銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

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第19話:勝利への選択

#19

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 ノヴァルナの皇都惑星キヨウへの旅では、“ノヴァルナの世直し旅”が最大の噂話となったが、その他にも大小様々な噂話が流れ出た。

 そんな中で一番割を食ったのは『ホロウシュ』の、ラン・マリュウ=フォレスタかも知れない。それはここに来てランの“女性問題”が、勝手に独り歩きし始めたからである。

 皇都惑星キヨウでオルグターツ=イースキーが差し向けた敵部隊に、ノアと共に囚われた護衛役のメイア=カレンガミノを救出した際、ランは催淫性の高い麻薬を投与されていたメイアに抱き着かれ、唇を奪われてしまった。
 そして救出作戦を陣頭指揮していたノヴァルナが後日、その事を土産話の一つとして面白半分に言ったのが災いの種となった。普段からノヴァルナの協力者である宇宙海賊『クーギス党』の、女副頭領モルタナに熱烈に言い寄られ、周囲の者からも“モルタナ様の彼女”として見られて対応に苦慮しているランだが、今度はそれがメイアとの“三角関係”に発展したのだ。

 噂が変な方向に転がり始め、どうしたものか…と困惑の日々のラン。するとランはある日、噂の相手のメイアから“二人だけで会いたい”と、キオ・スー城の天守の裏手へ呼び出された。
 戸惑いを隠せないまま呼び出し場所へ行くと、待っていたメイアからランは告げられたのである。“あれは事故で、私は女性は恋愛対象ではない”と。

 いや、それは自分も同じなんだが…と、メイアから一方的に、“交際をお断り”されて脱力するラン。“そんな事を言うだけなら、わざわざ城の裏手まで呼び出すなよ”というものである。
 だったら二人で、その噂を否定していくかとランは尋ねた。しかしメイアは職務と関係ない事に、余計な労力を使うつもりはないと否定し、話はそこで終わった。

 ところがそんなランとメイアの“密会”を、やや離れた位置の木陰で見ていた者達がいたのである。このところ調子に乗り過ぎている事をノヴァルナに咎められ、罰として天守裏手の芝生と植え込みの手入れを命じられていた、キノッサとネイミアだ。まさに“最悪”としか言いようがない。
 “家政婦は見た”ならぬ“雑用係は見た”で、ランとメイアの“密会”は、余計な尾鰭がつけられてたちまち『ホロウシュ』の間に広まり、単なる噂だったのが、“これはガチでモルタナ様に知られたらマズい話”と、噂の真実度と危険度がさらにアップしてしまったのである。

 そんなわけで回り回って、周囲に本気で“三角関係”を気遣う眼をされるようになり、キオ・スー城の展望ラウンジから外を眺める休憩中のラン・マリュウ=フォレスタは、どうしたものか…と、今日もため息をつくのであった………




 やがてノヴァルナの裁定が下されてから期限通りの三十日後、キオ・スー宇宙港の発着ロビーに、惑星ラゴンを退去するカーネギー=シヴァの姿があった。彼女に同行するのは側近のキッツァート=ユーリスただ一人。当初は十人いたシヴァ家直属の家臣は、すでにカーネギーを見限り、ノヴァルナのキオ・スー=ウォーダ家の家臣となっている。
 漂泊の身となったカーネギーは、とりあえず親交のある皇国貴族の、ゲイラ・ナクナゴン=ヤーシナのもとへ行き、そこから新たな身の振り方を考えるようだ。

「参りましょう。姫様」

 キッツァートに促され、搭乗口へ向かうカーネギーは何を思うか、無言でただ一度だけ、キオ・スー城の方角を振り向いたのであった………



ノヴァルナは名実共にオ・ワーリ宙域唯一の星大名となった―――

オ・ワーリ宙域の統一―――

星帥皇テルーザとの約束を果たすための第一歩を踏み出したのだ―――

しかしまだ気を抜くことは許されない―――



 アイノンザン星系への帰路を進む戦艦『エルオルクス』の司令官室では、ヴァルキス=ウォーダが意味深な光を眼に湛え、オ・ワーリの宙域図のホログラムを眺めている………


 スェルモル城ではノヴァルナの弟カルツェの側近、クラード=トゥズークが他の家臣達と共に、ミノネリラ宙域のイースキー家からの密使と、何事かを話し合っている………


 トーミ宙域とスルガルム宙域の境界に位置する、とある恒星系ではイマーガラ家当主ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを迎え、新設された第20基幹艦隊のお披露目がなされており、上洛軍の準備を着々と進めている………



そして当のノヴァルナはと言うと―――



 左のショルダーアーマーと左太腿に、赤いペイント弾の命中痕を二つずつ付けた『センクウNX』が、宇宙空間で機体を捻る。だが相手の機体の位置は不明のままで、ロックオン警報はヘルメットの中に鳴りやまない。

 舌打ちしつつ操縦桿を倒し、九十度のダイブをかけて距離を取ろうとした直後、無防備となったバックパックにペイント弾が立て続けに三つ、命中して弾ける。そのペイントと同じ赤色の、被撃破判定表示光に包まれたコクピットでは、ノヴァルナの耳にノアのからかう声が届いた。

「はい、負けー」

「こんちくしょおおお!」

「これで私の四勝一敗。おやおやぁー?“トランサー”とか言うのが出ないと、勝てないのかなぁ。ノバくんは」

 右の二の腕に、青いペイント弾が掠った跡だけが残る『サイウンCN』が、超電磁ライフルを片手に上空から降りて来る。ノアに煽られたノヴァルナはムキになって、再度の模擬戦を申し込んだ。



「てめ、ノバくん言うな! もいっちょ来やがれ!!!!」






【第20話につづく】
 
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