召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第五章 空は近く、望は遠く

そしてみんなが……

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「リーダ!」

 ミズキがオレを見て声をあげる。
 気がつけば、獣人達3人もプレインもオレをみていた。
 しゃがみこんだノアを見る。
 腹痛に、視点の定まらない目、何かを言おうとしているが言えない様子。
 そして、エリクサーを飲んでも治らない状況。病気ではないということだ。
 幸いオレにも経験がある。耐えきれない何かによるストレスによるものだろう。
 ノアは何かに気がついた、それが何かは分からない。
 言わないのは、言えないということだ。オレ達にも関わることだと判断したのだろう。
 そうであれば無理に聞けない。
 オレが……オレ達が、ノアのためにできることは、その言えない何かをくみ取り、答えをだすことだ。
 良い結果でなくても、共感できれば大分楽になると思う。
 そうと決まれば、まずは出来ることをしよう。

「ノア……きっと、捜し物に疲れたんだよ」

 ノアに近づき、頭をそっとなでた後、抱えあげベッドに寝かせる。

「チッキー、トッキーにピッキーは、ノアと一緒にいてくれる?」
「わかったでち」
「ノア、少しだけカガミとサムソンに話をしてくるね」
「あのね……いなくなったりしないよね」

 部屋をでる寸前、ノアに消えるような声で質問される。
 いなくなる? どうして、そんなことを考えたのだろう?
 見当がつかない。やはり、サムソンとカガミに相談してみたほうがいいだろう。

「もちろん」

 上手く笑えているだろうか、笑顔で答える。

「私、ここに残るよ」

 そう言ったミズキに頷いて、カガミとサムソンに合流し、事情を伝える。
 何か思い当たることがないかもあわせて聞いておく。

「鞄に何をいれていたがカギだと思います。思いません?」

 そうだ、何を探していた?
 ハロルドを探していたのに、鞄を探す理由がわからない。
 さすがにハロルドが鞄の中に隠れているとは思えない。

「そうだな……そういえばリンゴ……誰か食べた?」

 しばらく3人で考えていると、唐突にサムソンが妙な質問をした。

「リンゴ?」
「あぁ、召喚魔法で呼び出したリンゴだ。いつの間にかなくなっていたけど、誰か食べたか?」

 オレは食べていない。

「私も食べてないですが……」
「少し聞いてくる」

 サムソンは、走ってノアのいる場所へと、向かったかと思うとすぐに戻ってきた。

「ノアも、ミズキも食べていなかった」
「リンゴがどうかしたんですか?」
「召喚したものが無くなっているんだ……オレの召喚した琥珀は消えていた。岩塩は残っていた。もっとも、ほんの少し前まで、俺は何処かに落として無くしただけだと思っていたんだがな」
「ノアちゃんに、貝殻をあげた。私……召喚したものをあげた……それが無くなっていた?」

 やっとサムソンの行動の意図も、ノアがストレスに倒れた理由もわかった。
 召喚したものが消えたんだ。
 ハロルドも、貝殻も、他にも消えたものがあるのかもしれない。
 オレ達も消えると考えたんだ。
 対策、解決策は……考えたままを口にする。

「ノアのケアをしつつ、召喚魔法について、今回の現象について調べる」
「ブラウニーさん達に聞いてみることにしようと思います」
「だったら、俺は書籍をあたるぞ」

 オレの思いつきを2人は具体化してくれた。
 頼りになる同僚と、今、この場所にいることに感謝する。オレ1人では到底無理な事がサクサク決まる。

「2人はその路線で、いちおうジラランドルにアドバイスを求めてくれる欲しい」
「ええ……そうね」
「あとチッキー達には、できるだけノアと一緒にいてくれるように伝えておいて」
「わかった」
「それから……」
「大丈夫だ。こっちはこっちで考えて進める。リーダも何か考えがあるんだろ?」

 そうだ。オレには本命の考えがある。
 召喚魔法について、知識をもっていると答えていたあいつだ。

「あぁ、オレは鹿を狩って、その血肉を触媒に黄昏の者スライフをあたる。あいつは前に話をしたときに知っていそうな……そんな、そぶりを見せていたからな」
「ミズキとプレインを連れていって、できるだけ早く終えて欲しいと思うんです」
「了解。それに今回は遊びじゃない。見つけ次第魔法を使って狩る」

 何が起こるかわからない。手段はできるだけ持っていたほうがいいと考えた。
 すぐに弓と矢を携えて森へと向かう。プレインとミズキがすぐに追いかけてきた。ミズキは槍を抱えて馬に乗っている。

「ノアノアには、チッキー達と、カガミかサムソンのどちらかが必ず一緒にいるって」
「了解、それじゃさっさと済ませて戻ろう」
「そうっスね、雨も降ってきましたし……」

 空を見るとパラパラと雨が降ってきた。小雨だ。本降りになるかもしれない。本当に時間の勝負だな。
 幸い、鹿の現れる場所には見当がつく。
 雨が降っていることもあって森はいつもよりもずっと暗く、場所はわかっているのに辿り着くのに手こずる。何度も森に入っていなければ、進むのも困難だった。
 遊び半分に森に入っていたのは無駄ではなかった……ではなかったが……。

「遊んでないでサッサと鹿を狩って、スライフに聞いておけばよかった」
「こんなことになるとは思わなかったっスもんね……」
「そうそう、過ぎたことはしょうがないじゃん。いまからサッサと鹿を狩ってしまおう」

 そうだな。プレインとミズキの言うとおりだ。後悔先に立たずだ。

「サッサと鹿を見つけて、サッサと狩ろう」
「ノアノア心配だしね。一瞬で始末しようか」
「そうっスね……見つけたっス!」

 小雨が降り、薄暗い森の中にある丘の上、静かに立ちオレ達を見下ろす鹿を見つけた。
 それは今までみた鹿とは違った。
 オレ達の前に現れたのは、普段見かける倍はあろうかと思われる巨大な鹿だった。
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