銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

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第14話:死線を超える風雲児

#15

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 ドフは悦に入りながらノヴァルナらの銃撃を回避し、反撃のライフルを放つ。その一撃は増援に来たばかりの、ササーラの『シデンSC』を襲った。
 ササーラとて操縦の技量はランには及ばないものの、並のパイロットではなく、乗っている機体も親衛隊仕様機だ。しかしロックオン警報が鳴るのとほぼ同時に、銃弾を受けたのでは逃れようがない。エネルギーシールドを張っている駆逐艦を、一撃で行動不能に陥れるほど強力な『リュウガDC』のライフル弾で、ササーラの『シデンSC』は右腕を肩ごとと、頭部の右半分を吹き飛ばされた。

「ぬあああっ!!」叫ぶササーラ。

「ササーラ!!」とラン。

「バッハハハハハ!!」大笑いのドフ。

「野郎!!」機体を加速させるノヴァルナ。ライフルにはもう残弾がない。

 超電磁ライフルを持った右腕ごと、機体の右上半身を失ったササーラだったが、自身は無事で、機体そのものはまだ動く。左腕でQブレードを逆手に掴み取ると、「まだまだァ!」と声を上げて吶喊を続けた。それをドフがやり過ごしたのは、ランが狙撃を目論んでいたからだ。
 通過際にササーラ機の脇腹を蹴りつけたドフの『リュウガDC』は、そのまま機体を半回転させ、まるでガンマンの早打ち勝負のように、ランの『シデンSC』とライフルを撃ち合う。その瞬間、危機を感じたランは反射的に超電磁ライフルを手放して機体を翻した。ドフの銃弾はその超電磁ライフルに命中して、大きな爆発を引き起こした。

 ランが機体を立て直す間に、ドフはササーラにとどめを刺そうとする。しかしそこへ間合いを詰めて来た『センクウNX』が、ポジトロンパイクを構えて割って入る。“トランサー”の能力が発動しているノヴァルナの速攻は、ドフであっても全てを見切れるわけではない。『センクウNX』の斬撃を、かろうじて鑓の柄で打ち防ぐドフ。ノヴァルナは強い口調で、ササーラに撤退を命じた。

「ササーラ、下がれ!! 反論は許さん!」

 さらに体勢を立て直したランの『シデンSC』も、猛然と『リュウガDC』に切りかかる。だがそれらをドフは、目にもとまらぬ速さで防御した。

「バハッ、バハッ、バハハッ!!」

 右へ左へ、上へ下へ、『リュウガDC』のポジトロンランスが振り回されて、ノヴァルナとランの陽電子の鉾を跳ね返す。だがノヴァルナの『センクウNX』は、左腕が動かない。その死角を突いてドフの反撃の鑓が繰り出された。ただその穂先の前にいたのはランの機体である。ランは『センクウNX』の左腕の状況を知り、死角をカバーする位置を取っていたのだ。『リュウガDC』の鑓がランの機体の胸板を刺し貫く。

「バハッハァ!! 狙い通り!!」

 ドフの狙いは最初から、主君の機体の死角をカバーしていた、ランだったのだ。BSHO並みの機動性を持つ、ランの機体を侮れないと見抜いたドフは、『センクウNX』の左側に回り込んで鑓の刺突を放ち、ランがノヴァルナを守る盾になるよう仕向けたのである。

「くううっ!!」

 メリメリメリという衝撃と共に、ランの『シデンSC』のコクピット内を覆う、全周囲モニターが前面で赤く染まり、機外脱出を促す警報音がヘルメットの中で、けたたましく鳴り始める。機体の胸板を貫いたドフのポジトロンランスが、その奥のバックパックにまで達し、内蔵された小型対消滅反応炉に、重大な損害を与えたのだ。突き刺された個所から、大量の赤いプラズマが噴出するさまは、血飛沫のようにも見える。

「ラン!」

 ノヴァルナはランの機体の前面へ出て、ポジトロンパイクの斬撃をドフに浴びせる。しかし素早く機体を引かせるドフには当たらない。ただこの斬撃の目的は、そのドフを引かせるためのものだ。ノヴァルナはランに呼びかける。

「ラン、脱出しろ!!」

「しかし!!」

 ランは機体が爆発するのなら、ドフの『リュウガDC』も道連れにしようと考えていたのだった。そしてそれは無論、彼女の主君たるノヴァルナも見抜いている。

「四の五の言うな! この程度のヤロゥに、自分の命を使うんじゃねぇっ!!」

「ですが!―――」

「るせぇ! 脱出しろ!!」

 ノヴァルナに叱りつけられて、ランは歯を喰いしばり、シートの右側に取り付けられている脱出レバーを引いた。その間にドフが超電磁ライフルで反撃して来る。

「この程度とは、聞き捨てなりませんなぁ!!!!」

 『シデンSC』の腹部に小爆発が起こり、ランの乗る球体構造のコクピットが、そのまま脱出ポッドとして宇宙空間に放出された。それと同時にドフの射撃を弾こうとした、『センクウNX』のポジトロンパイクの刃が、銃弾の高い威力によって砕け散る。
 そして直後にランの『シデンSC』も、『センクウNX』の至近距離で爆発。ここまで繰り返して来たドフとの斬り合いで、すでに外部装甲板がズタズタになっていた『センクウNX』は、この爆発によって、剥き出しになっていた内部構造に、複数個所でダメージを喰らった。
 しかもその一つは深刻だ。超電磁ライフルは弾が尽き、ポジトロンパイクは刃が砕かれた『センクウNX』に残っていた、唯一の武器、クァンタムブレードが起動しなくなったのである。

「名残惜しいですが、これで終わりであります!!!!」

 “トランサー”の発動でNNLを通し、ノヴァルナの機体の状況を把握しているドフは、ポジトロンランスを手に一気に突進して来た。
 


死のうは一定―――



 死はこの世界の定めの一つに過ぎない…それがノヴァルナの死生観である。だがそれは、目の前に置かれた死を漫然と受け入れるものではなかった。死を定めの一つに過ぎぬものとして覚悟を持って乗り越え、その先にある更なる生を掴み取ろうとするものである。

「おさらば、さらばァアアア!!!!」

 四つのセンサーアイを赤く輝かせ、叫びながら迫るドフの『リュウガDC』。もはや『センクウNX』に使用できる武器はない。しかしノヴァルナは諦めてはいなかった。

 いや、ドフの動きが直線的になった、この瞬間を待っていたと言っていい。

「おおおりゃあああああ!!!!」

 雄叫びを上げたノヴァルナは『センクウNX』の右手で、左の手首を掴むと、最大出力で引っ張った。『リュウガDC』の高威力ライフル弾で腋を大きく抉られていた、『センクウNX』の左腕の肩関節駆動部は、伸び出したケーブル類をブチブチブチと断裂しつつ根元から引きちぎれる。
 そしてノヴァルナは、『リュウガDC』のポジトロンランスを紙一重で躱すと、自ら引きちぎった『センクウNX』の左腕で、『リュウガDC』の頭部を猛然と殴りつけた。

「うおァッ!!??」

 意表を突かれたドフが声を上げる。メインセンサー類が集まる頭部は、どのようなBSIユニットでも装甲が薄く、脆弱だ。四つのセンサーアイを持つ、『リュウガDC』の頭部がひしゃげて変形。コクピットの全周囲モニターがブラックアウトした。
 視界が閉ざされた中で、反射的にポジトロンランスを横に振るうドフ。しかしノヴァルナは『センクウNX』の機体を屈ませている。そしてそれは反撃を回避するためではない。ノヴァルナの目的は『リュウガDC』の左腰に提げられた、クァンタムブレードだ。素早く奪い取る『センクウNX』。

 その時、ドフの『リュウガDC』の全周囲モニターの一部が、サブシステムで復活した。そこに映るのは目の前の『センクウNX』である。

「おおおのれぇええええ!!!!」

 余裕を失ったドフは、血走った両眼を見開き、鬼のような表情でポジトロンランスを振るった。だが“トランサー”の力をコントロールするのは、集中力と平常心だ。『リュウガDC』から奪ったQブレードを、『センクウNX』はカウンターで突き出す。ブレードには安全装置があり、他の機体が奪って使用しても刃の量子分解フィールドは発生しない。
 しかしノヴァルナが狙ったのは、この一騎打ちの前半で『リュウガDC』の左脇腹へ与えていた、裂傷だったのだ。装甲板を割り開き、内部構造にまでダメージを受けたその裂傷に、ノヴァルナはQブレードを突き込んだ。鋭い先端がコクピットの中にまで達し、ベグン=ドフの肥った腹を大きく裂いた。




▶#16につづく
 
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