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第14話:死線を超える風雲児

#17

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「重巡『テヴァル・ラウ』大破!」

「軽巡『ナルス』、『リクニトス』爆発!」

「駆逐艦『ク・カロス』、『レキニー』、『ジノン』爆発!」

 次々ともたらされる艦隊の損害報告に、自らの不覚を痛感したラフ・ザスは、艦隊に再集結を命じた。取得した情報の分析と、そこから導き出す敵の作戦予想に失敗したのは、明らかにラフ・ザスの誤判断によるものである。
 こことは別の世界の海上戦でも、艦隊決戦を挑み、実際には居なかった敵艦隊を居ると誤判断。いわゆる“謎の大反転”を行って敗退した海軍があるように、一つの判断の間違いか、決定的な敗北を招くのが戦場の恐ろしさであった。

 この動きに対し、ノヴァルナ側も一時的に兵を退く。ノヴァルナとベグン=ドフの一騎打ちが始まった辺りから、個々の部隊が半ば独自の行動をとったため、全軍の統制が取れなくなって来ており、『ヴァンドルデン・フォース』の後退を、自分達も戦力を立て直す機会と捉えたのだ。

「ヴァンドルデン閣下」

「申し訳ございません」

 ラフ・ザスの参謀達も謝罪の言葉を口にする。的確な意見を出せなかったという悔恨の思いが募ったのだろう。ラフ・ザスは“気にする事は無い…”と彼等を片手で制し、集まって来た残存艦に対して命令を発した。

「生き残った全艦に告げる。ノヴァルナ殿の戦力は、ここにあるだけと判断した。これより作戦を修正。ノヴァルナ殿の部隊を殲滅し、しかるのちにザーランダに対し艦砲射撃を敢行。惑星全域を焦土と化す。一意専心、総員かかれ!」

 仕切り直しである。だがしかし、『ヴァンドルデン・フォース』は幾つかの艦に加え、BSI部隊総監のベグン=ドフを失って、開戦劈頭のようなアドヴァンテージは得られない。

 一方ノヴァルナも、旗艦の『クォルガルード』へ戻って来た。『センクウNX』は左腕を失った上に満身創痍の状態で、超電磁ライフルの残弾もゼロとなっているからだ。そして彼を護衛するランは機体を失い、ササーラの機体も大破して使い物にはならない。

 ところがノヴァルナは帰投するなり、格納庫で出迎えた整備班長に命じる。

「弾倉の補給。弾種は対艦徹甲弾のみ。それと右腕だけでいい、完全に動くようにしてくれ! 俺は艦橋にいるから、整備が完了したらすぐに呼べ!」

 その言葉を聞いた整備班長は、両目を吊り上げて抗議した。

「そんな無茶なご命令、承服出来かねます!」

 “死ぬ気ですか!?”と続けたいが、そこまで言うと不敬になると判断し、整備班長が言葉を呑み込んだのは、ノヴァルナも察するところだった。ただそうかといってこちらも譲るつもりはない。

「出来なくてもやれ!」

 星大名として、ラフ・ザスとの決着だけは、自分の手でつけねばならない…そんな思いから、叩きつけるように言って、ノヴァルナは艦橋へ通じるエレベーターに駆け込んだ。
 
「そのようなご命令、承服できかねます」

 艦橋に上がって、自分の次の手を告げたノヴァルナに対し、艦長のマグナーが整備班長と同じ言葉で抗議する。こちらは整備班長より幾分、控え目な声のトーンではあったが。その代わりランとササーラが無言ながら、刺すような視線で翻意を促して来た。

「元々ヴァンドルデンの艦は、俺が叩く予定だったんだ。別にいいだろ」

「ですが今の殿下の機体状況で、護衛も無しにお出しするわけには参りません」

 マグナー大佐がそう言うと、ササーラが進言する。

「せめてハッチとモ・リーラを呼び寄せて、護衛にお付け下さい」

 しかしノヴァルナはそれに首を振って、拒否した。

「そいつぁ駄目だ。あいつらには『クーギス党』の指揮を任せてある。あの二人は『クーギス党』と運命を共にするのが、今回の任務だ」

 ノヴァルナがヨリューダッカ=ハッチとカール=モ・リーラの二人に、『クーギス党』の指揮を任せたのは、高性能の親衛隊仕様機に搭乗する彼等を矢面に立たせて、ASGULや攻撃艇しか保有していない『クーギス党』の戦力を、守らせるためでもある。
 幾らモルタナ達『クーギス党』も、以前から『ヴァンドルデン・フォース』の存在に否定的だったとしても、今回の戦いに巻き込んだのは自分の責任だという認識と、そしてそのモルタナ達に命を懸けさせるのなら、自分達がまず矢面に立たねばならないという決意が、ノヴァルナにはあった。

 そこにオペレーターからの報告が入る。

「敵艦隊が動きを再開しました…こちらへ向かって来るもよう」

「望むところだ」

 ノヴァルナはそう言いながら、パイロットスーツ姿のまま司令官席に腰を下ろした。ヘルメットを膝の上に置き、『センクウNX』の応急修理が終われば、すぐに格納庫に向かう事ができるようにする。

「キノッサの奴の駆逐艦は無事か?」とノヴァルナ。

「は…一隻は撃破されましたが、四隻が健在です」

 マグナーの返答に頷いたノヴァルナは、何か考えがあるのか、接近する『ヴァンドルデン・フォース』の残存艦隊の様子を、ホログラムスクリーンに見据えながら指示を出した。

「ヤツといつでも連絡が取れるように、調整しといてくれ」

 再編した『ヴァンドルデン・フォース』は、戦艦3・重巡1・軽巡3・駆逐艦2まで減っており、ラフ・ザスの旗艦『ゴルワン』を中心に、楔型陣を取って接近して来る。そして重巡はかなりのダメージを受けており、ついて来ているだけの状態に近い。さらにベグン=ドフは戦死、BSI部隊はほぼ壊滅している。ただ三隻の戦艦は、一隻に宇宙魚雷が一本命中しただけで、あとは損害らしい損害を受けてはいない。

「しんどいのは…こっからだぜ」

 ノヴァルナは、自分に言い聞かせるように独り言ちた………




▶#18につづく
 
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