち手があって、振り回すわけだ。
あれ、2体という話に気が重くなっていたが案外簡単ではないか?
「なぁ、サムソン?」
「ん……あぁ。ところで、報酬の件は確かなのか?」
公爵はラノーラとマリーベルの所有権を褒美に加えると言った。
最初に公爵の口から2人の名前を聞いたときは、驚いた。
オレ達がストリギに来た理由を、調査済みだったというわけだ。褒美というからには、公爵が満足するものを差し出すことが条件になる。
このストリギの町に来た理由は、踊り子のマリーベルを探すためだ。
いうなれば、ゴーレムを作るというのは予定外で、本来なら余計な仕事だった。
だが、仕事の褒美が、2人の自由であれば事情は変わってくる。
「マリーベルさん、落ち着いたよ」
バタンと音を立てミズキが入ってくる。
オレが領主と一緒に公爵に会っていたとき、マリーベルと出会うことが出来た。
見つけたのはモペアだ。
木々に聞いたそうだ。さすがドライアド。
大怪我をして湖の畔で打ち上がっていたそうだ。酷い怪我で、意識も無かった。
危険な状態だったマリーベルを宿まで連れてきて、薬を飲ませ、着替えさせた。
いま、ミズキはそんな役目を終えて戻ってきたところだ。
ラノーラは、領主の所にいることは間違いないらしい。
マリーベルが領主の館へ行ったとき、ストリギの領主は不在だったそうだ。中にいるということを門番から聞いたマリーベルは、これを好機と考え忍びこみ、力尽くで助けようとして、失敗した。
領主の館で何かをみたらしい。恐怖のあまり、必死に逃げて、湖に飛び込んだそうだ。
そこから先は何も憶えていないという。
「何かってのは?」
「魔物だって。そういえばこんなの持ってたよ」
小さな石だ。どぎついピンク色をしている。
『デルコゼ 毒薬 食料 魔石』
看破の結果もよくわからない。なんだろうこれ。
毒薬って出るのが引っかかるな。食べたりはしないけれど。どちらにしろまっとうなものではないだろう。
「この石は、一旦置いておこう。なんにせよマリーベルさんをこのままにはしておけない」
「そうですね。連れて帰ったほうが良いと思います。思いません?」
「一応、屋敷に魔法陣を取りに戻ることになっているからな。一緒にギリアへと戻り、メレウン一座に引き渡すことにしよう」
「ラノーラはどうするんだ?」
「一旦は、仕事を完遂することを優先だ。だけど、ラノーラの居場所について、領主の館の何処に、どんな待遇でいるのか、詳細を知っておきたい」
最悪の場合は、さらってでも身柄を確保すべきだと、考え提案しておく。
「そうっスね」
「マリーベルさんを連れて帰る途中、サムソンが事情を詳しくきいてくれ。一回、屋敷にもどってから、改めてストリギに来る時までに、情報を仕入れて対策を考えよう」
とりあえず、その路線で決まる。
領主の手配した船でギリアへと戻る。行きとは違って、外を楽しむ余裕もない。ゴーレムの魔法陣を作り直すのだ。前回のままでは、動きが遅すぎる。ノアのように莫大な魔力をつぎ込めばスピードアップできるが、そんな魔力を前提に作ったものを納品するわけにいかない。
加えて武器を持って振るう。
いろいろ作り直さないとならない。
「一体作れば、あとは微調整で済みそうだけどさ、結構大変だよね」
「間に合わなかったらどうしましょう……」
「あまり使いたくはないけど、最悪の場合に備えて秘策はある。なんとかなるさ」
不安さを隠しきれないカガミに、まだまだ手があることを伝える。
貸し切り状態の船で、ひたすら引きこもって作業。
しかも、今回はサムソンがあてにならない。マリーベル相手に情報収集だ。
ミズキあたりに任せたかったが、サムソン以外の同僚はいまいちマリーベルに信用されていなかった。ラノーラとマリーベルが気になって仕事がおろそかになっていたサムソンに、マリーベルのことは任せることにした。
ラノーラもマリーベルも、解放奴隷になるには大金が必要らしい。いままでの働きで蓄えたものと、さらにお金を借りることで、どちらか1人だけなら自由になれるという。
それであと金貨30枚。本当にあと少しだったんだなと思う。
他にはデルコゼだ。
「これは、魔物を操ることができる石でござるな。ずいぶんと昔、敵方に使われたでござる」
あのどぎついピンク色の石。これは、ハロルドが知っていた。魔物が操れるのか。マリーベルは魔物を見たと言っていた。おそらく、この石で操られていた魔物なのだろう。
「魔物を操れるっスか、魔物が仲間になるのは結構憧れるっスね」
「人にも影響あるでござるよ、少しずつルールを守る心がなくなっていくでござる」
だからこそ、多くの国では忌避される存在だそうだ。
「なんだかさ、相当うさんくさいよね、ストリギの領主」
そうだな。だからこそ、この仕事は完遂させなくてならない。
「どうして私達を助けようとされるのですか?」
夜、少し夜風にあたっていたらマリーベルから質問を受けた。
すぐ後ろまで来ていたことに気がつかなかった。
「そりゃ、サムソンの望みだからです」
「すみません、意味がわからないのですが……」
「サムソンは仲間です。彼が、気持ちよく仕事できるように手配する責任があります。なぜならば、仲間全員が楽しく仕事できないと、オレも……ノアサリーナお嬢様も悲しくなるでしょう?」
オレの本心が通じたのかどうかはわからない。
「そうですか」
オレの回答に、マリーベルは一言だけ残して部屋へと戻っていった。
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