召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第五章 空は近く、望は遠く

しんわこばなし

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「先ほどの影収納の魔法は初めてみました」

 ルタメェン神殿に向かう馬車の中で、エレク少年は興味津々といった調子で聞いてきた。

「便利な魔法なので重宝しています」
「あの……もし良ければなのですが、ご不快でなければ魔法陣を拝見させていただいても宜しいでしょうか?」

 おずおずとエレク少年が尋ねてくる。自作の魔法に興味をもってくれることが嬉しい。
 もっとも、自作とは言う気はない。魔法を自作できる存在は珍しいことをロンロから聞いているからだ。

「エレク様は勉強熱心ですね。どうぞ」

 褒められて嫌な気分はしないので、笑顔で了承し手帳を見せた。

「リーダ様は高位の魔法使いですね。このようなすごい魔法を使いこなすのですから、それに……」

 エレク少年は、手帳をじっと見つめながら、独り言のように呟いた。

「それに?」

 オレがエレク少年の声に反応して聞き返したところ、ハッと上を向いてバツの悪そうな顔をした。

「いえ、神と神のご加護について、詳しくなさそうでしたので……特に優れた魔法使いは、加護に詳しくないと聞いたことがあります。リーダ様をみて、それを思い出したのです」

 へー、そうなのか。何故なんだろうか。

「エレク様は、物知りですね。先ほどのギリア大火のことといい、知識が豊富だ」
「とんでもありません。私は、ただ記憶力がいいだけです。その一点だけで、ヘイネル様にお仕えできているだけ……、いずれ記憶力も衰え、取り柄がなくなります」

 エレク少年は、力なく言葉を続けた。
 なんだか不味いことを言ってしまったかもしれない。
 しばらく無言の時間がすぎた。その間も熱心に影収納の魔法を見ていた。
 もしかしたら、魔法の勉強がしたいのかもしれない。

「あ……着いたようです。あれがルタメェン神殿です」

 ボンヤリ外を眺めながら馬車での時間を過ごしていたらエレク少年に声をかけられた。
 オレが見ていたのと逆の方向に、ルタメェン神殿はあった。
 3つめの神殿は、とてもカラフルな建物だった。

「随分とカラフルな建物ですね」
「そうですね、ルタメェン神とケルワッル神は兄弟神ですが、その趣は随分と異なります」

 兄弟神? そっか、多神教の世界だから、そういう神様もいるのか。
 どちらが兄で、どちらが弟なのだろう。
 そんな疑問はさておき、ハロルド探しを依頼してみたが、ここでも断られた。
 世の中そんなに甘くはない。
 ここもケルワッル神殿と同じように物販があった。タイウァス神殿の中には入っていないが、あちらも同じように物販ブースがあったのかもしれない。
 違いといえば祝福がないくらいか。

「ルタメェン様の加護は信徒にのみ与えられるものです。信徒になられませんか? 今なら長期契約特典として、メレウン一座との会食権や、美容にいいルタメェンの泥を半年分差し上げますよ」

 目つきのきつい若い女性神官に加護も断られた。ついでに信徒への勧誘を受ける。
 勧誘は辞退しつつ、買い物だけをすることにした。
 キラキラと輝く神様の像、ルタメェンの軟石、ワインに、聖印のネックレスが売っていた。
 とりあえず全部買う。
 ルタメェンの軟石は、説明を聞く限り石鹸だ。
 聖印は実演販売していた。水を垂らすと、垂らされた水は聖なる力を持つらしい。
 常に身につけていると怪我の治りが早くなるのだとか。うさんくさいが、多分本当なんだろう。なにせ魔法だってある世界だ。
 信徒で無い人間は、それぞれ一つずつしか購入できないらしい。信徒になれば複数変えますよと、信徒特典などが書いてある紙をもらった。
 神殿巡りは、これでおしまい。帰路へとつく。
 ギルドへと向かう馬車の間、エレク少年にちょっとした神話を聞く。
 かつて神々は、神の頂点となることを望み互いに争っていた。
 熾烈な争いは朝も夜もなく続き、争いに巻き込まれた地上の生き物は、疲弊し数を減らしていった。
 永遠のように長く年月続く争いのなかで、いつの間にか神々は自分達の力が衰えていたことに気がついた。
 神々は、自分達を敬愛し信仰する者の祈りによって力を増していく。
 ところが、長く続く争いのなかで、祈るべき生き物がいなくなってしまったのだ。
 事実に気がついた神々は嘆き悲しみ、武力による争いをやめた。
 かくして神々が争う時代は終わり、この世に平和がおとずれた……という話だった。

「興味深いお話でした」
「こちらこそ、このような貴重な魔法を見せていただきありがとうございました」

 神話を聞き終えたのと、ほぼ同時にギルドへと着いたのでお礼を言って別れた。
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