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女装と復讐 -街華編-

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その女の子が、椅子に並んで座る僕と詩織を見付けると、僕らの目の前にやって来た。


『彩乃ちゃんが、金魚ちゃんと詩織ちゃんはまだ来てないの?って』

『えっ?』
『えっ!?』

『控え室に居るのなら、早く呼んでき…』


女の子の話が終わらないうちに、廊下の彩乃の声が聞こえてきた。


『居ないの?居るんでしょ?金魚ちゃんも詩織ちゃんも。早く出てきなさいよ』


もうイラついているかのような彩乃の声…。
そんな声が聞こえて控え室の中の、僕らの周りにいる大人達も、驚きを隠せず目を円くしている。


『ちょっと待ってよ。私今、髪をセットしてもらってるの!』


詩織が彩乃に聞こえるように、この控え室の中にも十分響き渡るくらいの声で、彩乃に言って返した。


『詩織ちゃん…この多忙な私に待てって言うの!?』


はぁぁ!?
お前が何様だよ!彩乃!

僕は詩織の横顔を見た。アンナさんに髪をセットしてもらってるんだから、今は全く動けない詩織。
その表情は困惑を含めて、少しムカムカし始めてる様子…。


『ちょっと!何してるのよ!』

『だーから!こっちは髪をセットしてもらってるって言ってるの!分かんないの!?もう少しなんだから待ちなさいよ!!』


普段だったら、アンナさんから『だから動かないで!詩織!』って強く注意され怒られてただろう場面だけど、この状況だからか…アンナさんもさすがに詩織を注意せず、なんだか逆にそれを許してるって感じ。


『ねぇ…大丈夫なの?私不安だわ…アンナちゃん』


近くにいた小太りのおばさんが、心配そうにアンナさんに訊いた。


『ええ、大丈夫。詩織に任せておけば大丈夫ですよ。田中さん』


不安気なんてなさそうに、落ち着いてそう返したアンナさん。

アンナさんから詩織への強い信頼が…なんだか今、垣間見えたって…そんな気がした。

アンナさんのそれに応えるように、詩織は少し遅れて頷いた。


『アンナさん…』


小さく…凄く不安そうな詩織の声。落ち着いたアンナさんとは、やや対照的に見える…。


『もう少しだから待って。詩織。待たせてごめんね』


詩織の髪のセットを一旦中断し、アンナさんは周りを見回して、もの凄く冷静な声で…ゆっくりと控え室内の大人達に言った。


『…詩織のセットが済んだら、詩織と金魚を一旦廊下へ出します。けど、何が起こるかは私にも解りません。だけど…』

『何が起きても俺と杏菜が責任を取る。だから安心してくれ』

『!』


…雄二さん!


座っていたパイプ椅子から立ち上がった雄二さん。少し離れて座っている詩織の隣へと歩き近寄って止まった。

お互いに顔を見合った詩織と雄二さん。


『ガキの喧嘩に大人は首を突っ込むな…ってやつだ』

『だけど、2人を廊下へは出さないほうが…』


また別の中年のおばさんが、ボソッと言った。


『この2人はよく出来た小娘だ。いくら売られた喧嘩でも、頭沸かせてバカをまともに相手するほどガキじゃねぇ』


ようやく、詩織の髪のセットが済んだアンナさん。

アンナさんは詩織の肩をポンと優しく叩いた。


『さぁ…済んだわ。行ってらっしゃい』

『うん』


アンナさんは一度、詩織を強く見た。


『詩織…今、彼女と激しく言い争っても、完全には追い詰めることはできないわ。だけど、あれだけの女の子たちの見てる前なんだから…』


…見てる…前なんだから…?


『…一度でも腰を引いて彼女に圧されてしまったら、二度と瀬ヶ池で一番の女の子になれるチャンスなんて、もうあなた達には巡ってこなくなる…だから、そう覚悟してここは頑張りなさい』
























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