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第19話:勝利への選択
#17
しおりを挟むノヴァルナが本拠地惑星のラゴンへの帰路を急いでいたその頃、オ・ワーリに隣接するミ・ガーワ宙域でも、僅かに動きがあった。ミ・ガーワを事実上支配する、トーミ/スルガルム宙域星大名家イマーガラ家より、女性宰相のシェイヤ=サヒナンが来訪。惑星ゼルビアールでこの惑星を本拠地とするキラルーク家の当主、ライアン=キラルークと会見を行っていたのである。
「なんですと!? オ・ワーリ進攻部隊は出さない!?」
声を荒げたのはライアン=キラルーク、銀河皇国星帥皇室とも血縁のある名門貴族であり、かつてはミ・ガーワ宙域を治めていた宙域管領の家系にあったが、同家が没落した現在は、イマーガラ家の庇護下にあって家老職を与えられていた。
そのライアンは、キオ・スー家でノヴァルナの庇護下にあった、カーネギー=シヴァのクーデターに加担し、蜂起と共にイマーガラ軍もオ・ワーリ宙域へ侵攻。イル・ワークラン家との戦闘で動けないノヴァルナ軍の隙を突いて、本拠地オ・ワーリ=シーモア星系を制圧するよう、イマーガラ家に働きかけていたのだ。
「はい。ナルミラ星系に駐屯している、オガヴェイ様とも協議した結果」
シェイヤ=サヒナンは三十代半ばにして、大々名イマーガラ家の宰相―――筆頭家老を務める女性武将で、冷静沈着ながら勇猛果敢。しかもBSIパイロットとしてもイマーガラ家最強と言われている。
またオガヴェイ(モルトス=オガヴェイ)は、イマーガラ家古参の宿老で、宰相としてまだ若いシェイヤの、良き相談役を務めていた。
「我が申し出を、却下されると申されるか?」
「誠に遺憾ながら、時期尚早かと」
ライアンは家老であり、シェイヤは筆頭家老という上位の地位にいる。さらに年齢もライアンは二十代半ばであった。それでもシェイヤがライアンに対して丁寧な言葉遣いであるのは、性格的なものと、何より旧ミ・ガーワ宙域領主の家柄を尊重しての事だ。そしてそれゆえに、シェイヤ自らライアンの本拠地惑星まで、わざわざ出向いて来ていたのである。
「しかし、すでにオ・ワーリでは、シヴァ殿が動き出している。ノヴァルナ殿がイル・ワークラン家との戦いを始めた、今が好機と―――」
翻意を促そうとするライアン。するとそこへ、優先順位の高い事を示すコール音が小さく鳴り、シェイヤの手元で小ぶりなホログラムスクリーンが開く。画面上に流れる文字列を読み取ったシェイヤは、表情を変えずにライアンに向き直って、事務的な口調で告げた。
「情報部より連絡がありました。オ・ワーリ宙域においてイル・ワークラン家は、キオ・スー家との戦いに敗北。惑星ラゴルもすでにキオ・スー家の支配下にあり、また同時に、カーネギー=シヴァ姫は軟禁状態に置かれ、クーデター計画も頓挫したようです」
「!!!!」
茫然とするライアンを前に、シェイヤは悠然と立ち上がって「どうやら、これ以上はお話する必要もないでしょう」と冷たく言う。そして会見場所をあとにして、自分の艦へ戻りながら、これでいい…と思う。イマーガラ家は現在、キヨウ上洛のための大規模な遠征軍編制を始めたところである。いまはそちらに集中すべきであり、小細工を弄さずとも二年もすればその遠征軍が、上洛の道すがらオ・ワーリの全宙域を呑み込んでいくであろうからだ………
一方ノヴァルナ艦隊に同行し、ラゴンへ向かっていたアイノンザン星系艦隊の総旗艦『エルオルクス』では、ヴァルキス=ウォーダが司令官室で、まだ十代と思われる、中性的な印象の若い副官に自分の考えを話していた。
「ノヴァルナ殿も案外、甘いものだ」
「は?」
「カダールの事だ」
「………」
無言の副官に構わず、ヴァルキスはさらに言葉を続ける。
「見せしめに殺してしまえば良いものを…生かしておいてやるとはな」
「同じ一族として、温情をかけられたのでしょう」
副官が当たり障りのない範囲でそう言うと、ヴァルキスはすかさず「それが甘いのだ」と応じた。
「カダール、ノヴァルナ…そして私。この中であとの二人と戦い、勝利し、捕らえたとして、生かしておくのは、ノヴァルナ様だけに違いあるまい」
副官に対してそう続けてから、しばし考える眼をしたヴァルキスは「やはり、殺しておくか…」と剣呑な事をポツリと呟いて、インターコムの操作パネルに指を触れると、艦橋への回線を繋げる。
「諜報部参謀はいるか? いたら私のところへ来るように」
ヴァルキスの言葉にしばらくすると、諜報部参謀の肩書に似つかわしくないような、筋肉質の男が司令官室へ姿を現した。
「お呼びでしょうか?」
執務机の前に大股で進み出た諜報部参謀に、ヴァルキスは端的に切り出す。
「カダールとともに追放された者の中に、パクタ=アクタというスケイド人の側近がいる。カダールに追従口しか言わぬ、矮小な男だ」
「はっ」
「諜報部員を使って買収し、カダールを殺させろ。事故を装うなり、毒を盛るなり、手段は任せる」
僅かに眉を動かす諜報部参謀。ヴァルキスはさらに続ける。
「報酬は思いのままだと言え。ただし取引では現実的な範囲でな。なんなら我がアイノンザン=ウォーダ家が召し抱えてやってもよい、とな」
「は…」
「そして首尾よくカダールを殺害したならば、口を封じろ」
「万が一自分が殺された際は、カダール殺害がヴァルキス様の指示であった事を、公表するような仕掛けをしていた場合は、いかが致します?」
諜報部参謀の言葉にも一理ある。パクタのような人間は、そういった“最期の悪あがき”を実際に用意する可能性を考慮すべきであった。「ふむ…」と指先を顎に置いたヴァルキスは少し思考を巡らせ、抑揚のない声で指示を出す。
「その場合は…ノヴァルナ様のご指示で殺害したという話になるように、情報操作を行え」
それを聞いた諜報部参謀は、異論なし…といった表情で頭を下げた。
「御意…」
▶#18につづく
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