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ガルド城の秘密

第58話-ユリを追いかけて-

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 ユリの移動は早かった。ドレスを乱さないながらも小走りで部屋から出て行った。私はその道筋を人にぶつからないように進んだ。
 ドアから出て廊下突き当たりの下に降りる階段にユリのドレスの端が見えた。その影を追うように私は急いで走った。幸いパーティー会場に皆いるからか廊下自体に人の姿はない。人目を気にせず全力で追いかけた。
 息が上がるほどに追いかけた先にユリはいた。玄関部分へと降りる階段を下っている。そのまま勢いをつけて彼女に追いつく。

「急にどうしたの? 何かあったの?」

 息を切らせながらユリに問いかけた。
 ユリは私を見て驚いたようだけど、すぐにさっきまでの鬼気迫るような顔に戻った。

「心配させてしまってすみません。来てしまったのであれば仕方ありません。失礼ですが、少しお静かに」

 そう言って私の前に出て城の中と外を繋ぐ扉と同じ壁にある窓へと近づいた。
 手で私に待つように指示してから、窓の側面から顔を覗かせて外の様子を窺っているようだ。
 そんな光景を私だけじゃなく、玄関フロアの警備をしている衛兵も彼女の挙動を見ていた。
 持ち場を離れず、顔だけを動かして何を見ているのかと不思議そうにしている。
 そのまま少し経つとユリが私の方へと戻ってきた。顔は浮かない表情をしている。

「どうしたの? 何か落とし物でもしたの?」
「いえ、違います」

 小声で話すユリは周りを警戒しているようにも思えた。

「怪しい人影を見たんです」

 突然の告白に驚きを隠せなかった。

「本当に!? 私は全然見えなかったわ」
「私は目がいいのが唯一の取り柄なので。木々の中で動く影を見ました。こちらを見ていたような気もします」
「警備中の衛兵だったりしない?」
「警備中の衛兵であれば、堂々として歩いています。木々に隠れながら移動することはないと思われます。もちろん私の見間違いでもあるかもしれませんが」
「どっちにしてもそれならあそこにいる警備の人に伝えておくべきじゃないの?」
「見間違いの可能性もあります。暗闇の中ですから。間違った情報で混乱させるのも些かなものかと」
「そうだけど、今回は言っておくべきよ。要人が集まる中での侵入者なんてほっとけないでしょ」

 今度はさっきとは逆に私が有無を言わせずにユリを連れて近くの警備中の衛兵に詰め寄った。
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