銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

文字の大きさ
上 下
406 / 508
第19話:勝利への選択

#16

しおりを挟む
 
 ノヴァルナからのキオ・スー=ウォーダ家の直臣への登用を、一度は断ったユンカース=マーティだったが。再度の説得によって翻意した。
 断った理由は、カダールの命令に従ったためとはいえ、『ウキノー星雲会戦』で多くの兵を死なせた事に、責任を感じていたからだ。そしてその気持ちを変えたのがノヴァルナの、「それなら兵を、無駄に死なせないようにするため」の仕事を、してくれという言葉―――つまり外交関係のポストを任せる、という発言があったためである。

 現在キオ・スー=ウォーダ家では、外務担当家老としてテシウス=ラームと、元サイドゥ家の武将コーティ=フーマの二人がいるが、ノヴァルナはこの先の構想を考えるにあたり、外交能力も上げたいと思っていたのだ。カダールとも対峙するだけの胆力を持つマティスなら、他の星大名や皇国貴族との外交交渉も、上手くやるだろうという、ノヴァルナの判断だった。

 一方でノヴァルナは、イル・ワークラン家の家老達は容赦なく職を解任し、閑職へ回した。カダールのイエスマンなど、何人いようが使えはしないからだ。



 あとの戦後処理について、大まかな指示を出したノヴァルナは、一度ラゴンへ戻る事を周囲に伝達した。向こうは向こうで、謀叛を起こそうとしたカーネギー=シヴァ姫一党へ対する、裁可を下さねばならないのだ。
 しかしすぐにまたラゴルへ来る事になるのは必至で、当分は行ったり来たりを繰り返す事になりそうであった。

「ウォルフベルト殿とサンザーの艦隊は、引き続きラゴルの衛星軌道上へ留まり、両司令官には当面の軍政を任せる」

 そう通達を出したノヴァルナは、翌日には早くも第1艦隊と、『ウキノー星雲会戦』で損害を受け、修理が必要な他の艦隊の宇宙艦を率い、ヴァルキス=ウォーダのアイノンザン星系艦隊とともに、ラゴンへ向けて出発した。



 ラゴンを離れた総旗艦『ヒテン』の私室区画で、ソファーに寝そべったノヴァルナは、「んんー…」と背中を伸ばして大きく息を吐く。結局のところイル・ワークラン城は他人の城であり、どこに居ても息が抜けない部分があったため、今は『ヒテン』の私室の方が、のんびり出来るというわけである。

「なーんか、忙しくなりそーで、いやっぽいぜ」

 ノヴァルナがそう言うと、同じ部屋の中でネイミアと共に事務処理をしている、キノッサが口を開いた。

「でも、良かったじゃないッスか。ラゴルの住民達にもノヴァルナ様は、概ね好意的に見られてるみたいですし」

 キノッサのそんな言葉に、ネイミアも同調する。

「そうですよ。これもこの前の、“世直し旅”のおかげですね」

 ネイミアにそう言われて、ノヴァルナは苦笑いしながら手指で頭を掻いた。
 
 “ノヴァルナの世直し旅”…それは紛れもなく、先日のノヴァルナのキヨウ行きの事であった。

 皇都惑星キヨウを自分の眼で見聞し、星帥皇テルーザに拝謁する事が目的であったあの旅だが、その途中の行きがかりで、惑星ガヌーバの温泉郷救済や、中立宙域に勢力圏を張っていた『ヴァンドルデン・フォース』の撃破。さらには皇都での、現在の妻であるノア姫の救出劇などが、最近になってオ・ワーリ宙域内のNNLの情報サイトなどで話題になり、“ノヴァルナの世直し旅”として領民達の間に広まり始めていたのである。

 そもそもナグヤ=ウォーダ家時代から、ノヴァルナは重臣達や世間の評判は悪くとも、裏表のない接し方で、前線で戦う一般兵からの人気は悪くなかった。そして当然、その評判は一般兵の家族や知人も共有し、潜在的にノヴァルナを評価する声はあったのである。
 それがやがて三年前より、NNLの情報コミュニティーサイトの大手『iちゃんねる』の『星大名・政治板』において、それまでノヴァルナ批判スレばかりであったのが、“ノヴァルナ擁護スレ”なるものが立つようになり、星大名ノヴァルナを再評価する流れは、世間の水面下に存在するようになっていった。それが今回の、“ノヴァルナ世直し旅”で顕在化し始めたのだろう。

 この評価の上昇と、イル・ワークラン家の惑星ラゴルでは惑星ラゴンのように、昔のノヴァルナの“悪行”を実際に目の当たりにした市民もいない事から、今回のカダールを追放したノヴァルナの行為を、多くの市民が“暴君から自分達を解放してくれた”と良い方へ解釈していたのだ。

 ただノヴァルナは、その“世直し旅”話の出処に心当たりがあった。ソファーに寝そべったまま、それとなく“容疑者”に声を掛ける。

「…ったく、どっかの誰かがSNSで複アカ使って、そんなヨタ話をバンバン流しやがるから、面倒な事だぜ」

「まったく、誰なんでしょうなぁ…」

 すっとぼける容疑者その1。

「ですよねぇ…」

 と同調する容疑者その2。

「そういうのってさぁ…情報操作ってヤツじゃね?」

 二人のどちらへともなく、暢気な口調で問い掛けるノヴァルナ。しかし二人の容疑者は気にする風もなく、適当な返事をする。

「そうなんスか?」

「ノヴァルナ様。コーヒーが入りましたよぉ」

 ノヴァルナはやれやれ…と、もう一度手指で頭を掻きながら体を起こし、ネイミアが淹れたコーヒーの入るカップを受け取った………





▶#17につづく
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

【完結】聖女ディアの処刑

大盛★無料
ファンタジー
平民のディアは、聖女の力を持っていた。 枯れた草木を蘇らせ、結界を張って魔獣を防ぎ、人々の病や傷を癒し、教会で朝から晩まで働いていた。 「怪我をしても、鍛錬しなくても、きちんと作物を育てなくても大丈夫。あの平民の聖女がなんとかしてくれる」 聖女に助けてもらうのが当たり前になり、みんな感謝を忘れていく。「ありがとう」の一言さえもらえないのに、無垢で心優しいディアは奇跡を起こし続ける。 そんななか、イルミテラという公爵令嬢に、聖女の印が現れた。 ディアは偽物と糾弾され、国民の前で処刑されることになるのだが―― ※ざまあちょっぴり!←ちょっぴりじゃなくなってきました(;´・ω・) ※サクッとかる~くお楽しみくださいませ!(*´ω`*)←ちょっと重くなってきました(;´・ω・) ★追記 ※残酷なシーンがちょっぴりありますが、週刊少年ジャンプレベルなので特に年齢制限は設けておりません。 ※乳児が地面に落っこちる、運河の氾濫など災害の描写が数行あります。ご留意くださいませ。 ※ちょこちょこ書き直しています。セリフをカッコ良くしたり、状況を補足したりする程度なので、本筋には大きく影響なくお楽しみ頂けると思います。

処理中です...