銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

文字の大きさ
12 / 508
第1話:大義の名のもとに

#11

しおりを挟む
 
 だがこのヴァルツの艦隊出動―――よく考えれば、腑に落ちない事がある。

 それは、キオ・スー家のダイ・ゼン=サーガイが今回の対ナグヤ家戦で、イマーガラ家から伝えられた施策では、イマーガラ家側に寝返ったナルミラ星系独立管領ヤーベングルツ家と、イマーガラ家のモルトス=オガヴェイが艦隊を出動させ、ヴァルツ艦隊をモルザン星系に足止めさせるはずであったからだ。

 連戦で消耗して艦艇数は減ってはいるが、ウォーダ一族の中でも勇猛で鳴らした精鋭のモルザン星系艦隊は、ナグヤ側の大きな主戦力である。そんな彼等を参加させない事が、今回のキオ・スー側の作戦の根幹を成す案件の一つであった。そのヴァルツ艦隊が何事も無くモルザン星系を後にし、ノヴァルナの援護のためオ・ワーリ=シーモア星系へ向かったのだから、どこかで齟齬が起きたのだ。

 その齟齬の原因は先日、ノヴァルナがミ・ガーワ宙域内まで遠征して、同盟の契りを果たし、ムラキルス星系で共同作戦を行った、独立管領ミズンノッド家である。

 イマーガラ軍の圧迫で窮地に立たされていたミズンノッド家当主シン・ガンは、新当主ノヴァルナ自ら指揮を執り、ナグヤ軍全力出撃で応援にやって来た事に対し、大変な恩義を感じていた。

 そのためミズンノッド家は、ナルミラ星系で艦隊出撃の動きがあるのを察知すると、即座にノヴァルナに連絡。それと同時に先のムラキルス星系攻防戦を生き延びた、残存艦隊の全てをナルミラ星系方向へ出動させたのだ。

 こうなるとヤーベングルツ家とモルトス=オガヴェイは、部隊を動かせなくなった。ナルミラ星系を空けると、ミズンノッド艦隊の襲撃を受ける恐れが出て来たのである。

 ヤーベングルツとオガヴェイのどちらか一方をナルミラ星系に残し、他方をモルザン星系へ向かわせる手もあるが、オガヴェイの本来の役目は、ヤーベングルツ家の監視であるためそれは出来ない。

 結局、ヤーベングルツ家もオガヴェイも部隊を動かす事が出来ず、難を逃れたヴァルツ=ウォーダはノヴァルナからの要請に従って、モルザン星系恒星間打撃艦隊を出動させたのだった。

 ただ…イマーガラ家への忠義に全てを懸けたあのセッサーラ=タンゲンが、己の死に際して遺した戦略が、果たしてこの程度の事で挫折するものであろうか?

その答えが分かるのは、もう少し先の話である―――

 ともかくヴァルツ率いるモルザン星系艦隊の出現は、彼等がオ・ワーリ=シーモア星系外縁部に超空間転移した直後、驚愕をもってキオ・スー家首脳陣の知るところとなった。そしてそれと前後して、ヤーベングルツ家から、本拠地ナルミラ星系へミズンノッド艦隊接近につき、外征不能の連絡があったのである。周囲の反対を押し切って同盟国への信義を通したノヴァルナの行動が、この時になって生きて来たというものだった。

 一方、キオ・スー城では窮余の策として、およそ八十隻ある星系防衛艦隊の三分の二をヴァルツ艦隊の迎撃に差し向け、残り三分の一を惑星ラゴンの反対方向から、ナグヤ家の本営であるナグヤ城へ向かわせる事を決定した。ただしこれは、ナグヤ側の星系防衛艦隊約三十隻を引き付けるためで、こうする事でキオ・スーとナグヤ双方の主戦力となる、恒星間打撃部隊の数的優位を維持しようと考えたのである。

 キオ・スー城地下の総司令部では、ディトモス・キオ=ウォーダが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、巨大な戦術状況ホログラムを見上げて、傍らの筆頭家老ダイ・ゼン=サーガイに問い質した。

「本当に勝てるのであろうな、ダイ・ゼン!?」

「お任せあれ」

 重々しく頷いたダイ・ゼンは、巨大ホログラムスクリーンとNNLで連動した、小型のホログラムスクリーンを眼前に展開し、それを指先で操作し始める。スクリーンには惑星ラゴンとその月が表示されており、平面であったスクリーンからそれらが飛び出して、文字通りの立体映像で二人の前に浮かび上がった。

 月の艦隊基地『ムーンベース・アルバ』はキオ・スー家が保有しており、一方のナグヤ家は、ナグヤ城上空に艦隊駐留基地の『ショウ・ヴァン』がある。

 ノヴァルナ率いるナグヤ艦隊の目的は、この『ムーンベース・アルバ』から発進して、『ショウ・ヴァン』とナグヤ城へ艦砲射撃を目論む、キオ・スー艦隊の迎撃であると推察できた。そうなるとキオ・スー家からすれば、総司令官のカーネギー=シヴァよりノヴァルナを屠るのが主目的であるから、叩くべきはナグヤ艦隊であるのは明白だ。

「ノヴァルナ艦隊との戦場は、我等に選ぶ権利があります」

 これが我等の最大の優位点にございます―――と続けたダイ・ゼンは、さらにディトモスに作戦の主旨を述べる。それを聞き終えたディトモスは納得顔で頷き、「うむ。頼んだぞ」とダイ・ゼンに告げた………




▶#12につづく
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転

小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。 人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。 防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。 どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...