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女装と復讐 -完結編-

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アンナさんがブレーキペダルを踏み、車は街道への出口の手前でゆっくりと停まった。


『信吾!早く出て…ほら!』

『えっ?…えっ!』

『ちゃんと絵里佳ちゃんと話し合うのよ』

『えぇ…』


…って言われて、僕はアンナさんの車の後部座席から、詩織に半ば強制的に外へと出された。

僕は、こっちへ駆けてきてる…はずの樋口の姿を、周りを見渡して探した…あ、見付けた。

一生懸命な表情で、こっちに向かって走って来てる樋口。


「岩塚…待って岩塚ぁー!」


しばらく待ってて…ようやく樋口は僕の目の前まで来た。
樋口は荒く息を切らしていた。それが落ち着くまで僕は少し待った…。


『樋口…さん?』

『い、岩塚…この馬鹿がぁー!!』


えぇっ?…な、なんで急に!?


『お前、私に《大学辞めたいけどいいですか?》って訊きにきたぁ?学長が許しても、それで私が《辞めてヨシ!》なんて…私が許したか??許してないだろがぁぁ!!』

『えぇぇ…。樋口さんの許可が要る…の?』

『煩いよ!当たり前の常識だろぉ!なのに…岩塚のくせに!私に反論するなぁ!!こんの馬鹿ぁぁ!!!』


ひぃぃぃ…。
また僕の額をバチンと叩かれるかと一瞬思って、体をこわばらせたけど…それはされなかった。

…ってか、そんな当たり前の常識?…聞いたことないんだけど…。いつもの樋口らしく、言ってることがほんと滅っ茶苦茶…。


『…ひっ…ひっく…っく………さまぁ…』

『??』


えぇぇっ!!?
あんなに僕に言いたい放題だった樋口が…今度は急に大粒の涙を流して泣き出した…?


『姫さまぁ…嫌だ…嫌だぁ!!お願い!お願いです!…何処にも行かないで!!!』

『うん…で、でも…もう決まってることだから…』

『や…嫌だぁ…嫌だぁぁ!!』


…痛っ!!
樋口が体当たりするように…僕を抱きしめてきた…。


『すき…好きなの…大好きなの。大好きなの!!金魚姫さまのことがぁぁ…好き!大好きぃ…だから嫌だぁ!うわぁぁぁー…』


僕の左肩に額を当てて、肩を震わせて子どもみたいに泣きじゃくってる樋口…。

樋口だってこんな大泣きするんだ…なんて、僕は冷静に樋口を見て考えたりしてた。

そして、あんなに大嫌いだったのに…今は僕の心臓がドキドキしてた。
ちょっと…樋口が凄く可愛いと…思ってしまった。


『嫌ぁ…ずっと一緒にいたいの…行かないで…!!』

『ねぇ…絵里佳ちゃん』

『…えっ』


顔を上げた樋口…ヤバっ。
そのちょっと驚いて真顔に戻った泣き顔…もしかして、本当は金魚よりも…かわ…。


『もう、絵里佳ちゃんだって解ってるはず。私、金魚姫は本当は…絵里佳ちゃんの嫌いな岩…』

『うぅん…』

『?』


…否定?
えっ、なんの否定…??


『私…岩塚のこと…嫌いなんて思ったこと…一度もないです…』


…えっ、えっ!??
なに?ど、どういうこと!?


『…でも、好きとも思わなかったけど』


…あー。
なんか知らないけど…それ聞いて、何故か安心した…。


『えぇと、それは…?』

『…はい。私が、初めて岩塚を見たときは、このキャンパス内でいつも独りぼっちで寂しそうだったの。岩塚は…』

『!』


…それで、樋口は『はぁ?あいつ、いつも独りで何してんの…?』って、何故か僕のことが凄く気になって、それで観察してたら…毎日女の子たちに積極的に声掛けるけど、その度にフラれるわ…それで大学の女の子たち全員に爪弾きにされるわで、見てるとなんだか滑稽こっけいで面白くなってきて、それから僕を積極的に揶揄って遊ぶようになったって。それがちょっとエスカレートしちゃっただけで…って。


『私ね、今さらだけど姫さ…ううん、岩塚に《ごめんなさい》しなきゃいけないことがあるの』

…??





















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