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第五章 空は近く、望は遠く
とりあえずのこたえ
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「うわぁ……ちょっと手強そう」
「どうするっスか?」
どうするも何もない。考え方によってはちょうど良い。
「予定通りだ。狩ってしまおう。立派でなによりじゃないか。触媒として使うなら良い物のほうがちょうど良い」
周りの反応を待たずに魔法を詠唱する。先手必勝だ。
すぐにミズキとプレインも同調し魔法を詠唱する。
魔法の矢だ。
何十本もの魔法の矢が巨大鹿に次々と放たれる。
『ドッドッ……ドドド』
鈍い音を立てて10本以上の矢が当たる。
大量の魔法による矢の攻撃をうけてなお巨大鹿はひるまなかった。
逃げずにこちらへと向かってきた。
無数に枝分かれした巨体に似合う巨大な角を、オレ達へと向けて突進してくる。
とっさに3人がそれぞれがバラバラに逃げる。
「プレイン!」
ミズキが叫んだ。
オレ達3人のうちプレインを標的にして、巨大鹿の突撃が襲いかかってきた。
プレインはギリギリまで引きつけて、オレの方へダイブするように飛びよける。
巨大鹿は勢い余って木にぶつかった。
「ブシュゥ……ゥ……」
変な鳴き声をあげて巨大鹿はドサリと音をたてて倒れた。
怖え。
やはり野生動物だ。たかが鹿といえどもこの迫力。
巨大鹿は死んだか、もしくは気絶していると判断して近寄った……その時だ。
突如、奴は起き上がりプレインに再度突進した。
急な出来事に、プレインは後ろに尻餅をついてしまう。
オレは、プレインと巨大鹿の間に割り込み、上着を奴の頭にかぶせるようにたたき付けた。
上着は巨大鹿の角に突き刺さる。
突如の事で混乱した奴は、4本の足をその場でバタつかせ、頭を半狂乱に振り回し始めた。
「先輩、上着を離してくださいっス!」
プレインの助言は……聞けない。
巨大鹿は動けないでいる。それは奴はオレが刺さった上着を掴んでいるからこそだ。ここで手を離すと逃げてしまう。
今日は、コイツ以外に獲物を見なかった。
雨も降っている。ここで逃すと次はいつになるのかわからない。
「うわぁ!」
一瞬、油断した。
プレインの言葉に気を取られていたときに、巨大鹿がオレをめがけて突撃していたことに、気がつかなかった。
腹部に焼けるような痛みが走る。
「先輩!」
「ころす」
プレインの悲鳴のような声と、ミズキの物騒な台詞が続けて聞こえた。
ふわりと体が浮いたかと思うと、わけもわからず地面にたたきつけられた。
かすんだ視界の先に、ミズキが手に持った槍で巨大鹿のお腹を深々とさしている姿が見える。
とっさに影から薬を取り出そうとしたが上手くいかず、まごついていたらプレインがエリクサーを手渡してくれた。
一気に飲み干す。
「助かった……死ぬかとおもった」
影の魔法は、とっさの時には使いづらいな。過信はできないようだ。
「危なかったっスね。ミズキ姉さん……やっぱり凄いっス」
「チョー焦った。もう、無茶しないでよね。ズブって私まで聞こえてたよ……角刺さる音」
聞きたくなかった被害状況。思い出すとお腹が痛くなる。
それはさておき、鹿は仕留めた。予想以上の立派な獲物だ。
帰る時間も惜しい。すぐに黄昏の者スライフを召喚する。
オレは心の中で”帰れない”という答えを期待していた。
元の世界に帰りたいという同僚には悪いとは思いつつ……だ。
しかし、実際のところはわからない。オレの意思とは別に明日帰還するという結果もあり得る。
ただ願わくば、この世界を去るにしても、ノアが寂しくないような環境を残したい。
「久しぶりだな」
スライフは出現し、古くからの友人に向けるような挨拶をした。
「そうだな。あれが本日の獲物だ。前と同じように解体と……質問がある」
「問題ない。で、質問とは?」
前回の話を覚えていないのか、確認の意味で聞いたのかわからない。
どうだっていいか、そんなこと。
「召喚魔法についてだ。召喚された者は、元いた世界に、自由に戻ったり戻らなかったりできるのか?」
「世界? 召喚魔法は原則として、つなぎ止める魔力が尽きたとき、魂が覚えている場所へと帰還する。確か、つなぎ止める魔力が尽きたら人にはわかると聞く。体がひどく軽くなる感覚があるとか」
「時間制限のような形か?」
「そうだな」
なるほど、時間制限か……。ハロルドは時間がきたから帰還したわけだ。
それに、体が軽くなるか。帰る前に予兆があるということは、朗報だ。
オレ達はどうなる。いつか帰ることになるのか。
ドキンと胸が鳴った。
「それなら、その時間を延ばす方法や、いつ帰るのか調べる方法はあるのか?」
オレの質問に、スライフは答えなかった。ただ首を傾げたままジッとオレを見ていた。
ひょっとして、用意した鹿ではオレの疑問に答えられないということか、触媒として不足なのか。
「それが本当に聞きたいことか? 書籍を漁れば得られるような答えが聞きたいことなのか? 我が輩を触媒すら必要とせずに呼び出し、我らが世界の文字を読めるほどの知恵者が、知りたい知識がこんなことか?」
「いや、本当に知りたいことは別にある」
「ならば、質問を変えろ。そもそも、お前達は秘密が多すぎる。その身分ですら、相当高度な偽装が施されている。真実の姿は、奴隷ではないだろう?」
偽装?
オレは自分の身分に偽装を施した覚えは無い。どういうことだ? オレ達が知らないだけなのだろうか……。
「そうだったのか……。ちなみにお前にはどう見える?」
「普通の奴隷だ。特殊な契約のされていない只の奴隷だ。見たまま受け取れば簡単に所有権を盗める位の脆い奴隷契約だ。それでは、価値と身分がアンバランスだ。よほどのアホでない限り偽装を疑う」
なるほど。先日の奴隷商人は、普通の奴隷と思ったから、簡単に契約変更ができると思い込んでいたのか。だから所有者移転の確認を怠っていたと。
他人がみる看破の結果と、自分で見る結果が違うというのは不安だな。なんとかしたいものだ。
「正直に言うと、本来は命約奴隷という身分だ。オレ自身が召喚されて、気がつかないうちに命約奴隷にされていた」
洗いざらい正直に伝えることにした。スライフの方がオレより遙かに知識量が上だ。それに隠し事をしていて答えが得られずに終わることは避けたい。
「メイヤク……禁呪か。お前ほどの者を召喚し命約奴隷として処し、かつ気付かれずに偽装を施す……か。人の世は、迷信と虚言に捕らわれ退化したと思っていたが、ちがうのだな」
「そうか。それで、オレはどうなる? 時間が来たら元の世界に戻るのか?」
スライフのその体に似合わないほど大きな手で、顔面を覆い話を始める。
「残念だが。命約を果たさねば戻れない。お前の魂は、禁呪により制約をうけている。つまりは縛られている。それはお前の願いが叶った代償だ」
顔を覆ったスライフの表情はわからない。悲しんでくれているのだろうか。
ともかく、得られた答えは朗報だ。願いが叶わなければ帰らない。叶えれば帰る。つまりは帰還するタイミングがある程度コントロールできるということだ。
「つまりは約束を果たせば帰ることになると? ちなみにどんな約束かを調べたいだが、どうすればいい?」
「お前がしらないのであれば、術者に聞け。我が輩にはわからない」
そこまで都合良くないか……。
そういえばオレは多重命約奴隷というやつだった。沢山の命約が結ばれているんだっけか。
術者って、ノアでいいのかな。
知っている素振りもないけれど。
「術者か……、術者もはっきりしないんだが、それも調べられないのか?」
「禁呪を使えばいいが。代償が大きすぎるな……さて、十分に答えた。触媒として、あの臓物に血、そして頭をもらっていく」
禁呪?
そういえば命約奴隷も禁呪によるものだったな。
禁呪について調べる必要もありそうだ。
もう少し質問したかったが、しょうがない。とりあえずの問題を解決するのに必要な知識は得られた。
黄昏の者スライフは、前回と同じように、鹿を捌いて触媒をのみこみ消えていった。
「……ということだ。さぁ、ノアの所へ帰ろう。オレ達が急に消えたりしないと教えてあげよう」
「そうだね」
ミズキが笑顔で答える。
ただし、オレとは違いミズキは帰ることを望んでいることを知っている。
「わるいな」
「なんでリーダが謝るのさ。大丈夫だよ」
自然と謝罪の言葉がでたオレを、なんでもないとミズキが笑顔で返す。
「どうせ、リーダがなんとかするんでしょ?」
そんな丸投げ宣言を笑顔で続けたミズキに、しんみりした気分は一気にきえた。
さて、ノアの所へ急ごう。
「どうするっスか?」
どうするも何もない。考え方によってはちょうど良い。
「予定通りだ。狩ってしまおう。立派でなによりじゃないか。触媒として使うなら良い物のほうがちょうど良い」
周りの反応を待たずに魔法を詠唱する。先手必勝だ。
すぐにミズキとプレインも同調し魔法を詠唱する。
魔法の矢だ。
何十本もの魔法の矢が巨大鹿に次々と放たれる。
『ドッドッ……ドドド』
鈍い音を立てて10本以上の矢が当たる。
大量の魔法による矢の攻撃をうけてなお巨大鹿はひるまなかった。
逃げずにこちらへと向かってきた。
無数に枝分かれした巨体に似合う巨大な角を、オレ達へと向けて突進してくる。
とっさに3人がそれぞれがバラバラに逃げる。
「プレイン!」
ミズキが叫んだ。
オレ達3人のうちプレインを標的にして、巨大鹿の突撃が襲いかかってきた。
プレインはギリギリまで引きつけて、オレの方へダイブするように飛びよける。
巨大鹿は勢い余って木にぶつかった。
「ブシュゥ……ゥ……」
変な鳴き声をあげて巨大鹿はドサリと音をたてて倒れた。
怖え。
やはり野生動物だ。たかが鹿といえどもこの迫力。
巨大鹿は死んだか、もしくは気絶していると判断して近寄った……その時だ。
突如、奴は起き上がりプレインに再度突進した。
急な出来事に、プレインは後ろに尻餅をついてしまう。
オレは、プレインと巨大鹿の間に割り込み、上着を奴の頭にかぶせるようにたたき付けた。
上着は巨大鹿の角に突き刺さる。
突如の事で混乱した奴は、4本の足をその場でバタつかせ、頭を半狂乱に振り回し始めた。
「先輩、上着を離してくださいっス!」
プレインの助言は……聞けない。
巨大鹿は動けないでいる。それは奴はオレが刺さった上着を掴んでいるからこそだ。ここで手を離すと逃げてしまう。
今日は、コイツ以外に獲物を見なかった。
雨も降っている。ここで逃すと次はいつになるのかわからない。
「うわぁ!」
一瞬、油断した。
プレインの言葉に気を取られていたときに、巨大鹿がオレをめがけて突撃していたことに、気がつかなかった。
腹部に焼けるような痛みが走る。
「先輩!」
「ころす」
プレインの悲鳴のような声と、ミズキの物騒な台詞が続けて聞こえた。
ふわりと体が浮いたかと思うと、わけもわからず地面にたたきつけられた。
かすんだ視界の先に、ミズキが手に持った槍で巨大鹿のお腹を深々とさしている姿が見える。
とっさに影から薬を取り出そうとしたが上手くいかず、まごついていたらプレインがエリクサーを手渡してくれた。
一気に飲み干す。
「助かった……死ぬかとおもった」
影の魔法は、とっさの時には使いづらいな。過信はできないようだ。
「危なかったっスね。ミズキ姉さん……やっぱり凄いっス」
「チョー焦った。もう、無茶しないでよね。ズブって私まで聞こえてたよ……角刺さる音」
聞きたくなかった被害状況。思い出すとお腹が痛くなる。
それはさておき、鹿は仕留めた。予想以上の立派な獲物だ。
帰る時間も惜しい。すぐに黄昏の者スライフを召喚する。
オレは心の中で”帰れない”という答えを期待していた。
元の世界に帰りたいという同僚には悪いとは思いつつ……だ。
しかし、実際のところはわからない。オレの意思とは別に明日帰還するという結果もあり得る。
ただ願わくば、この世界を去るにしても、ノアが寂しくないような環境を残したい。
「久しぶりだな」
スライフは出現し、古くからの友人に向けるような挨拶をした。
「そうだな。あれが本日の獲物だ。前と同じように解体と……質問がある」
「問題ない。で、質問とは?」
前回の話を覚えていないのか、確認の意味で聞いたのかわからない。
どうだっていいか、そんなこと。
「召喚魔法についてだ。召喚された者は、元いた世界に、自由に戻ったり戻らなかったりできるのか?」
「世界? 召喚魔法は原則として、つなぎ止める魔力が尽きたとき、魂が覚えている場所へと帰還する。確か、つなぎ止める魔力が尽きたら人にはわかると聞く。体がひどく軽くなる感覚があるとか」
「時間制限のような形か?」
「そうだな」
なるほど、時間制限か……。ハロルドは時間がきたから帰還したわけだ。
それに、体が軽くなるか。帰る前に予兆があるということは、朗報だ。
オレ達はどうなる。いつか帰ることになるのか。
ドキンと胸が鳴った。
「それなら、その時間を延ばす方法や、いつ帰るのか調べる方法はあるのか?」
オレの質問に、スライフは答えなかった。ただ首を傾げたままジッとオレを見ていた。
ひょっとして、用意した鹿ではオレの疑問に答えられないということか、触媒として不足なのか。
「それが本当に聞きたいことか? 書籍を漁れば得られるような答えが聞きたいことなのか? 我が輩を触媒すら必要とせずに呼び出し、我らが世界の文字を読めるほどの知恵者が、知りたい知識がこんなことか?」
「いや、本当に知りたいことは別にある」
「ならば、質問を変えろ。そもそも、お前達は秘密が多すぎる。その身分ですら、相当高度な偽装が施されている。真実の姿は、奴隷ではないだろう?」
偽装?
オレは自分の身分に偽装を施した覚えは無い。どういうことだ? オレ達が知らないだけなのだろうか……。
「そうだったのか……。ちなみにお前にはどう見える?」
「普通の奴隷だ。特殊な契約のされていない只の奴隷だ。見たまま受け取れば簡単に所有権を盗める位の脆い奴隷契約だ。それでは、価値と身分がアンバランスだ。よほどのアホでない限り偽装を疑う」
なるほど。先日の奴隷商人は、普通の奴隷と思ったから、簡単に契約変更ができると思い込んでいたのか。だから所有者移転の確認を怠っていたと。
他人がみる看破の結果と、自分で見る結果が違うというのは不安だな。なんとかしたいものだ。
「正直に言うと、本来は命約奴隷という身分だ。オレ自身が召喚されて、気がつかないうちに命約奴隷にされていた」
洗いざらい正直に伝えることにした。スライフの方がオレより遙かに知識量が上だ。それに隠し事をしていて答えが得られずに終わることは避けたい。
「メイヤク……禁呪か。お前ほどの者を召喚し命約奴隷として処し、かつ気付かれずに偽装を施す……か。人の世は、迷信と虚言に捕らわれ退化したと思っていたが、ちがうのだな」
「そうか。それで、オレはどうなる? 時間が来たら元の世界に戻るのか?」
スライフのその体に似合わないほど大きな手で、顔面を覆い話を始める。
「残念だが。命約を果たさねば戻れない。お前の魂は、禁呪により制約をうけている。つまりは縛られている。それはお前の願いが叶った代償だ」
顔を覆ったスライフの表情はわからない。悲しんでくれているのだろうか。
ともかく、得られた答えは朗報だ。願いが叶わなければ帰らない。叶えれば帰る。つまりは帰還するタイミングがある程度コントロールできるということだ。
「つまりは約束を果たせば帰ることになると? ちなみにどんな約束かを調べたいだが、どうすればいい?」
「お前がしらないのであれば、術者に聞け。我が輩にはわからない」
そこまで都合良くないか……。
そういえばオレは多重命約奴隷というやつだった。沢山の命約が結ばれているんだっけか。
術者って、ノアでいいのかな。
知っている素振りもないけれど。
「術者か……、術者もはっきりしないんだが、それも調べられないのか?」
「禁呪を使えばいいが。代償が大きすぎるな……さて、十分に答えた。触媒として、あの臓物に血、そして頭をもらっていく」
禁呪?
そういえば命約奴隷も禁呪によるものだったな。
禁呪について調べる必要もありそうだ。
もう少し質問したかったが、しょうがない。とりあえずの問題を解決するのに必要な知識は得られた。
黄昏の者スライフは、前回と同じように、鹿を捌いて触媒をのみこみ消えていった。
「……ということだ。さぁ、ノアの所へ帰ろう。オレ達が急に消えたりしないと教えてあげよう」
「そうだね」
ミズキが笑顔で答える。
ただし、オレとは違いミズキは帰ることを望んでいることを知っている。
「わるいな」
「なんでリーダが謝るのさ。大丈夫だよ」
自然と謝罪の言葉がでたオレを、なんでもないとミズキが笑顔で返す。
「どうせ、リーダがなんとかするんでしょ?」
そんな丸投げ宣言を笑顔で続けたミズキに、しんみりした気分は一気にきえた。
さて、ノアの所へ急ごう。
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