銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

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第14話:死線を超える風雲児

#16

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「ゴぶぉ!!!!」

 叫び声と共に前屈みになったドフの口から、大量の鮮血が噴き出して、パイロットスーツの前面を赤く染め上げる。だがドフはまだ死には至らない。

「バハ…バハ!…バハハ!!…」

 鬼の形相でありながら、なおも笑い声を漏らすドフの『リュウガDC』は、左手で『センクウNX』の首根っこを掴み上げ、右手に持つポジトロンランスの先を、ノヴァルナが座るコクピットのある腹部に突き立てた。電子対消滅の光も眩く、腹部装甲板に穴を開け始めるドフの鑓。

「た!…戦いに生き、戦いに死す!…こ、これぞ武人の本懐…」

 ノヴァルナを道連れにしようとするドフは、唸るように言いながら、最後の力を振り絞った。だがその鑓先が『センクウNX』のコクピット内にまで達する寸前、ノヴァルナは無表情のまま、とどめの一撃で、さらにQブレードを深く突き込んで静かに告げる。

「ああ、あんたはぇえよ…」

 ブチリと自分の命が途切れる感覚に、ドフは「お見事…であります………」と言い残して、見開いた双眸の光を失わせた。そしてその聴覚はもはや、ノヴァルナの続けた言葉を聞く事もない。


「…だが、あんたは武人じゃねぇ」


 武人と言うなら、戦いの中で自分に与えられた役目を果たすものである。ドフはしかし、『ヴァンドルデン・フォース』のBSI部隊を統括する身でありながら、いつしかノヴァルナを斃すという己の戦いにのみ執着し、周囲を全く見なくなっていたのだ。

 そしてその間に戦況は再び転換していた。

 ベグン=ドフの戦死の直前、『ヴァンドルデン・フォース』の旗艦『ゴルワン』に座乗する、ラフ・ザスのもとへ思いもよらぬ報告が飛び込んで来たのだ。それは彼等の戦力の内、一隻だけあった軽空母の喪失である。しかもこれを撃破したのはモルタナの乗る『クーギス党』の輸送艦、『プリティー・ドーター』だった。

「ざまぁみな!!」

 爆発を起こして漂い始める軽空母へモルタナが捨て台詞を残し、離脱を図る『プリティー・ドーター』の左右には、それぞれ一隻の海賊船(宙雷艇)が並んでいる。
 『プリティー・ドーター』は元は星大名ロッガ家の軍用輸送艦であり、武装民間船以上の砲戦能力は有していた。それが艦載機発進後に、戦場から距離を置いていた『ヴァンドルデン・フォース』の軽空母へ忍び寄り、砲撃戦を挑んだのだ。

 軽空母も砲戦能力は知れているが、輸送艦一隻を相手にする事ぐらいは可能である。“命知らずめ”と応戦を始めた軽空母だったが、モルタナは何ら臆せず『プリティー・ドーター』でさらに距離を詰めると、隠し持っていたナイフのように、二隻の海賊船を緊急発進させた。『プリティー・ドーター』の格納庫内で、すでに宇宙魚雷の発射準備を終えていた海賊船は、発艦とほぼ同時に宇宙魚雷を発射。モルタナの海賊流の戦い方の前に、軽空母はあえなく最期を遂げたのである。
 
 母艦の喪失は、『ヴァンドルデン・フォース』のBSI部隊に、大きな動揺をもたらした。そしてノヴァルナが指摘した通り、ベグン=ドフは自分自身の戦いに固執し、ラフ・ザスに命じられたBSI部隊の指揮を疎かにしていた。
 これに対しノヴァルナは、『クーギス党』中心のBSI部隊の指揮そのものは、『ホロウシュ』のヨリューダッカ=ハッチと、カール=モ・リーラに任せているので問題ない。本来はラフ・ザスの旗艦を狙って出撃したノヴァルナであり、指揮を部下に任せていた事で、こちらはドフとの戦いに専念する事ができたのだ。

 母艦の喪失で混乱を始めた『ヴァンドルデン・フォース』のBSI部隊に、ハッチとモ・リーラが率いる『クーギス党』のBSI部隊が、一気に攻勢をかける。

「全機、突撃。押し出しますぜ!」

 強い煽り口調のハッチ。母艦を失った『ヴァンドルデン・フォース』のBSI部隊は、なすすべもなく撃破され始めた。そしてドフがノヴァルナに斃されたのが、まさにBSI部隊総監の指示が必要なこの時だったのだ。

「ドフ様の『リュウガDC』、反応消失。撃破されたもよう!!」

 オペレーターの報告に、『ゴルワン』の艦橋は凍り付いたような空気が流れる。ラフ・ザスは顔には感情を表立って見せなかったが、拳を硬く握り締めた。もよやあの狂戦士が、敗れるとは思っていなかったのだ。それと同時に、ようやく自分の判断が誤っていた事に気付く。
 あのドフが簡単に斃されるはずがなく、一騎打ちで斃されたのであれば、相手となったノヴァルナも死にもの狂いで立ち向かったと思われる。
 となると自分が推測していた、惑星ザーランダ付近での、キオ・スー艦隊の待ち伏せという線は怪しくなる。待ち伏せ艦隊がいるのであれば、ノヴァルナに必要なのは時間稼ぎであって、死にもの狂いで斃す事ではないのだ。

 するとラフ・ザスのもとへ、次々と宇宙艦の損害報告が入り始めた。こちら側のBSI部隊が壊滅的な状況に陥り、第一次攻撃以来、距離を置いて戦況が動くのを待っていた、『クーギス党』の海賊船部隊が、襲撃行動を再開したのである。

 しかもラフ・ザスの『ゴルワン』と二隻の戦艦が、惑星ザーランダを目指して主戦場から離れた位置にいた事が、他の宇宙艦にとって仇となった。戦力の分散となり、戦艦の援護を受けられない軽巡航艦や駆逐艦が、餌食になる結果を招いたのである。ベグン=ドフと軽空母の喪失が発端となり、『ヴァンドルデン・フォース』の崩壊が始まった………




▶#17につづく
 
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